おじさんからの依頼

第31話 おじさんからの依頼①

 前回のあらすじ!

 私、ミチル=アフレンコ16歳は冒険者パーティを脱退。

 何やかんやあって、今はメイルくんのところで助手として雇われてるよ。


 いつも通り事務所でゆっくりする中、当然の訪問者。

 でもドアが人知れず開くだけで誰もいない

 

 不思議と姿を確認できるのはメイルくんだけ。


 そう、今回のお客さんはなんと妖精さん。

 メイルくんにだけ視えるようで、意思疎通は極めて困難だった。


 依頼はとある屋敷の掃除。

 昔、人間の知人が住んでいた家らしく、家主亡き後、綺麗にしてあげたいとのこと


 生前、妖精さんと仲良くしていたと言う家主さんに何か思うことがあるのか、メイルくんはそれを了承。

 晴れて屋敷に赴くことになる。


 もしこれが全部メイルくんの演技だったら……

 疑心暗鬼のまま私は、メイルくんの言うがままについていく。


 屋敷へ到着すると、さっそく中の掃除を始める。

 一階の部屋が終わり、二階と、割と順調に進んでいた。

 

 しかし、掃除にも慣れてきた頃、突然それは起こった。

 

 何もないところで髪が揺れたり、急にドアが閉まったり。


 終いには物が勝手に……



 あとは自分で思い出してほしいな。




 パタパタ


「この列はもういいかな」


 本棚に付いてるホコリさんは落としたよ。


「僕も。うん、綺麗になった」


 メイルくん。

 えらいよ、ピカピカさんだね。

 

「まだです。本に付いた埃が残ったままです」


 あっ、ロザリアさん。


「上の方も全然。半端な仕上がりで満足しないでください」


 ひえ~、手厳しいな。

  

「ローズってさ、たまに変なところで几帳面だよね」

「いえ、一般的です」


 クイッ

 

「ごめんミチル。ローズって意外と掃除にうるさくてさ。たまに異様にこだわるんだ」 

「大丈夫だよ」


 私もそういう時あるから。


 ここは事務所の地下室。

 地下室と言っても置く何もモノなんてないから、普段は書庫として使ってるらしい。

 この散らばった本と木材で密閉された空間。

 上方面にある入口から差し込む光。

 この適度なホコリさん、なんか雰囲気あるよ。

 

 今日もお客さんは来ない。

 だから空いた時間を有効活用してお掃除してるんだ。

 ちょうど暇だったし、たまにはこういうのも悪くないかな。

 そういう気持ちでやってるよ。


「もっと真面目にやって頂かないと。この様では悪霊が来てしまいます」


 大袈裟だよ、ロザリアさん。

 そうやって前回の話と繋げないでほしいな。

 

「いいねそれ。地下に幽霊を保管してるなんて、いかにもプロの探偵みたいでカッコいい」

「やめてよね。ほらっ、メイルくんが悪乗りしてるよ。その話やめようよ」


 悪霊さんはもうコリゴリ。

 ちょっともういいかな。

 

 まあでも、綺麗にしておくに越したことはない。

 悪霊のこと抜きにしても衛生管理は大事。

 表面上だけ綺麗にして満足したらダメだよ

 

 ちょうど暇だし、もうすぐおやつだし。

 うん、お掃除頑張るよ。


 三角巾さん、ギュッ!


「よし、ホコリさん、みんな覚悟だよ!」


 私の風さんで一掃して、


──チリン、チリン

 

 ん?


 ベルの音だ。

 

「お客さんみたいだ。ミチル、ちょっと言ってきて」

「えっ、私?」


 いまお掃除してるんだけど。


──おーい、誰もいないのかー?  


「僕もすぐに行くから。頼んだよ」

「……了解だよ」 


 はあ、タイミング悪いよ。


──留守なら鍵くらいかけろよな。まったく……帰るか


 ヤバいよ、帰っちゃう。

 急がないと。

 

 ガチャッ

 

「ごめんだよ! いるよ!」


 お待たせしたよ!


「今ちょっと取り込んでて、少しだけ……」


 あっ、


「あっ」

 

 プロソロおじさんだ。

 

「……帰る」


 なっ⁉


「待ってよ!」


 ダッ! ガシッ!


「逃がさないよ! なんで来たばっかりで帰ろうとするのかな!」

「なんでここにお前がいるんだ!」

 

 グイグイッ


「放せ! そんで今日のことは忘れろ!」

「嫌だよ! お客さんなんて滅多に来ないもん!」

「な、なんだそれ! ってか力強いのなお前!」

「うぎぎぎ……メイル探偵事務所へ、よ、ようこそだよ」


 歓迎するよ!

