第29話 妖精さんからの依頼⑩

 ──あれから、悪霊さんを撃退した後、家を後にした。

 妖精さんたちともそこでお別れ。


 お掃除がまだだったけど、あとは自分たちでやるから十分だって。

 自然物じゃないから修復にちょっと時間がかかるらしい。

 だから終わりの報告を待ってるんだ。

 

 修復が終わり次第、ことのてんまつをギルドに報告する。

 初めは信じないだろうけど、実物を見れば信じざるを得ないと思うな。


 今後どうするかはギルドに任せるよ。

 元はギルドが管理してたからね。

 悪いようにはしないと思う。たぶん。


 だからとりあえずは、依頼は無事完了ってことでいいのかな。


「にしてもメイルくん、よく分かったね」

「むっ、今度はなにさ」


 まだプンプンしてる。


「なにって悪霊さんだよ。ほらっ、言うほど力は強くないってメイルくん言ってたよね」

 

 いつの間にか悪霊さんの底を見抜いてた。

 私、言われるまで全然分からなかったよ。


「おかげで何とかなったし、流石メイルくん」


 ここのボスなだけあるよ。

 

 どれどれ。

 ここは一度褒めて、機嫌直してもら──


「いや、全然そんなことない。むしろ全くの逆だ」

 

 ……へっ?


「前にも言ったけど、あれほど物に干渉できる霊なんて早々いない。あの物量を当然のように操ってたし、何なら妖精を威嚇だけで追い払ってた。あんな芸当、普通の霊には到底できっこない」

 

 えっ、そうなの?

 

「挙句の果てには家まで破壊しようとした。よほど霊力が高かったんだろうね。かなり強力な悪霊だったよ」


 そんなに絶賛する?


「えっ? でもたしか、生き物相手には憑依しないと何もできないって、メイルくんが……」


 強い霊はわざわざそんなことしなくても操ったりできるんだよね?

 悪霊さんも図星さん突かれて怒ってた。

 だから……


「ミチルは何を言ってるんだ。どんなに強い悪霊だろうと、生き物に限っては直接憑依しないと操れない。数に限らずね」


 えぇ……


「大体そんなこと聞かなくたって、キミの方がよく理解してるはず。あの時、悪霊に憑依されそうになった時に肌で感じたはずだよ」


 あー、たしかに。

 メイルくんのおかげで何とか戻って来れたけど、それまではまるで歯が立たなかった思い出。

 でもあれは悪夢の中だから、そういうモノだとばかり。


「現にかなり危ないところだった。もう少し戻るのが遅かったら、あのまま完全に支配されて収集がつかなくなっていた」


 支配って……

 そんなガチトーンで言わないでよ。


「よく父さんから危険なことに首を突っ込むなって言われてるけど、うん、今回ばかりはその通りだと思ったよ」


 もしかして反省してる?

 嘘だよ。

 だってあの若干反抗期ぎみのメイルくんが、親の言うことを素直に聞くなんて。


「ミチル、いま失礼なこと考えてるよね」


 そんな、噓だって言ってほしいな。


「えっ? ってことは全部ハッタリだったってことかな?」  

 

 悪霊さんに言い放った言葉の数々。

 私とロザリアさんで全力サポートしたよね。

 でもあれって全部、ただハッタリかまして煽ってただけ?


「相手が単純で助かったよ。家を壊そうとしてきた時は内心ヒヤヒヤだったけど」

 

 えぇ……

 メイルくん、えぇ……

 

「まあ、アレで上手く行ったし。結果的に最適だったと思うよ」

 

 そんな、結果オーライが過ぎる。


「いや、妖精さんが来たから良かったけど、もし来なかったら……」

「ミチルってさ、前にも言ったけどすぐ悪い方に考えるよね。そういうのやめた方がいいよ」


 ご忠告どうも。

 メイルくんはポジティブ過ぎだと思うな。


「もしそうなったらそうなったで、何か別の方法を取る。それできっと上手くいく。そんなモノで良いと思うよ」


 そういうモノ?

 そうやって世の中は回ってる的な。

 う~ん、上手くまとめられてる気がするな


「だからローズ、そんなに怒らないで」


 ピシャッ


 ……あっ


「その、アレだ、少し落ち着こう」 


 いま壁の軋む音が。

 急に空気が悪くなった。


「そうやって無言で睨むのは止めて。すごく怖いから」

 

 悪霊さんかな?

 ぶっちゃけこっちの方が……

 

「今回の件、旦那様に即ご報告いたします」

 

 クイッ


「それと、個人的にお話があります。また後ほど居間で」 


 あー……

 

「ちぇっ、まあ仕方ないか。程々にお願いするよ」

「ええ。じっくりと」


 うわぁ、容赦ないね。ロザリアさん。

 

 ドンマイだよ、メイルくん。

 アレだよ、きっと良いことあるよ。


「ミチル様もどうです?」 


 へっ?


「雇い主に対し不満の一つ二つあるでしょう。一度ハッキリ言える良い機会かと」

「あっ、いや、私は……」

 

 ひえ~、なんかこっちに向けてきたよ~。

 心臓さんに悪いからやめてほしいな。


 何か言い逃れる手はないかな。

 う~ん、


「はっ! そう言えば! そろそろお散歩の時間だ」


 そうだった。

 うん、そうだったよ。


「残念だけど遠慮しておくよ。あ~、私も参加したかったな~」


 チラッ


「そうですか」 


 何とか誤魔化せたみたい、ホッ


「じゃあ私! お散歩に行ってこようかな!」


 バッ!


「あっ、ミチル、ちょっと」

「メイルくん、ガンバだよ!」


 応援してるよ!


 それじゃ、メイルくんを生贄に。

 ゴーアウトするよ!


──チリンッ、チリンッ 

 

 ……あっ

 

 ドアが勝手に。 

 でも誰もいない。


「やあ、ちょうどいい所に来たね」


 メイルくんが何もないところでお話してる。

 不自然な目線の高さで。


 この感じ……


「メイル探偵事務所へようこそ。それと、久しぶり」


 妖精さんだ。

 また来たみたい。

 

「いらっしゃいだよ、妖精さん」


 2日ぶり。

 相変わらずすっごくタイミング良いよね。

 

「もう、そうやってくっつかないで。くすぐったいよ」


 ……って、


「分かった、分かったからさ。うん、僕も会えて嬉しいよ」


 んー?

 えらく懐いてるようだけど。


 妖精さんキラー?

 カトリーヌちゃんキラーに加えて?

 んー?


「ん、掃除が終わったってさ。今から見物も兼ねて遊びに来てほしいって言ってるけど、どうする?」

 

 綺麗になったお家に招待してくれてるんだって。


「そんなの行くに決まってるよ」


 賛成だよ。

 また一緒におやつ食べて、お昼寝したいな


「残念ですが、メイル様は今から──」


 パンッ

 

「はい多数決。決まりだね。じゃあ行こう」


 理不尽感すごい。

 でも多数側だと気分良いよね。


「メイルくんの決定は絶対だよ、ロザリアさん」


 フフンッ


「はあ、仕方ありませんね」


 この前の私の気持ちが分かったかな?


 ふぅ……


「メイルくん」

「ん? なに?」

「私も楽しいよ」


 ここに来てからずっと。

 メイルくんと同じだよ。


「……なにさ、急に」

「ううん、なんでも」


 フフッ、それじゃ、準備はいいかな?


 いいよね、じゃあ……っ!


 レッツゴーだよ!




 ~妖精さんからの依頼、完~

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