第36話 おじさんからの依頼⑥

 翌日、デートの日だよ。


「遅いね、ステューシーさん」


 おじさんはもうとっくに来てるのに。

 何をもたついてるのかな。


「いや、まだ待ち合わせの時間まで結構ある。プロソロと僕らが早すぎるんだ」


 メイルくん。

 

「そっか」

 

 張り切り過ぎちゃったみたい。


 ここは街の中心地にある、噴水さんのある広場さん。

 そのちょうど真ん中辺りにおじさんはいる。

 お相手さんが来るのをジッと待ってるよ。

 

 おじさん、やっぱり緊張してる。

 私たちが来るよりも先にいたみたいだけど。

 なんだかソワソワしてて面白いかも。


 当日さん。

 とりあえず晴れてよかったよ。


 あっ、私たちは近くのベンチさんに変装して潜んでるよ。

 前に買った黒いメガネさんに帽子さんを被ってる。


 チラッ、チラッ

 

 新聞を持ってカモフラージュしてるからバレないと思うな。

 ふむ、これは完璧さんかな?

 ちょっとバレる要素が見当たらないな。


 ところで、


「──遅いな」


 フェチョナルさん。


 ほらっ、森で魔晶石を探した時の依頼主。

 ヘルハウンドを一網打尽さんにした。

 図々しくて子どもみたいだけどこう見えて私より年上なんだ。


 久しぶり、会えて嬉しいな。


 それで、なんでここにいるのかな?

 なんでさも当たり前のように隣にいるのかな。


「僕が呼んだんだ。ローズの代わりに助っ人としてね」


 助っ人さん?

 

「ああ、また随分と面白そうなことをやっているな。ワタシも混ぜくれ」

「混ぜてくれって、そんな……」


 あの、これはお仕事でお遊びじゃないんだけど。

 楽しそうにしてるけど、そこんところちゃんとわかってるのかな。


 あっ、でもフェチョナルさんって、よくギルドの人にご飯を奢ってもらってるらしい。

 当然男の人からも奢ってもらってるよね。


 見た目だって結構可愛いし。

 私より年上だし。

 意外と経験あったりするのかな。


「任せておけ。ワタシ自身経験があるワケではないが、村のジジババ共から話はよく聞いている」


 あっ、


「男女の関係についてはかなり詳しいぞ! バシバシ頼ってくれて構わないからな!」


 ……まあいいよ。

 

 ロザリアさんは今回はお留守番。

 人様の色恋沙汰には興味ないんだって。

 別にいいとは思うけど、もっと言い方があると思うな。


 私にメイルくんに、フェチョナルさん。

 この3人で今日のデートが上手くようサポートするよ。


「ところでメイル、そのステューシーとやらは本当に来るのか?」

「来るけど、それがなにさ?」

「いや、デートって言うのは普通、相手を気遣って時間より早く来るモノだ。初めてならなおの事そうだろう」

 

 ふ〜ん、そう言うモノなんだ。


「もうすぐ時間だ。このまま来ない可能性も視野に入れた方が良い。そうなったらどうするんだ?」

 

 それはご高齢の方からの受け入り?


「う〜ん、流石に来ないってことはないと思うな」


 昨日のあの様子でそれはないと思う。

 やる気はあるようだったし。

 私たちもいっぱい鼓舞したし。


「まあ、女の人は準備に何かと時間がかかるんだよ」


 気長に待ってほしいな。

 余計な詮索はナンセンスだよ。

 

「そうだね。現にミチルもそうだし」

「いや、私のはただ単にお寝坊さんなだけで」

 

 中々お布団さんから抜け出せないだけであって別に。

 朝ごはんもいっぱい食べないとだし。

 言わせないでほしいな。


「おい、来たみたいだぞ」


 むっ、話をしていれば、


 ステューシーさんが現れたよ。

 少し息を切らしてるようだけど。

 

 遅刻したワケでもないのにペコペコしてる。

 ちゃんと間に合ってるよ。


 お洋服選びに時間でも掛かってたのかな?

 その割にはおじさんと同じでいつも通りだし。

 確かにいつも通りが一番って言うけど。

 悩んだ末の結局?


 それともやっぱり、ご飯に時間がかかったのかな?


「アイツかステューシーか。ふむ、見てくれは悪くない」

「そうかな?」


 一見さん、地味だけど。

 

「知らないのか? ああいう清楚な感じは男共から人気があるんだ。男慣れしてなさそうだから簡単に行けるんじゃないかって」

「はえ~、そうなんだ」 


 まあ、たしかにビッチさんよりはマシかな。

 盲点だったよ。

 まさか地味なのを逆手に取るなんて。

 ふ〜ん、最近の恋愛って結構奥深さんなんだね。

 

「ああ。だがああいうの限って意外と遊んでいるらしい。見えない所で……難しいな」


 めっちゃ怪しんでる。

 アレだよ。

 目に映るモノ全てが敵みたいな顔してるよ。

 ちょっとおじいちゃんおばあちゃんを信頼し過ぎだと思うな。

 

「いやブロード、彼女に限ってそれはない」

「ん、そうか? なぜ言い切れる?」

「うん、メイルくんの言う通りだよ。依頼主は他でもないステューシーさんだし」


 慣れてたら私たちの所になんかわざわざ来ない。

 普段の仕事ぶりからして演技だとは到底思えない。

 そこに関しては安心して良いと思うな。


「実際に話をしたから分かる。彼女は僕らと同類だ」 

「同類? まあ、お前がそこまで言うならいいが」


 納得してくれたみたい。

 

「あっ、動き出したみたいだ。僕らも追おう」


 ホントだ。

 2人が噴水場を離れて歩き出した。


「うん、了解だよメイルくん」

 

 サポート行動開始。

 2人が上手く行くように全力アシストするよ

 

 バレないように、見失わないように。

 一定の距離感を保ってのストーキングする


 チラッ


 一瞬、ステューシーさんが私たちを。

 大丈夫だよ、そんな不安そうにしなくても。

 変装は完璧だし、バレるようなヘマはしないよ。

 

 安心してほしいな。

 大丈夫だよ。

 こうやって見える位置から、ずっと見守ってるから。

 

 もちろんちゃんとサポートもするよ。

 意思疎通ができるようにカンペさんも用意してるワケだし。

 何かあったらそれですぐ対応できる。

 自分で言うのもなんだけど、結構手厚いと思うな。


「2人とも早く。遅れてる」


 先頭を歩くメイルくん。

 そんなに急がなくても大丈夫だと思うな。

 行先は分かってるんだし。

 

 ウキウキなのがバレバレだよ。

 まあ分かるよ。

 本来こういう事がやりたかったんだよね。

 たしかに、今やってることってちょっとした尾行みたいだもん。

 こうやってると探偵さんっぽい。

 

 楽しそうで何よりだよ。

 

「おい、ミチル。ちょっといいか」

「んっ?」


 私の横にいるフェチョナルさん。

 なにかな、急に話しかけてきて。


「お前、気になるヤツとかいないのか?」

「えっ? 気になる人?」



 なにかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る