 

「こんな歓迎があるか! わ、分かった! 痛いから一旦放せ!」 


 うぎぎ、観念するまでこの腕はちぎれても……

 

「──騒がしいと思ったらミチル、何してるのさ」


 あっ、メイルくん。


「なに? ひょっとして知り合い?」


 いや、知り合いというか……

 

 


 ──そして、

 

「そっか、それは申し訳ないことをしたね。うちの助手が迷惑をかけて」

「いや、いいんだ。急に来た俺も悪いしな」


 はあ、何とか食い止めたよ。


「お茶だよ」


 どうぞ、コトッ


「けっ、無愛想なお茶汲みだな」

「なにかな? いらないならいいよ」


 私が飲むから。

 

 スーッ


「あっ、おい……本当に大丈夫なのか、この店」


 小言が丸聞こえだよ。

 

「それでミチル、この人は? どんな関係?」

「このおじさん? この人は……」

 

 この人はプロソロおじさん。

 薄黄色の髪と薄青い目。

 うっすらと髭が生えててガタイが良い。


 オーソドックスな剣に盾、鉄製防具を一式を装備した、そこら辺によくいる冒険者な風貌。


 あとは、うん。

 

「まあ、普通のおじさんだよ」


 あんまり特徴ないかも。


「ばっ、お前。俺はまだ26だ、おじさんはやめろ!」

「え~? おじさんだよ~」


 どこからどう見ても。フフッ

 

「チッ、相変わらず変わんねえのな。10年経ったら覚えとけよ」

「う〜ん、なんのことかな?」

 

 私がまだ新米だった頃に色々教わったんだ

 

 別にそういうお仕事があるってワケじゃないんだけど。

 いわゆる新米冒険者を育成する先生みたいなのを率先してやってる。

 たまにいる変わったおじさんだよ。

 

「へえ~、って言うことはミチルの師匠にあたる人なんだ」

「師弟関係ですか」

「まあ、冒険に関してはそうかな」 

 

 お師匠さんってほどじゃないよ。

 あくまで冒険の初歩的なノウハウを学んだ程度で。


「まあそう言うこった。そこにいる非常識なポンコツ魔術師をまともに育てあげたのは、何を隠そうこの俺だ」

「なにかな、威張らないでほしいな」

 

 最初の方だけなのに。

 全てを伝授した気にならないでほしいな。

 それに私、ポンコツさんじゃないよ。

 

「聞いたぞ。噂じゃ最近、Bランクに昇格したそうだな」

「ん? まあね」


 これでおじさんと並んだよ。


「そういうのは師匠である俺にいち早く報告するもんだ。昔からそうだが、まだまだ詰めが甘いな」 

「いや、たんに機会がなかっただけで」

 

 会うの自体半年ぶりだし。

 普通に忘れてたし。


「いや、あの生意気でどうしようもなかったお前がな、今では俺と同じBランクだ。いや~、俺もどおりで年を取るワケだ」


 そういうとこだよ、おじさん。

 随所でおじさんくさいんだよ。


「懐かしいよな。何かあれば人前でも構わず泣き喚くし、目を離せばすぐ迷子になりやがる。いや、何度自分の目を疑ったことか」

「ちょっ、おじさん!」

「寝坊や集合場所を間違えて遅れることだってザラじゃない。そのクセ無駄によく食べるもんで、食費がかさむかさむ。おお、恐ろしい」

「なに言ってるのかな!」


 やめてよ、メイルくんの前で。

 

「終いには人違いで別のヤツに着いて行こうと……なんだ、覚えてねえのか?」

「お、覚えてないよ!」


 変な過去改変はやめてほしいな!


「とにかくすこぶる手のかかる教え子だった。それも過去類を見ないぶっちぎりでな。ハッハッハッ!」


 めっちゃ笑顔。

 

「へえ~、昔のミチルってそんな感じだったんだ」

「現在とさほど変わりません。成長されてないのでは」

「そう? 僕はペットみたいで可愛いと思うけど」


 むぅ……

 

「あっ、今のは例えが悪かったね。ごめんミチル、キミを悪く言ったワケじゃない。だからそんなに頬を膨らませないで」


 膨らんでないよ。 

 

「ハッハッハッ! まあそう言うこった」


 はあ、もう最悪だよ。

 言っちゃ悪いけど早くお帰り願いたいな。


「ん? そう言えばショーたちはどうした? ミホもそうだが、お前たち一緒のパーティじゃなかったのか?」


 ギクリッ


 なんでそれ聞くかな。


「って言うかミチル、お前そもそもなんでこんなところにいるんだ? お前がミホと一緒にいないなんて珍しいな」


 そ、それは……


「まあ大方、またショーと喧嘩でも──」

「もういいよもうっ!」


 バッ!


「うえええん! みんな酷いよ〜!」

「お、おい、どうした。なんで急に……」


 うえええん!


「あらら、泣いちゃった」

「いや、俺はそんなつもりじゃ……すまん」



 うえええん! ミホちゃ〜ん!

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