第40話 おじさんからの依頼⑩
ごちそうさまだよ。
ふぅ~、美味しかった~。
途中フェチョナルさんが自分のを分けてくれたし、いっぱい食べられて大満足。
良いお昼だったな。
さて、腹ごしらえもしたし次に行くよ。
お次は、
③メイルくんの案
「ふぅ~、お腹いっぱいだよ~」
お腹さんパンパン。
もう食べられないな。
「ミチル、満足なのは良いんだけど、しばらくまともに動けないよね。何かあった時にそれじゃ困ると思うんだけど」
「大丈夫だよ。これくらい冒険者で慣れてるよ」
特殊な訓練を積んでるから。
そこのところは安心してほしいな。
「でもさっき寝ようとしてたよね。僕心配なんだけど」
「それはまあ、食後だから仕方ないよ」
睡魔さんはいつも容赦ない。
多めに見てほしいな。
「ところでメイル。お前の案は何なんだ?」
たしかに、気になるよ。
昨日ステューシーさんに色々レクチャーしてたもん。
「それなんだけど、もう実行してあるんだ」
「んっ、どういうことかな?」
「事前にステューシーさんと話し合ってるんだ。デート中の心得というか、ちょっとしたアドバイスを彼女に伝えてある」
と言うと?
「デート中はなるべく笑顔でいたり、相手の投げかけに対して反応を良くする。話す時は出来るだけ相手の目を見ながらとか」
ふむふむ。
「あとは勝手に絶望して逃げ出したり、下を向いて自信無さそうにする、そういうのは無しとか。まあ大体そんな感じ」
なるほどだよ。
あっ、たしかにステューシーさん。
おじさんの方を向いてるし、笑顔で楽しそうに見えるよ。
雰囲気いいよ。
昨日みたいな悲壮感がなりを潜めてる。
はえ~、メイルくんのおかげだったんだ。
「少し味気なくはないか?」
「いや、フェチョナルさんのが濃すぎなんだよ」
ああいうのもうやめてほしいな。
「そうか? ワタシとしてはもっと大胆に行った方が良いと思うが」
もうダメ、全部却下だよ。
メッ、メッ!
「いや待て。ワタシのは基本ジジババ共からの受け売りだ。もう時代にそぐわない可能性も……」
知らないよ。
って言うか今さらだね。
自己完結しかけないでほしいな。
「話しかけても反応が薄かったら、振った側は良い気はしない。隣でずっと暗そうされていたら、この人楽しくないのかなって思っちゃうよね」
それはそう。
無反応さんは悲しいよ。
「話の間でちゃんと相槌を打ったり、相手の目を見ながらだったり。とにかくあなたに興味がありますって言うのを仕草で伝える。そういう何気ないことが大切だって僕は思うんだ」
はえ〜
「はあ、そう言うモノなのか?」
「まあ、こうは言っても本の受け売りなんだけど」
なんだか照れくさそうにしてる。
メイルくんらしいな。
「だからとりあえず今は2人を見守ろう」
わかったよ。
2人を温かい感じで見守るよ。
視線さん、ジ~ッ
「それでよ、俺はアイツに言ってやったんだ。『お前は自分を神だと思っている精神異常者だ』ってな」
「まあ……」
「そしたらアイツ、『お前はやってはいけないことをした!』って急に怒りだしてよ。いや、随分と余裕がない神様なんだな」
「ホントですね」
ステューシーさんの横顔。
自然と笑みが漏れてる。
最初と比べてお互いに打ち解けてる気がするよ。
今のところは問題ないね。
「んで結局憲兵に見つかっちまってな。今も牢獄にぶち込まれて──」
ピトッ
「ひゃいっ⁉」
あっ、白い。
鳥さんのフンだ。
ステューシーさんの肩に落ちてきた。
これには思わず声をあげてるよ。
そのままジッと動かないステューシーさん。
時間が止まったみたいになってる。
「あー、まあなんだ。そういう日もあるよな」
「はい、すみません……」
ハンカチさんで拭き取ってる。
まさか鳥さんにフンをかけるなんて思わないもん。
ツイてないね。
──食らえ! ウォーターボールの魔法!
