第23話 妖精さんからの依頼④

 それから数分歩くと、


「着いた。ここだ」


 ピタッ

 

「うわ〜、すごっ。ホントにあったよ」


 大きなお家。

 森さんの中にこんなのがあったなんて。

 裏門方面は行かないから知らなかった。


「立派な一軒家ですね、富豪の別荘でしょうか」

「たしかに。雰囲気あるよ」


 ビックリだよ。


「話によると家主はここで1人で暮らしていたらしい。ほらっ、分かりにくいけど耕された跡がある。畑があったみたいだね」

「あっ、ホントだ。薪とか積んであって生活感がある。サバイバルでもしてたのかな?」


 自給自足民。

 このご時世、変わり者さんだね。


「基本的にはそうだったけど、たまに街に行って食事したり、生活用品を買い足していたらしいよ」


 それって、スローライフ?

 なんだか楽しそうな老後だね。

 ちょっと憧れなくもないかも。


「ずいぶん詳しいね。それも妖精さんが教えてくれたのかな?」

「いいや? 普通にギルドの受付からだけど。ミチルは変なことを聞くね」


 いや私、妖精さんも受付さんの話も聞いてなかったし。

 何も知らないんだから、そんな言い方はないと思うな。


「結構古いね」

「はい、およそ50年と言った所でしょうか。老朽化が進んでいます」


 表面はボロボロ。

 言っちゃ悪いけどお化け屋敷みたい。

 今は昼間だからいいけど、夜になったら怖いよ。


 ……って、ん? メイルくん?


「どうかしたのかな?」


 2階の窓をジッと見つめて。


「いいや、何でもない」


 んー?

 窓の汚れが気になるのかな?


 まあいいや。

 依頼はこの家のお掃除。

 ここをみんなで綺麗にするよ。

 と言っても、実際にはどのくらい綺麗にすればいいのかな。


「初見さん、3人だけじゃどうにもできないと思うけど」


 業者さんとかがやるヤツだよ。

 これ絶対一日じゃ終わらないよ。


「とりあえず入ってみよう。中は案外片付いてるかもしれない」


 あっ、なんか帰りたくなってきたかも。

 私の勘、そして風さんが止めてる。

 行かない方が良い、絶対面倒なことになるって。


 ギュッ


「怖いんですか?」

「えっ?」

「手が震えてます。怖いんですか?」

 

 いや、そんなことは……


「ミチル?」


 どうしよう。

 メイルくんに幽霊さん苦手だって知られたくない。

 怖いのバレたら笑われちゃう。


「震えてないよ、これは風さんがオートでやってて……」

「もう周囲を警戒してるんだ。流石だね」

「はい。Bランクだけのことはあります」

  

 うぅ……

 お願いだよ、誰か変わってほしいな。


 カチャッ


「開いた。それじゃ、中に入るよ」


 お、お邪魔するよ。


 玄関、靴を置くところ。


 まずは正面を少し行ったところに、左と前に部屋がある。 

 居間とか食卓とかその他モロモロかな?

 

 それと、正面すぐ右に2階へつながる階段。

 登った先には手すりがあって、私たちのいる玄関を一望できる。

 2階にもいくつか部屋があるんだろうね。


「玄関からでも大まかな部屋の配置を察することができる。なるほど、ファミリー向けの構造だね」


 うん、開放感あるよ。


「あまり物がないですね」

「そうだね、思ったより綺麗だ」


 流石に老朽化でボロボロだけど、外観と比べるとそうでもない。

 散らかってないし、廃屋にしては整理されてる。


「秘密基地にしようか」

「メイル様」


 ずっと放置されていた割には綺麗。 

 逆にそれが不気味で……

 うわぁ、なんか嫌な感じだよ〜。


「それで、どこから始めるのかな?」


 お掃除。

 結構広いから、何から手をつけたらいいのやら。


「そうだね、とりあえず一階から掃除しよう。玄関から初めて少しずつ領土を広げていく感じ」

  

 はあ、大変なお掃除の幕開けだよ。


「あと危険だからなるべく固まって行動すること」

「危険?」

「廃屋だから何が起こるか分からない。離れすぎないようにね」


 メイルくんも怖いのかな?


「じゃあ始めよう。終わりは妖精がOKを出すまでだ。やるからにはとことんやるよ」

「張り切ってるね」

「よし、まずは玄関周りから」


 先は長そう。

 はあ、トホホ……


 

 ──こうしてメイルくんの指示で依頼、はたまた家のお掃除が始まった。

 各々持参した道具を使って綺麗にしていく


 ゴミやホコリ、しつこい油汚れさんに、奥の方に溜まる厄介なカビさん。

 割と隅々までお掃除した。

 

 それで、最初は怖かったんだけど、だんだんお掃除にも熱が入ってきて、思いのほか気にならなくなってきた。

 みんなでやると捗ると言うか、団結すると言うか。

 凝り出すとキリがないよ。


 そんな感じで、割と順調に進んでた。


 そして、慣れてきた頃、


 フキフキ


「ふぅ、これでいいかな」


 綺麗になったよ。

 ピカピカとまでは行かないけど、これで十分かな。

 意外と何とかなるもんだね。


 今やってるのは2階にある奥の部屋。


「ここはもうおおかた掃除したよ、メイルくん」


 フキフキ


「そうだね。妖精も満足してる」

「そっか」

 

 機嫌が良いようで何よりだよ。


「んじゃ、次はお隣さんに──」


 フワッ


 ん?

