第38話 おじさんからの依頼⑧

 今回のデート、作戦はこうだよ。

 事前に1人ずつ案を用意してあって、順番に実行してもらう。

 

 いわゆる発表形式、違うかな?

 まあ細かいことはいいんだよ。

 とりあえずそう言うことだから、よろしくだよ。


 まずは、

 

 ①フェチョナルさんの案

 

「任せておけ。男女の仲が急接近する、その重要な鍵を握るのはズバリ、ボディタッチだ」


 ワイワイワイ


 ここは商店街の露店エリア。

 色んな出店があって比較的賑やかだよ。


 ジ~ッ


 ステューシーさん。

 何やら露店にある伝統工芸品に目をやってる。

 様子からして結構真剣に。

 

「そういうのが好きなのか?」

「……あっ、すみません」


 ハッとなってる。

 おじさんと一緒なの忘れてたのかな。

 

「その、つい。可愛くて」

「はん? これが可愛いのか?」


 おじさん。

 ミニ呪い藁人形みたいなのをいぶかしげに手に取ってる。

 

「実は家にたくさん飾ってまして……悪趣味ですよね。すみません」

「ほう、俺にはよく分からねえな。まあ人それぞれだからな。良いんじゃねえの?」


 なんだよその微妙なフォローは。

 そんなことない、可愛いよって同調してあげなよ。

 たとえ可愛くなくても。


「はい……」

 

 ほらっ、ステューシーさんも落ち込んでるよ。

 恥ずかしいのかな、顔も若干赤いし。


 まったく、これだからおじさんは。

 もっとデリカシーさんってモノを学んだ方がいいと思うな。


「おっ、ならこんなのも良いんじゃねえか」


 ジャラッ


 そう言っておじさんが手に取ったのは、緑の小人付いてるストラップ。

 ゴブリンみたいでグロテスクさんで、なんだか絶叫顔。

 言っちゃ悪いけど、かなり悪趣味だよ。

 なんでこんなデザインなのかな。

 

「か、可愛いです」

「マジかよ、冗談のつもりで言ったんだが……」


 おじさん引いてる。

 なぜかときめいてるステューシーさんの隣で。


「ですが、少しお値段が……」


 渋る金額らしい。

 あんな悪趣味なデザインなのに、その上ぼったくりさんかな?


「おやっさん、コイツを一つくれ」

「えっ、買われるんですか?」

「ああ、お前にやる」

「えっ、そんな、悪いですよ。こんな高価のモノ……」

 

 気前の良さが役に立ってる。


「ほれ、欲しいんだろ?」

「うぅっ、ですが……」


 チラッ


 あっ、こっちに助けを求めてきた。


 【こういう時は素直さんが大事だよ】


 あげるって言ってるんだから貰っておきなよ。

 親切心は受け取るべきだよ。

 

 これは私のカンペさん。

 こういう場面を予見して用意しておいたんだ。


 うん、ステューシーさんも頷いてくれたよ

 

「あ、あの! 私もください、同じヤツを!」


 って、ん?


「あん? なに言ってんだ? コイツはお前のために」

「私も買います! 私だけ悪いですし」


 あの、カンペさんと行動が違うよ。


「いや、俺は別にこんなモノ……」

「買いました! どうぞ!」

 

 バッ!


「お、おう……ありがとな。じゃあ俺も」

「はい、ありがとうございます」


 お互いに購入して、それをあげた。

 一連さんの行動。

 ただ同じモノを交換しただけに見えるけど


「なるほど。お揃い、共通のアイテムか」


 フェチョナルさん?


「まさかその形に持っていくとは。ステューシーとやら、中々の策士だ」


 勝手にフムフムしてる。

 一見さんファインプレーのように見えるけど、ただテンパってただけだと思うな。


「お揃い……」


 メイルくん?

 真剣そうな顔してるけど、


「ひょっとしてメイルくんも欲しいのかな? なら後で買ってあげるよ」


 たまには奮発しても良いんじゃないかな。

 私これでも超待遇だから、少しくらいお値段張っても、


「別に、僕はいらない」

「そうかな? ならいいんだけど」


 何なんだろう、う〜ん……


「2人が動き出した。僕らも行こう」

「ああ、了解だ」


 そうだね。

 尾行再開だよ。



 2人とも次の目的地を目指して歩いてる。

 私たちも一定の距離感で尾行してるよ。


「ステューシーさん、何だか嬉しそう」


 本人は気づいてないかもだけど、藁人形を見て微笑んでる。

 お揃いだし。

 おじさんから貰えたのがよっぽど嬉しかったんだ。


「良い雰囲気だ。コイツは絶好のチャンスだな」

「んっ、フェチョナルさん、チャンスってなにかな?」


 たしか最初の方にボディタッチがどうとか言ってたけど、

 

「いや、今は比較的良い雰囲気だから、ソッとしてあげた方がいい」

「メイルくんの言う通りだよ。私も邪魔しない方がいいと思うな」


 このまま自然の流れに、


「見ていろ。ワタシが2人の仲をさらに深めてやる」


 聞いてないし。

 

