第2話 気になったから仕方ないよね

「うーん……ここであってるのかな?」


 たぶんこの辺のはずなんだけど……

 う~ん、私って地図とかはどうも苦手で。

 

「はあ、どうしよう……」


 気になって来ちゃったけど、ここって明らかに貴族のお屋敷だよね。

 門が大きいし、庭も広いもん。

 私、なんでこんなところにいるのかな。


「うーん……」


 ホントにここで合ってるのかな。

 こういう時、結構間違えるんだよね。

 パーティにいた時だって、私だけ違う場所に集合したりして……


 ううん、そんなことはどうでもいいんだよ


 ずっとここにいても始まらない。

 思いっきりも大事だって言うし。

 頭を空っぽにして、入るよ。


 まずは目の前にいる門番さんに要件を説明するよ。

 さっきから私のこと鋭い目つきで睨んでるから。


 こんにちは、門番さん。

 私は怪しい者じゃないよ。


「あの、ギルドの募集を見て来たんですけど……」

 

 要件を、ゴニョゴニョゴニョ


 うん、門番さんも納得したよ。

 私を屋敷まで案内してくれるみたい。


 門を開けて、いざ、屋敷の中へ。


 中に入ると、目の前に大きな階段があって、綺麗なメイド服を着た女の人がいる。

 私を見るやご丁寧にあいさつしてくれた。

 ここのお手伝いさんかな。

 

 門番さんが私を引き渡して、バトンチェンジ。

 ありがとね。バイバイ、門番さん。

 

 お手伝いさん。

 今度はこの人が私を案内してくれるみたい。

 私は案内されるがまま、この人に着いてく


 階段を登ってそのまま広い廊下を進んでいく。

 

 ふーん、外から見ても綺麗な建物だったけど、中もちゃんと綺麗なんだね。

 肉眼だとホコリ一つ見えない。


 なんだか由緒正しき建造物って感じだし。

 なんで私ここにいるんだろうって改めて感じさせられるよ。


 ん? 壁に絵が飾ってある。

 あれは肖像画かな? 誰のだろう?

 不愛想な子どもの絵だけど、たぶんここの子だよね。


 あっ、着いたみたい。

 お手伝いさんが目の前のドアで足を止めた。

 この部屋に入ればいいのかな。


「ロザリア、入りますよ」


 コンコン


 いざ、お邪魔します。


 中にはもう一人、同じ格好のお手伝いさんがいる。

 私と同じで眼鏡をかけた、モノ静かそうな人。

 でも顔立ちが綺麗で、すごい綺麗な人。


 はえ〜、仕事とかできそう。

 

 今は休憩中かな?


「はあ、またサボって読書ですか。まったく、あなたと来たら……」


 違うみたい。


「まあいいです。ロザリア、例の件であなたに客人です。大切なお客様ですので、くれぐれも無礼の内容にお願いしますね」


 ロザリアさんって人。

 こっちを見てるけど、返事はない。

 ずっと無言。

 顔が本で半分隠れてる。

 あんまり仲良くない、ギスギスしてるのかな。


 ……って、ちょっと待って。

 私、今からこの人と2人っきり⁉

 

 ど、どうしよう……

 聞いていないよ。


「はあ……では、これで失礼します」


 うわぁ、ほら、やっぱりそうだよ。

 この人、私を一人にする気だよ。


「どうぞごゆっくりいらしてください」


 バタッ


「あっ、ちょっと待っ……」


 あ~もう、置いて行かないでよ。

 これじゃ、ゆっくりしろって言われても無理だよ……


 うぅ……

 振り向きたくない。


「──どうぞ、お掛けになってください」


 ビクッ

 

 呼ばれちゃった。

 トホホ、世界って無常だよ……


「は、はい……」


 座るしかないよね。

 

 んっと、失礼するよ。

 

 私と新しいお手伝いさん。

 1つの机を挟んで向き合う感じに座る。


 ふーん。

 この感じ、ちょっとした面接みた──


「さっそくですが、履歴書の方を」

「……へっ?」

 

 り、履歴書? な、なにかな⁉

 

「どうかしましたか?」

「あっ、いえ、その……」


 あっ、そういえばチラシの下の方になんか書いてあったかも。

 あっ……たぶん、アレがそうだったとしたら、


「すみません……その、忘れました……」


 あー……


「……はあ」


 うわ、ため息。

 そんな露骨にしなくても……

 うわあ、私、またやっちゃった。


「失礼しました。でしたらこちらに用紙にご記入を。その間に何かお飲み物でもお入れします」

「は、はい、すみません……」


 うぅ……こんなことになるんだったら、ちゃんと隅々まで目を通しておくべきだったよ。

 って言うかそもそも受けなきゃよかった。


 まあいいや。

 とりあえず気を取り直してこの用紙に記入を、


 ジ~……


 ん? わっ⁉

 なにかな⁉︎


「な、なんでしょう……?」


 お手伝いさんがこっちを見てる。

 キッチンの方から顔だけを覗かせて。


 あの、その斜めからの角度、なんだかすごく怖いんだけど……


「あ、あのぅ……」

「紅茶でよろしいですか?」


 へっ?


「お飲み物は紅茶でも?」

「は、はい! 紅茶、紅茶大好きです!」

「そうですか」


 ヒョイッ


 もう、ビックリさせないでよ。

 うぅ、綺麗な人だけど笑わないから苦手だよ……


 とりあえず早く用紙に記入しないと。

 えっと、まずは名前から──




 そして、カキカキカキっと!