 いま私の……


「メイルくん」

「なに?」

「いま私の髪触った? なんか右の方がフワッとしたんだけど」


 なんだろう、不自然に動いた感じ。


「えっ、なんでさ?」

「いや、だっていま私の……」

「僕が触る意味もそうだけど、そもそも距離的に不可能だよ」


 そうだよね。

 疑ってごめんよ。

 

 ってことはロザリアさん?


 ……も距離的にないか。

 

 んー?

 まあいいや。

 お掃除を続けるよ。 

 

 フワッ


 むっ、まただ。

 今度は左の方。

 

 もしかして風さん?

 暇なのは分かるのけど、ちょっかいはやめてほしいな。


 グイッ


「うがっ⁉」


 髪が後ろに⁉


「痛いよ! もうっ! さっきからなんのかな!」


 頭ブンブンブン!


 誰がやってるのかな!

 しつこいよ!

 

「何を急に喚いて、どうかされました?」

「誰かが私の髪を触るんだよ! ロザリアさんかな!」


 思いっきり引っ張らないでほしいな!


「いえ。私では」


 ホントかな?

 怪しいよ。

 メガネクイッって光反射してるし。


 えっ、まさか妖精さん?

 私の髪が綺麗だから嫉妬してる?


「あれ? ねえローズ、この絵さっきと変わってない?」


 ん? 絵?


 シスターさんが椅子に座ってる絵。

 手を膝に組んでお上品な感じ。

 こっちを見てニッコリ笑ってるね。


「……確かに、先ほどと比べ表情が若干」

「だよね」

 

 そうかな?

 最初からこんな感じだったと思うけど。


 ──スッ


「ん?」


 あれ、今後ろに……

 

 ──ガシャンッ


「わわっ!? なにかな!?」

「皿が落ちた。棚おいてあったのが急に」


 バンッ!


 わっ、ドアが勝手に閉まったんだけど。


 パリンッ、パリンッ


 またお皿が、


「メイルくん、これって……」

「一度出た方がよろしいかと」

「そうだね、ここは一旦──」

 

 ザザッ!


「あっ……」

 

 ドアが、横にあった棚に塞がれた。


「メ、メイルくん……」

「うん、退路を塞がれた」


 コレって、もしかしなくても……


 ビュンッ!


「わっ!?」

 

 なにかな⁉

 何か凄い速さで飛んできたよ!


 パシッ


「これは本ですね。投げるとはなんとお粗末な」

「すごい。完全にポルターガイストだ」

「そんなこと言ってる場合じゃ……わっ!?」


 また飛んできたよ!


「危ない! 2人とも伏せて!」


 ビュンッビュンッ!


「わっ!? わわわっ!?」


 まずいよ!

 もしメイルくんに当たったら!


 出口は塞がれてるし!

 

 チラッ


 あっ! あの窓!

 

「ロザリアさん! メイルくんをお願いするよ!」 

「了解です」

 

 ヒョイッ


「ローズ、 急になにを──」

「行くよ!」

 

 窓を突き破って、ジャーンプッ!


 パリーンッ!


 風さん! 私の落下スピードを緩和してほしいな!


 パア〜!


 ふわっと着地!


「ふう~」


 ありがとうだよ。

 おかげで2階から飛び降りたのに無傷だった。


「あっ! ロザリアさんは大丈夫かな⁉」


 私の風さん、間に合わなかったような……

 

「ええ、何とか」

「ちょっとローズ、何もお姫様抱っこなんかしなくても」

「その方が持ちやすかったので」

「なにさ、僕だってミチルみたいに……って言うかいい加減放してよ!」

「ダメです」


 2人とも大丈夫そうだね。


 ……って、


「違うよ! アレはなんなのかな!? 物が勝手に動いてたよ⁉」


 聞いてないよ!


「なるほど、あれがギルドの言っていた幽霊か」


 んなっ⁉

 

「例の幽霊屋敷ですか。そんなことだろうと薄々思ってました」


 なななっ⁉


「なにかな!? 2人とも知ってたのかな⁉」

「はい。風の噂で」 

「妖精も言ってたし」

「なんで教えてくれなかったのかな!」

 

 酷いよメイルくんっ!


「だってミチル、教えたら来なかったよね」

「うっ、そんなことは……」


 来てたよ。

 信用してほしいな。


 ……いや、どうだろう。

 

「でもまさか本当に出るとは思わなかったね。僕、流石にビックリしちゃった」

「はい。魔物とは全くの別物です」


 ホントだよ。

 本もたくさん投げてきたし。

 怖いよ、さっきから鳥肌さんすごいよ。


「ところでミチル、そろそろ信じてくれた?」

「へっ?」

「妖精が見える話です。ずっと疑っていたでしょう」

 

 そ、それは……


 うぅ……

 

「信じる、信じるよ……って言うかとっくに信じてたよ!」


 途中から私も話しかけてたよね!

 だからその話はいいよもう。 


「で、バカは一体どちらで?」

 

 

 えぇ、ロザリアさん……

 事務所で言ったこと根に持ってるんだけど

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