 フェチョナルさん。

 用意したカンペさんの中からゴソゴソして


 バッ


 【腕組みだ! 相手の腕に絡みつけ!】


「ちょっ、何とんでもない指示を出してるのかな!」

「男女の進展において肌の触れ合いが一番だ。これ以上直接的なアピールは存在しない」

「飛ばし過ぎだよ! もっと順序とか考えようよ!」


 2人はまだ付き合ってないんだよ。

 まだ様子見の段階でソレはないと思うな。


「ミチル、手が邪魔でなんて書いてあるのか見えないんだけど」

「メイルくんは見ちゃダメだよ!」


 子どもには見せられないよ。

 分かってほしいな。

 

「なぜだ? 両想いなら別に問題ないだろう」

「問題大ありだよ!」


 ほらっ、見てよ。

 ステューシーさんギョッってなってる。

 急に無理難題引っ掛けられて案の定テンパってるよ。


 おじさんの腕に手を伸ばしてはサッと引っ込めて。

 やりたいことは分かるんだけど、挙動がおかしいよ。


 せっかく今まで落ち着いて良い感じだったのに。

 どうしてくれるのかな。


「どうかしたか?」

「あっ、い、いえ……」


 まずいよ。

 おじさんが不信に思ってる。

 

「チッ、どうやら少しハードルが高いようだ」

「そういう問題じゃないよ」

「小心者め。ならこっちで妥協してやる」


 聞いてないし。


 ガサゴソ……バッ!


 【寄りかかれ! 身体を相手に押し付けるんだ!】


「いや、変わってないよ! それほとんど同じだよ!」 

「あのステューシーとやら、暗い女だが見てくれは悪くないからな。あれですり寄れば大抵の男はイチコロだ」 

「なんてこと言ってくれてるのかな!」

 

 もうっ、なんですぐ色仕掛けさせようとするんだよ。

 そういうの良くないと思うな。

 

「ミチル、さっきから目が塞がって何も見えないんだけど」

「メイルくんはジッとしててほしいな!」


 絶対死守するよ!


「なんだ、たかが身体を預ける程度だぞ。そんなことも出来ないのか? 初心が過ぎる」 

「いや、だから無理なんだよ」

 

 ほらっ、ステューシーさんパンクしてる。

 顔を真っ赤にして何もできないでいるよ。

 頭から湯気さん出てるし、完全に容量オーバーだよ。

 

 ステューシーさんはそういうのに耐性がないんだよ。

 まだ手を繋ぐのすら厳しいって言うのに。

 もっと考えてカンペさん出してほしいな。

 

「さっきからどうした? 後ろの方に何かあるのか?」


 あっ、おじさんが。

 隠れるよ!


 サッ


「あん?」


 何とかバレずに済んだよ。

 でも危機一髪だったよ。


「おい、何もワタシまで隠れる必要はないだろう」

「ダメだよ、フェチョナルさん色々と目立つんだし」

「それはどういう意味だ」


 そのままの意味だよ。


「僕もそう思う。これからの事を考えても見られないに越したことはない」

 

 そうだよ。

 良いこと言うよメイルくん。


「それとミチル、苦しいんだけど」

「あっ、ごめんだよ」


 すぐ開放するよ。

 

 んっ、そろそろいいかな。

 また覗きを再開するよ。

 

「お前、少し顔赤くないか?」


 あっ、

 

「へっ?」

「熱でもあるんじゃねえか? 悪い、ちょっといいか」

 

 おじさんの手が、ステューシーさんのおでこに……


 バシンッ! ヒヒイイイイインッ!


「んなっ⁉」


 急に暴走した馬車さんが!

 

 猛スピードで2人に向かって、


 まずいよ! 危ないよ!


「くっ!」


 あっ、おじさん、

 ステューシーさんを素早く抱き寄せて回避


 ガラガラガラ!


「おい! 危ねえだろ! 制御できねえなら乗るんじゃねえ!」


 バシンッ! ヒヒイイイイインッ!


 うわ~、ヒヤッとしたよ。

 危なかったね。

 おじさんにまだ反射神経さんが残ってて良かったよ。


「ったく、物騒な世の中だなおい」


 おじさんに同意見。

 油断できない毎日だよ。


「大丈夫か?」


 すかさず安否の確認。

 

 あっ、ステューシーさん。

 おじさんを見たまま固まってる。

 完全に停止してる。


「意識あんのか? 怪我はねえはずだが」

 

 しきりに揺らしてるけど、相変わらず動かない。

 仕方ないよ。

 状況的にやむを得ないとはいえ急だもん。


「おっ、悪い」


 おじさんも状況に気づいたみたい。


「……あっ」


 ステューシーさんも戻ってきた。


「す、すみません、その、助かりました……」

「ああ」


 すごい気まずくなってる。

 お互い言葉が出ないままその場に立ち尽くしてる。

 どうするのかな。


「なんだか良い雰囲気だ」


 んっ、メイルくん?

 あっ、たしかに言われてみれば。

 初々しいって言うのかな。

 見方を変えればそういう風にも見えるよ。


「何はともあれ上手く行ったな。ワタシのおかげだ」


 

 いや、結果オーライが過ぎるよ。

 自分の手柄にしないでほしいな。

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