第5話 安城 希美を家まで送り届ける。
「獅子堂くん、本当にありがとうございました。こんな身勝手なお願いを聞いてくれて、どう恩をお返しをしたらいいか……」
無事、
「お返しなんて全然いいし、もしこれからも心配なら、可能な限り力になるから」
「ありがとうございます……。でも、ただでさえご迷惑をおかけしたのに、これ以上力を借りるなんて……」
本当に律儀で、真面目な人なんだな……と拓海は思う。
原作でもそうだった。
(希美は受けた恩は絶対に返さないと気が済まない性格で……だからこそ、獅子堂 拓海の強引なナンパから助けてくれた主人公である野丸 普人には、これでもかってくらい尽くしてくれるんだよなぁ……)
「その……ストーカーのこと、ご両親や先生には相談したりとかって……」
拓海がそう問いかけると、希美はややうつむいて答える。
「いえ、その……本当なら相談すべきなんでしょうけれど……」
そこまで聞いて拓海は悟った。きっと相談していないだろうと。
(親や先生に相談するって、すごく勇気のいることだよな……)
拓海はこの世界に転生する前……成瀬 隆一として現実世界に生きていた頃、高校でいじめを受けていた。
しかし、それを親や教師に相談することなど出来なかった。ましてや警察に通報するなど。
(心配をかけたくないし、なによりそんな自分がみじめで恥ずかしい……だったら、黙って耐えていた方がよっぽど自分を保っていられる……Web小説のストーリーやコメント欄ではよく見かけるけど……警察を呼べばストーカー野郎やいじめっ子が一瞬で捕まって解決なんて、そんな簡単なものじゃないよな)
ここはWeb小説の世界なのに。皮肉なものだと思いながら、拓海は言葉に詰まってしまった希美に寄り添うように言葉を続ける。
「ごめん、野暮なことを聞いた。その……もし安城さんが嫌じゃなければ、この件が解決するまで一緒に帰るよ」
「えっ、でも、そんな……」
きっと希美は、なにもお返し出来てないのにさらに助けてもらうことに引け目を感じているのだろう。
「俺は、安城さんみたいな綺麗で可愛い人と一緒に帰れるだけで充分お返しもらってるから」
「なっ……。かっ、かわっ、きれい……とか。~~!! なっ、なにを言ってるんですか……!」
真面目な家庭で育った希美は可愛いとか綺麗とか、そういうことを言われるのにとてつもなく弱いのだ。顔を真っ赤に染めて両手で押さえている。
(可愛い……。これは原作知識が活きたな)
「わっ、わかりましたよ……! 獅子堂くんがそこまで言うなら……頼りにさせていただきますからね!」
こうして、しばらく拓海は希美の登下校に付き合うことになった。
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