第33話 おじさんからの依頼③
おじさん。
この中で誰か恋愛したことあるか、だって。
急になんなのかな。
でもたしかに。
言われてみればそうだよ。
私はともかくメイルくんはまだ子ども。
色々モテてはいるけど、まだそう言うのとは無縁のはず。
当然ロザリアさんも。
あっ、でもロザリアさんって人見知りさんだけど、一応かなりの美人さんではあるワケだし。
別にそういう経験の1つや2つあっても……
クイッ
……あっ
「ご心配には及びません。そういった知識は豊富です」
いや、それ本でだよね。
ただ本で集めただけの知識だよね。
あの、恋愛って色々諸説言われてるけど、やっぱり実際に経験してみるのが一番。
色々経験して自分なりのアプローチ法を見つける。
ある種の経験値を貯める的な。
ミホちゃんがそう言ってたし。
あれ? でもそう言うミホちゃんも……
「あの、一応僕も本でなら……」
遠慮気味に、メイルくん。
もしかしなくても、ここにいるみんなって誰も恋愛経験ない?
「やっぱりそうじゃねえか。はあ、悪いがこの話はなかったことに──」
「大丈夫。確かに経験はないけど知識はある。簡単なアドバイスならできるよ。だから早まらないで」
「ほう、例えばどんなだ?」
「そ、それは……」
メイルくんが焦ってるよ。
「共に苦難を乗り越えることです」
クイッ
「一説によれば苦楽を共にした男女には固い絆が生まれ、時にそれは愛情という形へと昇華されます。ですからそれを利用して──」
「ああそうかよ。冒険者じゃねえんだぞ」
……クイッ
「仲良くなるには何事もあいさつから。どうかな、プロソロは彼女とあいさつしてる?」
「いや、一言もないな」
「そっか。それは良くないね。ならまずはちょっとしたあいさつから始めよう。慣れてきたら軽い雑談をしたり、アイコンタクトを取ったり。そうやってさりげない言動で自分の存在を認知させるんだ」
ふむふむ、なるほど。
「あとは共通の趣味を持ったり、相手を褒めたり笑わせたり。とにかく親しみやすさを持たせることが大切。そうやって少しずつ距離を──」
「まずはお友だちからってヤツか? はんっ、悪いがそんな時間も心の余裕もねえ」
このおじさん文句ばっかりだね。
これはダメなんじゃないかな?
「……流石、ミチルの師匠なだけはある」
ボソったつもりだけど聞こえてるよ、メイルくん。
なんでこっちに飛び火するんだよ。
「はあ、やっぱり全然ダメじゃねえか。どうせ恥を描くなら同僚にでも相談しておくべきだったよ」
言い過ぎだと思うな。
自分だって相談するのが恥ずかしいからここに来てるクセに。
「力になれずごめん。ところでミチルはどう?」
「んっ、私?」
「うん、なにか良い案ない?」
アドバイスか。
う~ん……
「アドバイスとかじゃないけど、こういうのってとにかく自分からアクション起こさないとダメなんじゃないかな」
待ってても何も起きない。
「やっぱり積極的にアタックしていくしかないんじゃないかな? 玉砕覚悟で」
「そう言うもんか? だがあんまりガツガツ行くと怖がられはしないか?」
「まあ、それはご縁がなかったってことで諦めるしかないんじゃないかな」
合うか合わないか。
「フィーリングって言うのかな? 恋愛ってそんな感じだと思う」
ダメならダメで次に行く。
切り替えも重要だと思うな。
よく分からないけど。
「すごいミチル、なんだか現実的だ」
「流石Bランクだけあって違いますね。経験が豊富です」
「いや、ランクは関係ないと思うな」
なんか2人とも驚いてるし。
私だって経験ないんだからしっかりしてほしいな。
「チッ、随分簡単に言ってくれる。それが出来たら苦労しねえよ」
まだ言ってるよ、このおじさん。
「おじさんさあ、そんなんじゃいつまでも経っても進展しないよ。おじさんが一番分かってるんじゃないかな? このままじゃダメだって」
私に言われるまでもなくだよ。
「うぐっ……」
「どうかな。一度ステューシーさんを思い切ってお食事に誘ってみるっていうのは」
現状打破のための一手。
初めの一歩は大事だよ。
「確かにそうだな。だがよ、それでもし断れたら……」
「おじさん」
「いや、そうだよな。ウジウジしてても何も始まらねえよな」
むっ
「ありがとな。お前のおかげで目が覚めた。よし、いっちょやってみるか」
うん、よろしい。
「いや、案外誰かに話してみるもんだな。気が楽になったよ」
「ううん、礼には及ばないよ」
もっと感謝してほしいな。
「じゃあ早速行ってくるか」
ガタッ
「あっ、おじさん!」
「あん? 今度はなんだ?」
スッ
「頑張ってね、吉報を待ってるよ」
親指さんをグー
「……おう、任しとけ」
グー
バタンッ
出て行ったよ。
「ふう~、久々に良い仕事をしたな~」
気持ちの後押し。
解決ってワケじゃないけど、誰かのタメになると気持ちがいいな。
う~ん……ググッと。
背筋さん、伸び伸び~。
……って、ん?
2人ともどうしたのかな?
無言で私のことを見て。
「ミチルすごい、やっぱり師弟だ」
「はい。今のスムーズな流れ、歴を感じました」
「うん、入る隙がなかった」
……ホントなんなのかな。
──それから3日後、事務所。
本を、パタンッ
「おじさん、今頃どうしてるかな」
上手くやれてるかな。
パタンッ
「プロソロが心配?」
「それはそうだよメイルくん。だって……」
あんなに息巻いてたけどあの人、結構奥手っぽいところがあるし。
ちゃんとステューシーさん誘えたか不安だよ。
あれから3日、おじさんからの報告はない。
おかしいな。
流石にそろそろ何か進展があっても良い頃だと思う。
「誘いを断れて落ち込んでいるのではないでしょうか?」
「ローズ、すぐそう言うこと言う」
「いえ、あくまで可能性の話を」
「でもそっか、だとしたら僕らの顔向けできないのかも」
ちゃんと報告するって言ってたし。
それがないってことは、まだ行動に移せてないのかな。
もしかして絶賛ヘタレ中なんじゃ……
「ちょっと見てこようかな」
「それってギルドに? まだ様子を見た方がいいんじゃない?」
でも、う~ん……
「行っても邪魔になるだけだ。それにもしダメだったなら、今はソッとしといてあげた方がいいかもしれない」
だよねメイルくん、
「でも……」
──チリン、チリン
ベルの音。
もしかして、
「ご、ごめんくださ~い……」
違ったよ。
普通にお客さんだ。
物静かそうな女の人だよ。
「ようこそ、メイル探偵事務所へ」
キョロキョロしてる。
やっぱり初めてだから……ん? あれ?
ちょっと待ってよ。
この人、
「あっ、すみません……その、やっぱりいいです」
バタンッ
あっ!
「ちょっと待ってほしいな!」
外に出て、
ガシッ
捕まえたよ!
「ひえっ、な、何でもないんです! ただ寄ってみただけで、ホントなんです!」
「放さないよ!」
逃げないでほしいな!
「ひええ~、すみませんすみませんすみません!」
この人、ステューシーさんだよ!
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