第6話 疑心

六 疑心


「由衣!、由衣!」

「え、あ、ごめんなさい」

 前の席に座っている加奈が後ろを向いて由衣を呼ぶ声に我に返る由衣。

「どうしたの? ぼーっとして‥‥‥」

「はい、これ後ろに回して」

 配られたプリントを一枚とって後ろに回す由衣。



 月曜日のランチタイム。

 学食で食事する美咲と加奈と由衣の三人。

「最近由衣いつもぼーっとしてるっていうか考え込んでるけど何かあったの?」と美咲。

「悩みなら相談してよ。力になれるかもしれないし」と加奈。

「うん、ごめん、何でもない」

「何でもないことないでしょう。普通じゃないもん。飯田くんと週末デートで何かあったの?」

 土曜日に遊園地で彼氏の飯田とのデートをしたことを知ってる美咲が突っ込む。


「えっ、あ、うん、デートは楽しかったんだけど、でも飯田くんとはお別れしたの‥‥‥」

「「え〜〜っ、どうして!!」」と驚く美咲と加奈。

「私、飯田くんに相応しくないから‥‥‥。飯田くんもっといい子と付き合ってほしいし」

「どうしてよ。由衣飯田くんのこと好きなんじゃないの? それに釣り合わないってどういうこと? 由衣全然可愛いし性格もいいし、釣り合わないなんてことないよ」と美咲。

「ううん、ちがうの、私、最近、本当の自分っていうか自分の本性みたいなのに気が付いて、このまま飯田くんと付き合っちゃいけないって思うようになって‥‥‥」

「それってどういうこと? 意味がわからないんだけど」

 加奈が声を荒げる。

「私、人に言えない性癖っていうか志向があって‥‥‥、ごめんこれ以上言いたくないの」

 そう言って席を立つ由衣。

 あとに残った二人は呆然としながら由衣を見送るのだった。



 その日の晩、

 拓哉の部屋のドアをノックして美咲が入ってくる。

「どうした?」

「兄貴先週由衣に会ったの?」

「あ、うん、会ったよ。イラスト見てほしいって言われて」

「どこで会ったの?」

「いや、家に来て見てほしいって言うから」

「由衣の家に行ったの?」

「うん」

「お母さんいた?」

「いや、出かけてた」

「まさか由衣に何か変なことしてないよね」

「えっ、どうして? 別になにもしてないよ。イラスト見て感想を言ったりしただけ」

「ホントに?」

「ホントだよ、何でそんなにつっかかるんだよ」

「だって、由衣変なんだよ、先週から、ずっと考え込むっていうかぼーっとしてて。それに週末、大好きな彼とも別れちゃったって言うし」

「そうなんだ‥‥‥」

「兄貴何か知ってない?」

「そうだな、進路のことで悩んでる感じはあったけど、それくらいかな」

「そう‥‥‥」

「ところで兄貴、最近麗奈さんと会ってる?」

「え、先週金曜日に会ったけど」

「デート?」

「ああ、忙しいみたいで食事しただけだけど」

「ふ〜ん、別れたりしたわけじゃないんだ」

「別れてないよ。どうして?」

「麗奈さんと別れて由衣に手を出したりしてんじゃないかと思って」

「そんなことしてないから」

「由衣、すっごく真面目でいい子なんだから、遊びで手を出したら私が許さないからね」

「わかってるよ」

「ならいいけど‥‥‥もう由衣と会う予定はないの?」

「わからない、相談されたら会うかもしれないけど‥‥‥」

「そう、わかった、ありがとう」

 そう言って美咲は部屋を出て行った。


 土曜日の昼に新宿で会う約束をする二人。

 LINEで由衣にメッセージを送る拓哉。

「土曜日は生脚でミニスカートでくること」

「わかりました。楽しみにしています」

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