第24話 妖精さんからの依頼⑤

「はあ、何とか助かったよ」


 お掃除中、悪霊さんに邪魔されて家を飛び出した私たち。

 何とか逃げ出すことができたけど、


「あれは一体なんなのかな?」


 物や家具が勝手に動いてた。

 魔法じゃあんなことはできない。

 超能力さんもいい加減にしてほしいな。

 

「そうだね。ローズもいるし、一度ちゃんと話しておこうか」


 詳しい詳細。

 

「うん、説明求むだよ」


 やっとっだね。

 

「あれはあの家に潜む悪霊……いや、正確には悪魔の方がいいかな。たぶんどっちも正解だと思うよ」

 

 ──メイルくんが言うにあの悪霊さんは、ここの家主が亡くなって以来、ずっと棲みついてるらしい。

 ずっとあの場所にいて、私たちみたいに家に入った人たちを襲ってるんだって。


 最初は物音や笑い声がしたり、不自然なところに人影があったりとほんの些細なことだった。

 でもそのうち人を閉じ込めたり、物を投げたりと徐々に攻撃的になっていったそう

 

 明らかに敵意がある。

 あまりにも被害が多いから、ギルドも何人かの冒険者を派遣させたんだけど、そのどれも解決には至らなかった。

 どんな歴戦の冒険者でも怯えて帰ってくるんだって。

 

 やむを得ず取り壊すことに。

 業者さんを雇って土地ごと更地にしてもらうことした。


 でもそれも上手くいかず。

 決行の日が近くなるにつれ、業者さんが謎の高熱を見舞われたり、不幸な事故に遭ったりで取り壊しは難航。

 魔法や武器で強引に壊そうにも、全部術者に跳ね返ってくる。

 

 結局は立ち入り禁止。

 鍵だけ閉めて放置しておくことにした。

 以後50年はずっとそのままだそう。

 

 ギルド曰く、あの家は呪われてる。

 元の土地柄がそうなのか。

 何か歴史的な背景が関与しているのか。

 家主の死をきっかけに、何かを呼び寄せたのかは分からない。


 でも、一つ確かなことがある。

 

 それは、待ってるってこと。

 あの家に何者かがいて、ずっと待ってる。


 誰かが来るのを、暗がりの中で、ずっと。

 

「目撃情報はないんだけど、僕らみたいに攻撃される事例がほとんどで……って、ミチル?」


 うぅ……

 

「ごめん、怖がらせるつもりなくて」

「うえ~ん! 思いっきり曰く付きだよ!」


 なんて話を聞かせてくれたのかな!


「私もう入らないよ! 断固拒否するよ!」

 

 もう今夜寝れないよ!

 トイレ行けないよ!

 ええ~ん! 責任取ってほしいな!

 

「ごめん、怖かったね」


 ナデナデ


「ひぐっ、えぐっ……」


 うぅ、ミホちゃん……

 

「それで、どうされます?」

「僕? 今ミチルをあやすのに忙しいんだけど」

「あれほどの霊、我々には不可能です」


 グスンッ、ロザリアさんの言う通りだよ。

 歴戦の冒険者ってことはBランク以上だよね。

 そんな人が投げ出すような案件なんて、私たちには無理だよ。


「撤退した方が良いと思うな。悪霊さんとなんか戦えないよ」


 お家に帰りたいな。


「そもそも幽霊さんなんて……」

「ミチル、妖精がいるんだ。霊的なモノがいても別におかしくない。だから一旦落ち着いて」


 無理かな。

 こんな状況で落ち着いていられないよ。


「何だったらその妖精さんも怪しいよ。こんなところに私たちを連れてきて、悪霊さんと協力してるんじゃないのかな」


 実は黒幕さんだったり。 

 だとしたら、うわあだよ。

 またとんでもないことに巻き込まれちゃったよ。


「なんでいつもこうなるのかな、これじゃ……」

「それは違う。掃除したいけど悪霊に邪魔されて困ってる。だから僕らに助けを求めたんだ。第一、誘い込むだけならもっとマシな嘘をつくはず。家主の莫大な遺産が眠ってる、とかね」


 でも……

 

「そうやって物事を良くない方向に捉えようとするのはミチル、キミの悪い癖だ」 


 うっ、そうかも。


「うん、だから一旦落ち着こう」

「ごめんよ、妖精さん……」


 そうだよね。

 私としたことが取り乱しちゃった。


「かなり強力な悪霊だ。あれほど物に干渉できる霊なんてそうそういない。並みの霊、ましてや妖精でも難しい」


 うん、しっかり体験済みだよ。

 重たいタンスさんをバンッって。

 そういう力が強いってハッキリ分かったよ


「しかも厄介なことに、あの悪霊は人間を追い出したくて攻撃してるワケじゃない。人間を攻撃すること自体が目的だ」


 たしかに、追い出したいだけならわざわざ閉じ込めたりしないもん。

 でもそうしたってことはそういうこと。


 こっちが逃げられないようにしてからじっくりと。

 悪質な悪霊さんだね。

 

「じゃあロザリアさんの言った通り、私たちじゃどうしようもないんじゃないかな」


 魔物ならともかく、悪霊なんて。

 戦おうにも戦いようがないよ。

 もう泣いて逃げるしかないんじゃないかな

 

「そうだね。相手が幽霊だと物理攻撃は当然、おそらくキミの魔法も通じない」 


 うん、謎の力で跳ね返されるのがオチだよ


「でしたら、専門家に任せてはどうでしょうか?」

「なにかな? 専門家?」

「はい。隣街の教会では何やら悪魔祓いという儀式があると聞いています。そちらに頼ってみては」

 

 悪魔祓いって……

 なんか怪しい響きだよ。


「いや、僕は実際にその悪魔祓いを見学したことがある」


 あっ、見学とかできるんだ。

 意外とオープン。


「でもただ形式的なことをやるだけだった。棒読みで聖書を読みながら水を振りかけるだけ。あんなので効果があるとは思えない」


 教会さんは頼りにならないか。

 まあ普段から色々と胡散臭いもんね。


「もういっそのことフェチョナルさんを呼んだらどうかな? ほらっ、あの人なら何とかしてくれそうだし」 


 滅茶苦茶強いし。

 よく分からなけど、悪霊さん相手にも攻撃が当たりそうな気がするよ。

 なんかの補正で。


「いや、彼女の場合は霊だけじゃなく、家まで危うく壊しかねない」


 う〜ん……

 言われてみればたしかに。


「そっか。室内であの魔法槍を振り回したら、お家が真っ二つになっちゃうね」

「依頼はあくまで家の掃除。無理やりはい解決は良くない」


 もうそんなこと言ってられない気もするけどな。

 

 まあダメか。

 バイバイ、フェチョナルさん。

 また会おうね。


「うん、ここは僕たちで何とかしよう」

 

 はあ、やっぱりそうなるよね。

 なんとなく分かってたよ。


 でもね、メイルくん


「そんなこと言っても、実際どうすればいいのかな?」

 

 何とかしたいのは私も一緒だよ。

 でも現実さん、できることなんて何も──


「大丈夫、僕に考えがある」


 えっ……?


「うん、なんとかなると思うよ」


 

 えっ、そんなに?

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