「ミチル=アフレンコ、職業魔術師、16歳。趣味はご飯。好物は──」


 そんな、何も声に出して読まなくても……


 はあ、とりあえず頂いた紅茶を、


 ズズズッ


「うっ……⁉」


 うわっ⁉ な、なにかな⁉

 強烈な苦みが口の中に!?


「おや? どうかされました?」

「い、いえ……この紅茶、すごく美味しいですね」

「そうですか。まあ、それなりにはしましたから」

「そ、そうなんですね、アハハハ……」

 

 うっ、この紅茶……濃すぎだよ。

 妙に時間かかってるなって思ってたけど、どんだけユラユラさせたんだよ。


 あまりの苦みにお皿を割りそうになっちゃった。

 せっかく入れたくれたのに、とてもじゃないけど飲めない。

 

 うぅ、口の中が、お水欲しい……


 まさか、これは……

 私の反応をみてる?

 試されてる?

 だとしたら結構悪質だよ。


「冒険者ランクは……ほう、Bランクですか。その歳ですごいですね」

「ま、まあ、はい」


 全然褒められてる気がしない。


「パーティを抜けた理由は、方針の違いですか……なるほど」


 まるで尋問を受けてるみたい。

 お願い、誰かここ変わってほしいな。


「はいぃ……それで、その、新しいところを探してて……」

「それはまあ理解できるのですが、どうしてうちを受けようと?」

「へっ? 何でですか?」


 志望動機?

 うそ、そんなの考えてないよ⁉

 だってさっき募集見たばっかりだし。


「いえ、その……正直に申しますと、Bランクなら入るパーティには困らないのではと思いまして」


 あっ、動機とかじゃないんだ。

 素朴な疑問的な、ホッ

 

「それをどうして、しかもあんな適当な……失礼、少し詮索が過ぎましたね」

「いえ、そんなことは……ただその、ギルドに魔術師の募集がなかったんです。いつもはあるはずなのに……」


 って言うか変なのしかなかった。

 依頼も含め何から何までまともな募集がなかったよ。

 あのギルドは一体どうなってるのかな。


「そんな時に、あの募集が目に入って、何だか気になっちゃいまして」

「ほう、それでここに来たと?」

「は、はい」


 うぅ、正直に言っちゃった。

 でもホントのことだし、ウソつくよりマシだよね。


「なるほど。偶然にも募集を見かけ、なぜか気になった。ということですね」


 はあ、こういうのホントに苦手だよ。

 もう私の精神はボロボロ。

 早く帰りたいな。


「ところで、そちらから何かないのですか?」

「へっ? 何がですか?」

「なにって、質問に決まっています。こちらだけ一方的なのは変でしょう。面接じゃないんですから」


 あっ、これ面接じゃないんだ。

 じゃあなにかな? 今までのはただのお話?

 えっ? これが???


 っていうか、それならなんで履歴書なんて書かせたんだよ。

 履歴書の意味だよ。


「し、質問ですか……」

「はい。何かあります?」

「えっ、えっと……じゃあ、好きな食べもっ」


 いや、なに聞こうとしてるんだよ。

 言いかけてアレだけど流石にないよ。


 聞きたいことか。

 ど、どうしよう……

 頭の中が真っ白で何を聞いたらいいか分からない。


 でも何も聞かないのは印象に悪いよね。

 何か聞かなきゃ。

 

 う~ん……

 聞きたいこと、えっと、えっと……

  

「あっ! その本! それってどんな内容なんですか?」

「……はい?」


 あー……


「いえ、その、今のは……」

 

 またまずっちゃったよ〜。

 うぅ、そっちが何か聞けって言うから……


「はあ、始めに聞くことがそれですか? 待遇、仕事の話とか色々あるでしょう」

「すみません……その、気になっちゃいまして、あははは……」


 誤魔化せそうにないけど笑っておくよ。


「……まあいいです。これは私がお世話を預かっている方におすすめされた本です」


 お世話? ここの子どもかな?

 

「へぇ〜、面白いんですか?」

「そうですね。不思議とあの方のはほとんどそうです。まるで私の趣味嗜好が見透かされてるかのようで」


 なるほど、心の内を読む。

 エスパーの使い手かな?


「まだ子どものクセに。と少々気に入りませんが、今では愛読書のようなモノです」


 ふーん。


「そっか、良い子なんですね」


 この人の様子を見るに、そういうことでいいのかな?


 ……って、あれ?

 

「どうしたんですか?」


 お手伝いさん、なんだか目が大きくなってるけど……

 いま私、何か変なこと言ったかな?

  

「いいえ。良い子、ですか……と言うよりかは何を考えているのか、いまいち掴みどころのない方でして。おかげで苦労しています」

「そうなんですね」


 フフッ、口ではそう言ってるけど、苦労してる顔には見えないよ。


「何かおかしなことでも?」

「いいえ、何も」


 フフッ


「……他に何か聞きたいことはあります?」

「う~ん、特にないかな……あっ、ないです!」

「そうですか、でしたら私からは以上です」


 ふう、やっと解放された~。

 緊張もそうだけどドッと疲れが押し寄せてくる。

 はあ、帰って早くご飯食べたいな〜。


「それで、本来ならこのまま旦那様と会って頂きたいのですが」


 ……へっ? 今から?


「あいにく今は外出しておりまして。次はいつ来られます?」


 あっ、なんだ。

 よかった。 


「うーん……それって、明日でとかもいいんですか?」

「構いません。旦那様もおられますし、明日でよろしいと言うことですか?」

「はい!」

「では明日、今日と同じ時間にまたいらしてください」

「はい!」


 ビシッ!

 

 了解したよ!


「それでは門までお見送りします」

「はい!」


 それじゃあ!

 


 ごーとぅーほーむだよ!

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