第41話 おじさんからの依頼⑪

 ──それからのデートは暗いモノだった。

 

 下を向いてどんよりと歩くステューシーさん。

 さっきのことがずっと尾を引いてるみたい。

 おじさんが励まそうとしても、何か話題を持ちかけても、ただ申し訳なそうにするだけ

 

 最初らへんの楽しそうな雰囲気はどこ吹く風さん。

 これじゃとてもじゃないけどデートには見えない。

 

 いや、何してるんだよ。

 もう4時間はずっとこうだよ。

 落ち込んでるのは分かるけど、いい加減立ち直ってほしいな。

 流石に見てるこっちも辛いよ。


 飽きて帰ろうとするフェチョナルさんを引き留めるの大変なんだよ。

 こっちの苦労も分かってほしいな。


「小腹が空いたな。何か食うか?」


 おじさんの問いかけ。


 はい、私は賛成だよ。

 何か甘いモノとか食べたいな。

 はい、はい!


「やめとくか」

 

 ステューシーさんの返事はない。

 無念だよ。


「おっ! この張り紙は例の幽霊屋敷じゃねえか。なになに、50年ぶりにリフォームされて綺麗になったそうだ」


 返事はない。


「噂では妖精がいるって話だ。汚さないなら自由に観覧可能だってよ。どうだ、ちょっくら行ってみるか?」

 

 返事はないよ。

 おじさんが何を言っても空気が重くなるばかり。 


「なあ、そろそろ機嫌直してくれよ」


 流石のおじさんもしびれを切らした。

 今までよく耐えたと思うな。

 賞賛に値するよ。

 

「すみません、せっかく誘って下さったのに」


 やっと口を開いた。


「きっと罰が下ったんだと思います。自分のことなのに、誰かに頼ろうとして……」


 それって私たちのことかな。

 えっ、それ言っちゃう?


「今回のお出かけ、すごく楽しみだったのに、私……っ」


 あっ、また泣きそう。

 

「まあなんだ、不幸体質ってヤツなんだろうな。気にしてもキリがねえと思うぞ」

「ですが……」

「かまわねえよ。面倒ごとなら前にいた弟子で慣れているからな。アイツに比べればまだ全然マシってもんよ」


 はえ~、そんなに手のかかるお弟子さんがいたんだ。

 おじさんも大変だね。

 

「良い所を知ってるんだ。気分転換にどうだ、行ってみねえか?」

 

 良い場所?

 なんだろう、甘いモノとかあるのかな。




 

 

 

 ──そして、


「着いたぞ」


 ふ~っ、あれから30分くらい歩いたよ。

 ずっと歩きっぱなしだから疲れたな。


「メイル、足は痛くないか? 疲れたならワタシがおんぶしてやるぞ」

「別に。これくらい平気さ」

「そうか。おいミチル、お前の雇い主が辛そうだ。おんぶしてやったらどうだ」

「嫌だよ」


 なんで私が。

 むしろ私がおんぶして貰いたいくらいだよ

  

「おし、ちょうど良い時間帯だな」


 ここは高台さん。

 街の郊外にある高い所。


「ほれ、見てみろよ」

 

 おじさんの言う先には、目一杯に広がる街並み。

 赤ずんだ空に浮かぶ、真っ赤な夕日さん。

 

「……綺麗、ですね」


 ステューシーさん、微妙そう。

 だって顔にそう出てる。

 夕日さんより先に沈んでるもん。

 

 ここは街で一番高いところで有名。

 ここからなら街全体を一望できる。

 しかも綺麗な夕日さんが見れらてお得なんだ。

 人気はないけど、これでも一応は観光名所ってヤツだよ。


「たしかにデートでは定番の場所だが、如何せん定番が過ぎる」

「そうかな、僕は良いと思うけど。流石に難癖つけすぎじゃない?」

「お前はロマンチストだからな」

「なにさ、キミにだけは言われたくないよ」

 

 おじさん的にはコレを見せたかったんだろうけど。

 ごめんだよ。

 今さらこんな所に連れてこられても何とも思わないかな。

 

「本当はもうちょい暗くなってからのが良いんだが、たまにはこっちも悪くないもんだな」


 おじさんは夜景派らしい。

 星空スポットでもあるからね。


「この景色を見ていると、なんだろうな。自分の存在がちっぽけに思えちまう。コイツを前に色々どうでもよくなって、俺はなに小さいことで悩んでるんだろうってな」


 ふーん。

 

「嫌なことがあったらここによく来てるんだ。星を眺めにな。中々絶景だぞ」


 そうなんだ。

 私は嫌なことがあった日は、早く寝ることをおすすめするよ。


「羨ましいです。私には到底……」

「あん?」 

「この景色を見ても、例え夜空を眺めても、考えるのはいつも失敗したことばかり。なんであんなことしたんだろう。ああすれば良かったのに。浮かんでくるのは後悔しかないんです」

 

 ネガティブさん。


「毎晩そうなんです。今日だって、ずっと引きずって……」

「はあ、それで良いんじゃねえの?」

「へっ……?」


 むっ

 

「あー、俺も大した事は言えねえが、失敗と向き合えるってのは大切だ。過ちを認めるのは簡単じゃねえからな。だがやり過ぎるのも良くねえ。罪悪感に押しつぶされて擦り減っていく一方だ」


 たしかに。

 罪悪感さんって辛いよね。

 ほどほどにした方がいいかも。


「まあでも、性格なら仕方ねえよ。無理に変えろとは言わないし、悪いとも思わねえ。逆を返せばそれがお前の良い所だよ」

 

 俺の前ではありのままでいろ的な。

 おじさんはそう言いたいのかな?

