第5話 りりな、勇者を刈り上げる
「なんだと、レオダニアスが暗殺されただと。」
魔王レオンは弟のレオダニアスが死んだとは信じられなかった。若輩とは言え魔王の一族である、倒せるのは勇者本人かハンター(りょうし)もしくは同等の力を持つ暗殺者(まーだー)くらいであろう、勇者の手は思ったより長いということか。
「勇者の動向を洗い直せ!」
そう指示するとレオンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
本物の勇者一行は偶然にりりなの王国に向かっていた。
王国民は消えた魔人レオダニアスを斃したのは黒髪ロングが美しい勇者サラナミーシュであると囁きあっていた。それは。
「おお!りりな!無事だったのか、街のみんなはりりなが魔人にもう殺されただろうとかなしんでいたんだ。」としろうがりりなを抱きしめながら言った。
りりなは目を泳がせながら答えた。
「え、あ、ええ、なんだか長い黒髪の男の人が助けに来てくれて、逃がしてくれたの、ええ、はい、そういうこと。」
りりなは自分が昔夢想していた黒髪ロングの王子様を思い出して話をでっちあげたのである。まぁ、これは仕方ないことであろう、こうして世界はりりなのでっちあげで大きく流れを変えることとなる。
勇者一行が王国に到着した。
①
勇者一行がりりなの父の理容店にやってきた。
「サラナミーシュで予約していた4人だがよろしいかな?」
「お待ちしておりましたどうぞこちらへ。」
勇者は腰まであろうかという黒髪をなびかせて理容椅子に座る。
「実は私の身体と髪はゴルダ様の加護を受けていてカットも困難なのだ、王国随一の店主ならばカットできるのではないかと思ってな。」「それでは全力を尽くします。」
「俺は丸刈りが得意というお嬢ちゃんにお願いするとするか、僧侶なのにずいぶん伸びちまって。」
「任せてください!御坊様、最近はミリ単位で調整できるようになったんですよ。」
りりなは勇者一行のイーム教僧侶ガンジに3ミリの防御魔法をかける。
「エクスプロージョン!」
防御魔法を解除すると美しい3ミリの坊主頭が出現した。
②
「勇者様申し訳ございません、やはり髪をカットすることはできませんでした、私の魔力では及ばなかったようです。」
「よい、気にするな、私は加護を受けてからこのかた一度も髪を切ることができずにこんな長髪となってしまった、これは神のご意志であろう、よいのだ。」
心なしか元気のない寂しそうな表情を見せる勇者であった。
③
「サラナミーシュ、気を落とすな、そのうちカットできる日も必ず来るさ。」ガンジが背中をバンバン叩いた。
「そうよ、サラナの綺麗な黒髪、私は好きよ。付き添いの精霊使いルディアンヌも慰めてくれる。
「そうだ、一度そちらのお嬢さんに当たってもらったら、さっきの爆裂魔法はなかなかのものだったわ。」魔法使いマリアが提案する、場を盛り上がるかと冗談のつもりだった。
「いいねえ、その子のカット気持ちよかったぜやってもらいなよ。」
こうして勇者の美しい黒髪はりりなに任されることになってしまった。
勇者の皮膚はゴルダの加護により鋼鉄よりも硬くその髪はアラミド繊維並に強靭である。
③
りりなは極度に緊張していた、
しかし、今度は防御魔法は忘れなかったが。
「そ、それではいきます!刈り上げちゃってもいいですかぁ?」
「いいとも!」周りの常連たちはいつもの調子で叫んでしまった。
④
勇者サラナミーシュのトレードマークである艶のある美しい黒髪ロング、世の女性たちの憧れであったサラサラ髪は大半が蒸発し、代わりに完璧で美しいツーブロックが出現していたのである。
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