第5話女神のありがたくないお告げ
俺の十歳の誕生日に、神様ことオリンポス女が夢枕に立った。
「次の聖女が決まったわ。あなたが導くべき聖女は、リリシア・スタルツよ」
十年前に言ってくれ、と心の底から俺は思った。
「言うのが遅すぎるだろ。リリシアが聖女だとは思ってないから、俺はリリシアに何の教育もしていないぞ」
半分しか血が繋がっていないしということで、妹の事など俺は放っておいていた。それが原因というわけではないが、妹のリリシアは見事に捻くれてしまっている。
ヒステリーを起こす母親を操って密かに笑う十歳児が、どこの世界にいるというのだろうか。聖女どころか悪役としての成長を刻一刻と遂げているような気がしてならない。
「聖女っていうのは、純粋無垢でないといけないんだろ。リリシアには無理だ」
十年前から純粋培養しているならばともかく、十歳ともなれば人格形成が成されている。今から純粋無垢にしろと言われても絶対に無理だ。
演技ぐらいならば出来るのかもしれないが、いつかは襤褸がでる。リリシアを聖女にするより、そこら辺の女の子を拾って聖女に仕立てた方がずっと簡単であろう。
「というか、もっと早く教えておいてくれ!」
誰が聖女かは聞けずに転生したので、俺は今まで誰が聖女になるか分からなかった。聖女候補と対面すればオリンポス女の不思議な力で分かると思っていたので、大丈夫だろうとタカをくくっていたのが悪かった。このオリンポス女をちょっとでも頼ろうとした俺が馬鹿だったのだ。
聖女という他人を使って自分の評判を上げようとし、その聖女を育てることすらも俺に託している時点で他力本願の極みのような存在であったのである。何にもしてくれないことを前提にするべきだったのである。
「しかたがないでしょう。人間の営みなんて神からしたら一瞬なんだから!」
オリンポス女は言い訳をしていたが、俺は何も信じなかった。俺にリリシアのことを言い忘れたあげく、うたた寝でもしていたのだろう。この適当なオリンポス女であるならばありえる。
俺の最初からなかった信仰心が、一気にマイナスまで下がった。俺は、この人生でオリンポス女を信じる事などないだろう。
「ともかく、妹を誰もが尊敬するような聖女に育てなさい。期限は、彼女が十四歳になるまでよ。十四歳になるときに、あなたの妹は新たな聖女に選ばれるわ。人の怨みや妬みを癒すような聖女の力を得てね」
俺は、唖然とした。
たった四年で性格がネジ曲がりそうな人間を更生させろなど無理だ。俺が、そんなことを考えていれば「生まれ変わらせたときの約束を忘れたの!変な眉毛のくせに!!」と罵られた。
「変な眉毛を引き継がせたのは、そっちだろうが!顔立ちは前世と別人なのに、眉毛だけ前世のままなんておかしいだろう!!」
俺は死んだ母親譲りの黒髪なので、眉毛も真っ黒だ。そのせいもあって身分は西洋の貴族だが、眉毛だけ平安貴族という珍妙な見た目になっている。ここら辺の匙加減は、全部がオリンポス女のせいだろう。人の見かけで遊ぶなと言いたい。
「うるさい!うるさーい!さっさと聖女の教育を始めなさい!!」
以上が、俺が受けたまったくありがたくないお告げである。
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