第37話 おじさんからの依頼⑦

「気になるヤツだ。誰かいないのか?」


 気になる人だって、


「なんでそんなこと聞くのかな?」


 また急だね。


「いや、なんてことはない。ただの恋バナの範疇だ。前回は魔物共に邪魔されて聞けずじまいだったろ。気になってな」


 そんな、私にガールズトークなんか振られても……


「う~ん、ちょっとそういうの興味ないかな」 


 正直、恋愛とかよく分からない。

 いまいち乗れないって言うか、反応に困ると言うか。

 これに関しては昔からそうなんだよ。


「ほう、意外と冷めてるんだな」

 

 そもそも人に話してどうこうなるとも思わない。

 あくまで心の奥に秘めておくモノであって、みんなでキャーキャーするは違うかなって。


「そうか。じゃあメイルはどうだ?」


 えっ、メイルくん?


「なんでそこでメイルくんが出るのかな」

「おっ! その反応は、やはりそうなのか」

「いや、ないよ。私はメイルくんのボディガード、あくまで雇用の関係だよ」


 厳密にはメイルくんのお父さんに雇われるだけ。

 そういうのじゃないよ。

 

「仕事は関係ないと思うが。意外とお堅いヤツなんだな。雰囲気に見合わず」


 それどういう意味だよ。

 フェチョナルさんは私のことをどう思ってるのかな。


 でも、


「そりゃあまあ、可愛いとは思うけど。好きかって言われると……」

「弟みたいな感じか?」


 う〜ん、たしかに。

 生意気なところもあるし。


 いや、それも違うような。

 じゃあいとこ? う~ん……

 

「やっぱり私とメイルくんじゃ結構年齢差があって、そういう対象としては……」


 何なんだろう。

 難しいな。

 

「そうか。ならワタシが貰ってもいいのか?」


 いや、貰うって、


「何を言ってるのかな。貰うってそんな、ビッチさんみたいな言い方」


 そっちだって経験ないクセに。

 あっちの意志とかもあるだろうし。

 簡単に言ってくれてるけど、メイルくんはファーストフードじゃないんだよ。

 

「そもそもメイルくんはまだ子どもだよ。そういうのはまだ早いと思うな」

「なんだ、大人だったらいいのか?」


 そういう問題じゃなくて、

 

「フッ、安心しろ、冗談だ。別にアイツを取る気はない」


 何なんだよ。

 だったら初めから言わないでほしいな。

 

「しかし結構ムキになっていたな。コイツは意外とあるんじゃないか?」

「むっ、なってないよ」


 もうっ、そうやってすぐからかう。

 寝顔の件もそうだけどやめてほしいな。


「まあとにかく、ワタシは全然アリだと思うぞ。ああ見えて素直で可愛いヤツだ。顔も悪くない。まだ子どもだが将来は絶対良い男になる」


 それは、まあそうだけど。


「おまけに貴族のお坊ちゃまだ。上手く行けば玉の輿に乗れるかもな。今のうちから唾をつけてもおいて損はないだろう」


 唾って、なにそれ。

 

 ……はあ、

 

「あのね、簡単に言ってるけど貴族にも色々あるんだよ。私たちみたいなパンピーさんの相手をしてる暇はないんだよ」


 たださえ最近は色々厳しいって言うのに。

 女遊びなんてイメージが悪くなるような迂闊さんなことはできないんだよ。


「許嫁とか、相手だってもういるかもしれないし」


 政略結婚とか色々複雑なんだよ。

 跡継ぎ問題とか。

 一人っ子のメイルくんはなおさらそう。

 

「そういうモノなのか?」

「そうだよ」


 もっと現実さんを見た方がいいと思うな。

 

「そうか。まあ、お前の場合は食い物が恋人みたいなモノか。一時期流行った肉食系女子ってヤツだな」

「むっ、失礼な。そういうフェチョナルさんだって付与魔法が恋人だよね。戦闘狂なこともだけど、パワー系女子に言われたくないよ」


 人のこと言えないと思うな。

 

「いや、案外そうでもない。前にも言った気がするが、ワタシの戦術は付与魔法に全部振り、非力な魔法使いでも戦えるよう魔力で誤魔化してるだけだ」


 出たよ。

 またロマンがどうとかペラペラさん。


「戦闘方だってパワー系と言うよりは技巧派だ。むしろ素の腕力だけならお前の方が──」

「知らないよ。もうっ、勝手に言ってなよ」


 ふんっ!

 

 はあ、まったく。

 ミホちゃんもそうだけど、なんで女子ってすぐこういう話になるのかな。

 やめてほしいな。

 もっとこう、スイーツの話とかしようよ。


「すまん、気を悪くしたな」

「もういいよ。無神経さんなのは知ってるし、今に始まったことじゃないし」

 

 もう色々慣れっ子だよ。


「フッ、そうか」


 なんで笑顔なのかな。

 散々人をおちょくっておいて。

 絶対反省してないよこの人。


「さっきから何をずっと話してるのさ。僕だけに尾行させて」


 メイルくんが呼んでる。


「2人とも僕の助手なんだから、しっかりしてほしい」

「なんだ、ワタシも入ってるのか?」

「当然」

 

 ごめん、いま行くよ。


「おい、ミチル」


 むっ、呼び止められた。

 まだ何かあるのかな。


「さっきの件だが、メイルの方は案外そうではないと思うぞ」

「んっ? それってどういう……」

「ああ。ワタシの見立てでは、おそらくお前のことが好きだな」


 えっ、それってメイルくんが?

 

「いや、何を根拠にそんなこと言ってるのかな?」

「ワタシの勘だ」

「勘ってそんな、野生じゃないんだから」

「言っておくが結構当たるぞ。ワタシは鋭いからな」 


 そんないかにもお墨付きって感じを出されても、

 

「ミチル、どうかした?」


 メイルくんが、私を?

 

「ずっと固まってるけど。僕の顔、何か変?」

「う、ううん、なんでもないよ」

「そう? なら良いけど」

「ほらっ、フェチョナルさんも行くよ。変なこと言わないでほしいな」

 


 うん。

 そんなワケないよ。

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