 

「こ、このままで良いんですか? でも……」

「ああ、いい。それによ、コイツは夢……いや、願望に近いな。今は1人だが、いつかコイツを隣で眺めてくれるような、そういうヤツがいてくれたらと思ってな」

 

 それって……


「その相手なんだが……まあその、なんだ」 


 おじさん、気まずそうに目を横にそらしてる。


 ステューシーさんも気づいたみたい。

 顔をキューって真っ赤にしてる。

 夕陽さんみたいに。

 

 フフッ。

 やっぱりお似合いだよ、2人とも。


「どう見ても良い雰囲気だ。これはチャンスかもしれないな」


 んっ、フェチョナルさん?


「なにかな? チャンスって」

「決まっている。策だ。今からワタシの策を実行する。言っておくがとっておきだぞ」


 いや、とっておきって……


「これ以上の長居は無用だ。僕らはもう帰ろう」

「メイルくんの言う通りだよ。2人なら大丈夫だと思うな」


 もう邪魔しない方が…… 


「いいや、まだ物足りない。ワタシが最後の一押しを決めてやる。メイル、お前はここで待機していろ。ミチル、お前はワタシに続け」


 ザッ!


「あっ、フェチョナルさん!」


 もうっ、ちょっとは耳を傾けようよ。


「おうおうおう! おい、あんちゃんたち、こんなヘンピな所で何をしている!」


 ザッ!

 

「あん? なんだ?」 

「ここはワタシのテリトリーだ」

「テリトリーって、おい、ここは公共の──」

「今決まった。それを許可なく入るとは良い度胸だ。あ~ん?」


 介入しちゃったよ……

 フェチョナルさんが黒いメガネをかけて、おじさんたちにダル絡みしてる。


「しかも彼女連れか? なんだ、ワタシへの当てつけか? あ~ん?」

「すみません、その、子どもはもう家に帰った方が……」

「やめろ! ワタシは大人だぞ!」

「ひぃっ⁉ 失礼しました! すみませんすみません!」

 

 チラッ 


 あっ、フェチョナルさんがこっちを見た。

 お前も早く来いって目してるよ。


 そんなこと言われたって、う〜ん……

 あんまり気が乗らないな。


「行かなくていいよ。もう手遅れだし」


 メイルくんはそう言うけど、このままだとフェチョナルさんが可哀そうだよ。

 全然怖がられてないもん。

 見てるこっちが居たたまれなくなっちゃうな。


 どうしようかな。

 う~ん……

  

 決めた!

 もうどうにでもなれだよ!

 

 ザッ!


 あっ、そうだ。

 忘れてた。


 ④フェチョナルさんの案パート2だよ!


 ザッ!


 ステューシーさん、ごめんだよ。

 ちょっと背後を失礼するよ。


「捕まえたよ!」

 

 ガシッ 


「動かないでほしいな! 大人しくしないと痛い目を見るよ!」

「えっ? ミチルさん、一体なにを……」

「言うことを聞いてほしいな!」


 抵抗するとこうだよ。

 杖さんグイグイ。


 もう乗かった船さん。

 ここは不本意だけどやられ役に徹するよ。


「いいのかな! 彼女さんがどうなっても知らないよ!」


 フェチョナルさんが頷いてくれた。

 こういう事で良いんだよね。


 大丈夫だよ。

 なにせ変装さんは完璧だから多少表に出たくらいで──

 

「お前ら、何してんだ?」

 

 ……へっ?


「ったくよ、ずっと着けられてるとは思っていたが、やっぱりお前らだったか」


 あれ、これもうバレてない?


「はんっ、知らないな。それよりこちらの要求を早く飲まなければ──」

「ブロード、お前もう飯は奢ってやらねえぞ」

「んなっ⁉ ダメだ! そいつは困る!」


 役がちょくちょく崩れてるよ。


「今月はコイツらの依頼料でピンチなんだ! 頼む! 後生だ!」

「はあ、本当に何してんのかねえ」


 あーあ、やっぱりグダグダだよ。

 こうなると思ってたよ。


「ほらっ、だから止めた方が良いって言ったんだよ。私ちゃんと言ったよ、何かしても邪魔になるだけだって」

「いや、元はと言えばお前が真剣にやらないからだろ!」

「むっ、私なりに真剣にやったよ! なのにそんな言い方はないと思うな!」


 人のせいにしないでほしいな!


 ワーワーワー!


「せっかく良い雰囲気だったのに! おかげで台無しだよ!」

「なにを! 女が悪いヤツらに絡まれてる所にカッコよく参上する。恋愛の定石だろうが!」

「知らないよ! 高齢者の話を全部鵜呑みにしないでほしいな!」



 もうっ、ホントどうしてくれるんだよ!

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