第34話 おじさんからの依頼④

「さっきはごめん、うちの助手が驚かせちゃって」


 どうしよう。

 私、またやっちゃったよ……

 3日ぶりのお客さんなのに。


「ほらっ、ミチルも頭下げて」 

「うぅ、ごめんだよ、ステューシーさん」


 その、つい……

 悪気はなかったんだよ。


「いいんです、私も急に出て行こうとしましたから……」


 いいよ、気持ちはわかるから。

  

 改めて、この人はステューシーさん。

 腰まで伸びた綺麗な黒髪。

 服装はギルドの制服一式で最低限というか、良く言えば落ち着いてる感じ。


 前髪が目元にかかってて、何だか暗そうでパッとしない印象。


「すみません、こういうにお店に来るのは初めてでして……」

「大丈夫、みんな初めてだから安心して」

 

 あれから何とか引き留めたよ。

 半ば強引さんだったらから恐縮されちゃってるけど。

 まあ仕方ないよね、私も必死だったから。


 今は事務所に引き入れて、お客さん用ソファに座ってもらってる。


 おじさんのことで色々聞きたいのは山々だよ。

 でもここに来たってことは何かしらの悩みがあるってこと。

 だからとりあえずは一度、ステューシーさんの話を聞いてみようってことに。


 って、メイルくんがコソコソって。


 コトッ

 

「紅茶です」

「ありがとうございます」


 あっ、しまった。

 ロザリアさんが紅茶を、


「うぅっ⁉」

「おや? どうかされました?」

「い、いいえ、なんでもないです」

「そうですか」


 無理して飲んでるよ。

 ステューシーさん身体が震えてるもん。

 圧が掛かってるのがなんで分からないのかな。


「それで、ステューシーさんでよかったね」

「は、はいぃ……」

「改めて探偵事務所にようこそ。今日はどんな依頼でここへ?」


 メイルくんの言う通りだよ。 

 ステューシーさんのお悩み、私たちに聞かせてほしいな。

 

「やっぱり言わないとダメですか?」

「そうだね、せっかくここへ来たんだ。良い機会だと思って」

「わ、わかりました。ですがその、出来ればこの方は……」


 むっ、私の方を見てなにか言ってる。

 

「なにかな? もしかしてまた私抜きでって言いたいのかな?」


 おじさんと同じで。

 なんかパターン化してるんだけど。

 

「そんなつもりじゃ、ただ……」

「もうっ、なんなのかな。ハッキリしてほしいな」


 失礼だよ。

 

「ひいっ、すみませんすみません」


 もう、すぐそうやって謝る。

 ギルドにいる時もそうだけど、こっちが居た堪れなくなるからやめてほしいな。

 

「ミチル、相手が怖がってる」


 むっ


「あとちょっと静かにしてて。話が進まないから」

 

 怒られた。

 ごめんだよ。


「悪いけどミチルは僕の助手だから席は外せない」 

「そ、そうなんですね」

「それで僕らに頼みたいことって?」


 やっと本題さん。


「怒らないですよね……?」

「なんで怒らないといけないのかな」


 意味が分からないよ。


「実はその、私……好きな人がいるんです」


 へっ?


「好きな人? それって……」

「いえ、その……」


 まさかおじさん、失恋パターン?

 

「ミチル、まずは聞いてみよう」


 そうだね、とりあえず聞いてみるよ。

 

「その方は冒険者をやっています。職業は剣士でしょうか? 装備品からだとそう見えます」


 奇遇だね。

 おじさんも一応剣士だよ。


「私と違って人当たりが良くて親しみやすくて。頼りになるから皆さんからとても慕われているんです」

 

 みんなから慕われてて親しみやすい人?

 そんな人あの野蛮なギルドいたっけ?


「何やら新人冒険者の方の教育を率先してやっているようです。ギルドでもよくそういう場面を見かけて」


 ……あれ?


「よく冗談を交えながら丁寧に教えられてて、とても面倒見の良い方なんだなと」


 ジョークが好きで、お節介が多い……


「はあ、私もああいう人が上司なら良かったのに。新人の方々が羨ましいです」


 なんか頬をおさえてテレテレしてる。

 なんだろう、ちょっと気持ち悪いな。

 

「ちょ、ちょっと待ってほしいな」


 もしかしてなくてもだよ。

 

「それってプロソロおじさんで合ってるかな?」


 って言うか、絶対そうだよ。

 そんな人はあのギルドに1人しかいないもん

 

 そんな、

 この人たち、まさか両思い──


 バッ


「すみませんすみませんすみませんっ!」

「わっ!? 急になにかな」 


 なんでまた高速で謝るんだよ。

 ビックリするからやめてほしいな。


「どうしたのかな、今度は別に怒って──」 

「すみませんすみません! 違うんです! 別に人様の男性を取ろうとかそんなつまりじゃないんです!」

「ちょっ、落ち着きなよ、一体どういうことなのかな」


 話が全然見えないよ。

 

「あの方の彼女さんなんですよね、すみませんすみません!」

「へっ? 誰がかな?」

「えっ? いえ、あなたがですが」


 私がおじさんの?


 いや、そんなワケ、


「ミチル、そうなの?」

「違うよ! 違う違う! なんでそうなるのかな!」


 ないないない! 絶対ないから!

 あり得ないよ!

 もっと年齢差とか考えようよ!

 

「……あっ、もしかして別れられたんですか? 確かに最近一緒には見かけませんが、すみません」

「いや、そもそも付き合ってないよ!」


 これでも私は歴とした彼氏いない歴年齢だよ。

 勝手な想像で人の経歴に傷をつけるのはやめてほしいな!


「えぇ、ですがお二人ともいつも一緒に楽しそうにしてて……お腹が減っただの、外に出たくないだのどうこうって、距離感的にもとても仲が良さそうに見えたんですが」


 いや、どう言うことだよ。

 なんでそれでそう思っちゃうのかな。


「まあ、ミチルは人懐っこいからね。側から見ると勘違いされやすいのかもしれない」

「はい。末っ子気質です」


 そうかな? 


「う~ん、別に人懐っこいとかないと思うな」



 まあ、たしかに私、末っ子だけども。

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