第39話 おじさんからの依頼⑨

 まったく、フェチョナルさんに任せたらロクなことにならないよ。

 そりゃあ結果的には上手く行ったけど、ホント偶々。

 馬車さんに感謝してほしいな。


 はあ、もうトホホだよ。

 疲れたし帰りたいな。


 まあいいよ。

 これが今回の依頼なんだし、これ以上の文句はやめておくよ。

 気を取り直して次行くとするよ。

 

 さてお次は、そうだよ。

 

 みんなお待ちかね。


 ②私の案


「あっ、2人がお店に入ったよ!」


 計画通り。

 私たちもすぐ後を追うよ。


「ミチル、ここって……」

「いいから入るよ!」

  

 チリン、チリン


 ここは飲食店。

 ギルドのクチコミで美味しいって話題なんだ。

 お店はまだ出来たばかりだから新しくて綺麗。


 建物も大きくて中も広い。

 これならバレる心配なく美味しいモノが食べられる良いお店だよ。

 

 あらかじめステューシーさんに言っておいたんだ。

 ご飯の時間になったらこのお店に入ってほしいな、お願いするよって。

 ちゃんと覚えてくれて良かったよ。


 メニューさんピラッ


「はえ~、どれにしようかな」


 色々あって決められない。

 ここは天国さんだよ。

 

「単にお前が食いたいだけなんじゃないのか?」

 

 被害妄想さん。

 全然そんなことないよフェチョナルさん。


「相変わらずその食い意地は健在だな」


 いいんだよ。

 私は前回誰かさんのおかげでヘトヘトなんだよ。

 こうやってどこかで息抜きしないとやってられないんだよ。

 

 それにいま私、お腹が減ってちょっとイライラしてる。

 これは何か美味しいモノを食べないと収まらないよ。

 文句あるかな、ないよね。

 

「文句ばっかり言ってる人にはメニューさん見せてあげないよ。ほらっ、メイルくんはどれがいいかな」


 見ていいよ。

 私のお隣にいるメイルくん。

  

「こういうところは初めてでよく分からないから、ミチルと同じヤツにするよ」

「そっか。じゃあこれでいいかな?」

「うん、お願い」

「食べきれなくなったら私が貰うね」


 一緒に食べようね。


「みんな決まったね。店員さん! 注文だよ!」 


 ビシッ

 

 早く来てほしいな。

 


 ──そして、


「う~ん! 美味しいよ!」

 

 お口に広がるいっぱい幸せさん。


「美味しい! 美味しいよメイルくん!」


 もう最高だよ。

 これはもう全ての食べ物に感謝だよ。


 手が止まらないな。

 

「ミチル落ち着いて。ほらっ、口元についてる」

「えっ、そんな、どこかな?」

「ここ」

 

 メイルくんがふき取ってくれた。

 んっ、ありがとうだよ。

 メイルくんは優しいね。


「いつもこうなのか?」

「そうだね。おやつの時間はいつも頬張ってるよ。僕もどうにか落ち着かせようとはしてるんだけど」


 違うんだよ。

 普段はお行儀よく食べようって心がけてはいるんだよ。

 でもご飯があまりにも美味しいから我慢できなくて。

 こればっかりはどうにもならないと思うな


「僕は良いと思うけど。ミチルらしくて」

「まったく、ワタシの目の前でイチャつくな。まっ昼間から何を見せられてるんだ」

 

 最近思うんだ。

 ご飯が美味しすぎるのが悪いんじゃないかって。

 だから仕方のないことなんじゃないかって


 そう、私に罪はないんだよ。

 逆にこんなの我慢してたら失礼だと思うな。

 身体が悪くなっちゃう。


「本当にいいのか? ただ食べるだけなんて」 


 ん?


「ただ見守るってのもまた考えモノだ。何か指示を出した方が良いんじゃないか?」

「指示って例えばなに?」

「ああ、こういう時はズバリ、『あーん』が鉄板だろう」


 いや、あーんってそんな。

 新婚夫婦じゃないんだから。


 ……はあ、


「いいんだよ。美味しいモノをみんなで囲んで食べる。それだけで人は幸せになれるんだよ」


 家族で行くのもよし。

 友だちで行くのもよし。

 もちろん恋人同士でも。

 美味しいモノにかかれば全て万事解決さんなんだよ。


 ほらっ、見てほしいな。

 おじさんとステューシーさんを。

 2人とも美味しそうに食べてる。


 お互いに無理しないで自然体さん。

 心なしか話も弾んでるように見えて、良い雰囲気だよ。


 遠くてあんまり聞こえないけど、雰囲気的に食べ物の話だよ。

 絶対食べ物の話で盛り上がってるよ。

 

 この場を提供した私に感謝してほしいな。


「ほらメイル、あーん」


 ……って、


「何してるのさ」


 メイルくんの顔近くにスプーンさんが。

 フェチョナルさんの手から伸びてる。


「何って『あーん』だ。ワタシが食べさせてやる」

 

 食べたいだなんて、メイルくんは一言も言ってないけど。


「お揃いが仇になったな」

「どういう意味さ」

「さあ? 分かってるだろ?」 


 フェチョナルさん。

 なんかすごいニヤニヤしてるけど。

 楽しそうにしないでほしいな。

 

「ほらっ、口を開けろ。あーん」

「ちょっと、僕はそんなはしたないことは……」

「気にするな。ワタシも気にしない」

「いや、だから僕は……」

「フフッ、どうした。ワタシからの『あーん』なんて滅多にないぞ。お前も男なら──」


 んじゃ遠慮なく、いただきますだよ!


 グイッ、パクッ!


「あっ……」

 

 モグモグモグ


 ……はっ⁉

 

「美味しい! 美味しいよフェチョナルさん!」


 う~ん! 口の中が震えるよ~!

 すっごく美味しいな!


「もっと食べたいな!」


 一口じゃ全然足りない!

 ワンモアタイムお願いするよ!


「あーん……はっ! 私のはあげないよ! 見ないでほしいな!」


 一口も渡さないよ!

 これは私のだから、私が全部食べるんだよ!

 

 サッ

 

 取られないように手で覆うよ。


 はあ~、これで安心だよ~。

 食べ物を貰って油断してるところを、危なかったよ。

 気をつけないと。

 

「……メイル、お前色々大変だな」 

「僕は別に」

「無理するな」

「……うん」


 サッ

 

 

 そんな目で見ても無駄だよ。

 諦めてほしいな。

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