この世界は可愛さに満ち溢れている

二月ふなし

プロローグさん

第1話 プロローグさん①

「ふんっ!」


 まったく! あのダメリーダー!

 急にあんなこと言って!

 すぐああやってそそのかされるんだから!

 バカなのもいい加減にして欲しいな!


 マルチなんとかってなに?

 なにかな?

 説明されたけど全く分からなかった。

 よく分からないけど絶対騙されてるよ!


 私は止めたから!

 もうどうなっても知らないよ!


「ふんっ!」

 


 ──今は時計の針がどっちも真ん中。

 ちょうどお昼の時間。

 心地よい風、綺麗な青い空、賑わう人たち

 

 たぶん、この中で不幸なのは私だけ。

 

 オレンジの髪をふわふわなびかせて。

 まん丸な眼鏡、奥には青い瞳。

 よくある魔術師用のローブに帽子、お気に入りのブーツさん。


 私、ミチル=アフレンコは今、街中を歩いている。

 なんで歩いてるのかって言うと、それは今さっき冒険者パーティを脱退したから。

 

 理由は省略するけど、まあ、方向性の違いかな。

 急にパーティの方針が変わったんだ。

 いつも通りみんなで集まったと思ったら、急に話を聞かされて……

 ホント急だよ。

 

 私だけ反対して、リーダーと口論になって、それで……


 あれ? これって、追放?


 ううん、そうじゃない。

 だって、私から出て行ったから。

 私が見切りをつけて、自分の意志でパーティを脱したんだから。


 全然違うよ。

 むしろ追放したのは私の方。

 どう考えてもそうだよ。


 ふぅ、とりあえず近くのベンチさんに座ろうかな。

 言い合いして疲れたし、落ち着きたいし。


「……はあ」


 まったく、ミホちゃんはともかく、なんで皆あんなダメリーダーに……


「……やめよ」


 もう過ぎちゃったことだ。

 グチグチ言うのはやめるよ。

 性格があのダメリーダーみたいに悪くなっちゃう。


「よし!」


 ほっぺをパンッ!


 はい! これでおしまい!


「……それで、これからどうしようかな」


 私、パーティ抜けちゃったよ。

 自分でやっといてアレだけど、何も考えてなかった。


「ミホちゃん……」


 グスンッ


 別に、違うから。

 やめてよね。

 出た矢先カッコ悪いとか言わないでよね。


 ただあんなリーダーがいるパーティになんか戻りたくないだけだから。

 全然悲しくないもん。

 

「とりあえず……うん、新しいパーティを探さないと」

 

 こういうのは早い方がいいってお母さんが言ってた。

 入れてくれるところあるのかな。


「それかいっそのこと実家に……ううん、それはイヤ」


 お父さんに会うと色々めんどうだよ。


 う~ん……


 テン、テン、テン、


「……ってダメだよ!」


 ブンブンブン


 いけない、私また頭を悩ませてる。

 ウジウジしてても始まらないよ。

 とりあえず何か動かないと。


「よし! なら、さっそくギルドに──」


 グウ~


「……あっ」


 お腹すいちゃった。

 仕方ないよ、お昼がまだだもん。


 ……周りに聞こえたかな、今の。


 チラッ


 大丈夫そう。


 グウ~


 ちょっと待ってよ、胃袋さん。

 気持ちは分かるけど急かさないでほしいな


 はあ、イライラしてる分余計にそう。

 大事なお昼なのにあんな話するからだよ。

 

 そう、全部あのダメリーダーのせいだよ。

 うん、私はなんにも悪くない。


 はい、というワケで、気を取り直して!


 お昼にするよ!


「フフフッ、なっににしよっおっかな~♪」


 ルンルンルン♪







 ──そして、


「う~ん……! 美味しい~!」


 お口の中がジュワ~って。

 広がる幸せ~。


 う~ん!

 やっぱり私、食べてる時が一番幸せだよ〜


 あっ、ここは私行きつけの食堂だよ。

 依頼が終わった後とかによくミホちゃんと行ってるかな。

 料理が美味しいから気に入ってるんだ。

 

 特にこの謎モンスターのキモとか。

 ちょっと珍味だけど、慣れるともう最高で──


 ふう、お腹が膨れてきたからかな。

 落ち着いてきたよ。


「う~ん……」


 紙を、ピラッ


 これは冒険者ギルドのチラシ。

 ここに依頼とか色々な情報が載ってある。

 さっき外で配ってたから貰っておいたんだ

 

「えっと、今受注可能なギルドからの依頼は……」


 世にも珍しい黒曜蛇の観察、

 近隣に突如発生した巨大メカバード討伐、

 飼い猫の捜索。


「なんか変なのしかないね。それで、肝心のパーティメンバーの募集はっと、どれどれ……」


 腕の立つ海洋職人、

 エンジョイ勢のテイマー、

 闇に堕ちた僧侶でも可。


「むむっ、魔術師の募集がない……」


 どうしよう、モグモグ……私魔術師。

 そこら辺にいるごく普通の魔術師なんだけど。

 って言うかまともな募集がないよ。


 どうしよう。

 最近の魔術師って人気ないのかな。

 募集を見たの自体、結構久しぶりだったけど、まさかこんな環境になってたなんて


 いやでもパーティに一人は必要不可欠だし、そんなことはないとは思うんだけど。


「むむむ……これは困ったぞ」


 頑張れば一人でやっていけないこともない。

 でもやっぱりみんなの方が稼ぎはいいし、ソロでやるより安全面でも段違い。

 私みたいな魔術師だとなおさらそう。


 モグモグ


 ないならないで、自分で一からパーティを作るのも……

 いや、そもそも私がリーダーなんて……


「う~ん、ちょっとタイミングが悪かったかな」

 

 とりあえずギルドには毎日通うとして、募集が来るまでは1人でやっていくしかない、かな。

 生活するお金はまだいくらかあるけど、何もしないワケにはいかないよ。


 現実さん。

 色々大変だけど、仕方ないよね。

 はあ……

 

「こんなはずじゃ……トホホ」


 どうしよう……

 ご飯は美味しいけど、幸先悪すぎだよ。

 

 それに今日の私、ため息ばっかりついてる。

 まだお昼なのに、色々と不安だよ。


 ホント、なんでこんなことに……

 

 はあ、ご飯美味しい。


「心に染みる味……って、うん?」


 チラシに端の方に何か書かれてる。

 

「なんだろう……ぼでぃ、がーど?」


 迷子やペットの捜索から人身トラブル、人に言えないことまで何でも解決。

 人に相談できないあなたの悩み、幅広くご解決致します。


 メイル探偵事務所、助手一名募集。


「興味のある方はぜひ。業務内容、詳しいことは後日説明……?」


 うーん?

 


 これは、なにかな?

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