第28話 妖精さんからの依頼⑨

 ふう~、終わった~。

 悪霊さんをなんとか撃退できた。

 これで一件落着さんだね。


 部屋の中、


「はあ……」


 ゴロンッ


「ミチル、ヘトヘトだね」

 

 安心したらドッと疲れが押し寄せてきた。

 もう気は張れないよ。

 何度腰さんを抜かしそうになったことか。

 あっ、腰さん痛い。いてて……


「まあ、僕も人のことは言えないけど。ローズはまだ余裕そうだね」

「いえ、そのようなことは決して。立っているのが奇跡です」

「ん? ああ、そうか。たしかキミはか弱い使用人。ふーん、そう言えばそうだったね」

「何です? 何か気に入らないことでも?」

「いや? 別に」


 今の私たち、かなりホコリ塗れ。

 戦いのせいで所々傷んで、なんてみすぼらしい格好なのかな。

 これじゃ街中を歩けないよ。


 まあ、これも仕事のうち、仕方ないよね。

 はあー、早く帰ってキレイになりたいな。


「お家さん、可哀そうに。これじゃ私たちと同じだね」


 また汚れちゃったね。

 何なら来た時よりもボロボロだよ。

 お掃除しにきたのにむしろ悪化するなんて、一体どういう案件かな。

 

 これをまた一からお掃除しようって、悪いけどもうやりたくない。


「当然掃除はするよ。それが依頼だからね」

「はあ、やっぱり。言うと思ったよ」


 トホホ、これだからメイルくんは。

 

「お客さん贔屓もほどほどにしなよ。メイルくんのそういうとこ良くないと思うな」


 今のところそれで上手く行ってる風だけど、いつか絶対損するよ。

 

「まあ、そう言わずにさ。悪霊はいなくなったワケだから、前よりはだいぶ楽にはなると思う」

「大変なことに変わりないよね」

「また文句が多くなってる。そうだ。何なら僕のおやつを──」

「その手には乗らないよ」

 

 もう釣られないよ。ふんっ


「あらら、ダメか」


 餌付けされるほど私はバカじゃない。 

 見くびらないでほしいな。


「おや? 何やら外の方が騒がしいですね」


 んっ、ロザリアさん。

 お外がなんだろう。


 窓さん、チラッ


「あっ……」


 ──この時、予想だにしない光景に、私の目は奪われた。


 風さんがなびいて、それに沿ってお花が咲き誇っていく。

 まるでカーペットを敷くみたいに、一瞬でお花畑に。


「綺麗……」


 思わず外に出て確認。


 すごい。

 さっきまで荒れ果てた不毛の土地だったのに。

 庭いっぱいに広がるお花畑になってる。

 

 これって、

 

「妖精がやったんだ。元来、妖精には自然を復元する力がある。テリトリーに生命力を与えて活性化させる。そうやって自然が無くならないよう保護してるんだ」


 そんな役割を担ってたんだ。

 

「でもまさかここまでとは思わなかった。うん、僕もビックリ」


 あっ、まただ。

 

「改めて思うけど、妖精ってすごい」


 メイルくんの目、またキラキラしてる。

 

 前だけを真っすぐ見つめて、心からそう思ってるって目。

 何も疑わない。

 フェチョナルさんと同じだ。

 

「ミチルもそう思うよね。って、ミチル?」

「えっ、なにかな?」

「なにって、さっきから人の顔をぼーっと見てさ。僕の話ちゃんと聞いてる?」


 いま私、ぼーっとしてるように見えたんだ


「僕、何か変なこと言ってる?」


 そっか。


「ちゃんと聞いてるよ」


 うん、メイルくん。

 

「そう? まあいいけど。それより僕たちも──」

「んじゃさっそく! わーい!」


 お花畑さんに、ダーイブ!

 

 ポフッ


「あははっ!」


 楽しいな!


「ちょっとミチル。はあ、まるで子どもみたいだ」

「幼稚さに磨きが掛かっています。メイル様も見習ってみては?」

「冗談キツイよ。まったく、これが僕の助手だって思うと悲しくなる」


 お花さんわーい! わーい!


「そうです? 合ってると思いますが」

「はあ……ミチル、服が汚れるからほどほどにね」 

 

 ほらっ、2人も早く来なよ。

 すっごく楽しいよ!







 ──それから2日後、


 事務所。


「んっ、紅茶入れたよ」


 メイルくん、どうぞ。


「ありがとう、頂くよ」

「どういたしましてだよ。ロザリアさんもどうかな?」


 私の入れた紅茶。

 

「では、お言葉に甘えて」

「了解だよ」


 コトッ


 私も座ろっと。

 ソファさん、ちょっと失礼するよ。


「はあ、それにしてもすごかったね。妖精さん」


 あの光景が目に焼き付いて離れない。

 感動したな。

 いま思うとそれくらい衝撃的なことだった


「ミチル、またうっとりしてる。隙あらばその話するよね」

「だってすごかったもん。はあ、家主さんはずっと1人で暮らしてたらしいけど、今なら分かる気がするな」

 

 あんなの見せられたら、誰だってそう思うと思う。

 妖精さんと暮らすのも悪くないかなって。


「はあ、妖精さんの見えるメイルくんが羨ましいな~」


 やっぱり風さんの探知だけじゃ、意思疎通には限界がある。

 こればっかりは妬ましいよ。


「そうだね。んっ、それよりもおかわり貰える? いつもと量が少ないんだけど」


 むっ


「1人一杯までだよ。それに飲みたいなら自分で入れな。私はキミの召使いじゃないんだよ」


 人がせっかく感傷に浸ってるのに。

 そうやって茶々を入れないでほしいな。


「メイルくんって、たまにデリカシーさん皆無だよね」

「えっ、僕が?」

「そうだよ。この前だって人の寝顔をまた勝手に覗いてたよね。あれやめてって何度も言ってるよね」

「いや、だってそれはミチルが──」

「失礼だよ。ねっ、ロザリアさんもそう思うよね」


 コトッ


「はい。何を言おうとも所詮はまだ子ども。ええ、たかが知れています」

「だよね。ほらっ」

 

 それとも何かな。

 メイルくんはそんなに私に紅茶を注いでもらいたいのかな。

 だったら初めからそう言えばいいのに。

 

「アレだね、メイルくんはもっと素直になった方が可愛いと思うな」


 ほっぺをちょん

  

「なにさ、そこまで言わなくてもいいのに。ミチルのケチ」 



 あっ、怒ってる。

 ケチじゃないよ。フフンッ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る