バチンッ!
なんか急にゴムボールさんが飛んできたんだけど。
──や〜い! どこ狙ってる〜!
ゴムボールさんを持った子どもたちが駆け回って遊んでる。
その流れ弾の一つがステューシーさんの顔に直撃。
ポタポタ……
──あははは!
行っちゃったよ、子どもたち。
「……大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
中に入ってた水が拡散して、上半身水浸しだよ。
「よかったじゃねえか。ちょうど洗い流せてよ」
たしかに。
これでフンも拭き取りやすく──
って、そうじゃないよ。
全然良くないよ。
なんてフォローだよおじさん。
「すみません。たまにあるんですよね、不幸が連続することが」
フキフキ
「そうか、ソイツは──」
ガコッ
「ふえっ?」
小石さんにつまずいた。
「ぶがっ!」
そのままバタンッ
地面さんに顔面から盛大にダイブ。
シーン……
「大丈夫、じゃねえよな」
ステューシーさんに返事はない。
……ムクリ
あっ、起きた。
無事みたい。
──ウォーターボールの魔法!
バシャッ
あっ、また流れ弾がヒット。
また水浸しだよ。
馬車さんのこともそうだけど、今日はホントに災難だね。
ステューシーさん、ピクリとも動かない。
背中からしか見えないから表情も確認できないし。
うーん。
周りの人も見てるしやっぱり恥ずかしいのかな。
ちょっとみんな、ステューシーさんは見世物じゃないんだよ。
ほらっ、見てないであっち行ってほしいな。
シッだよ、シッシッ!
「まずい」
「んっ、メイルくん?」
まずいって何が、
「ステューシーさんの情緒だ。今ので崩壊したかもしれない」
「えっ、それって……」
どうなるのかな。
「うっ、うぅ……」
ステューシーさんの身体が震えてる。
まるで何かあふれ出すのを堪えてるみたいな。
あっ、もしかして昨日みたいに……
「ミチル、見てる場合じゃない! 早く落ち着かせないと!」
ゴソゴソ……バッ!
【落ち着いて。こういう時は一旦冷静に】
バッ!
【ここで取り乱したら今までの苦労が水の泡だ】
メイルくんの連投。
カキカキっと。
んっ、カンペさん完成したよ!
メイルくんに続くよ!
バッ!
【落ち着いてほしいな。こういう時は食べ物のことを考えるんだよ】
「ダメだよ! ここからじゃ全然気づいてもらえないよ!」
「でもこれが精一杯だ。続けるしかない」
バッ! バッ! バッ!
お願いだよステューシーさん!
お願いだからこっち見てほしいな!
「おい、ワタシだけ状況が分からないぞ。平常を失ったらどうなるんだ?」
「ごめん、今は説明してる暇は──」
ジワ……
「うっ、うぅ……」
あっ、
「いやああああ! なんで、なんで今日に限ってえええ!」
バッ!
「私何か悪いことをしましたか⁉ そんなに日頃が行いが悪いって言うんですか⁉」
あー……
「そうです! 全部私が悪いんです! 根暗の分際で調子に乗ってすみませんすみませんすみませんうわあああ! うわああああん!!!」
い、色々爆発しちゃってるよ……
良い大人が路上にうずくまって泣き喚いてる。
流石にこれはちょっと見ていられないな。
「まあその、アレだ。一度落ち着いてからだな」
おじさんすごく困ってる。
「うわああああん! ごべんなざあああい!」
「あー、どうしたもんかねえ……」
もう手に負えないって感じだよ。
「終わったな。デートは上手く行かなかった。依頼は失敗だ」
「いや、なにゲームオーバーに持って行こうとしてるんだよ」
勝手に締めないでほしいな。
「まだ何も終わってないよ。ねっ、メイルくん」
これくらい全然。
まだまだこれからだよ。
……って、あれ?
「メイルくん?」
返事がないよ。
どうしたのかなって、
あっ、
メイルくん、固まってるよ……
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