第4話 実は性格最悪な原作の主人公がざまぁされる

 拓海が希美の隣を歩いて帰路につくのを見て、原作の主人公である野丸のまる 普人ひろとは地団駄を踏んだ。


「くそっ、くそっ! なんでこうなるんだよ……」


 普人はこの放課後、計画通りなら希美を助けて惚れられるはずだった。いつも読んでいるラノベのように、不良から美少女を助けるカッコイイ主人公になる! それが彼の思い描いていたシナリオだった。


 そのために今日まで準備をしてきた。


 希美には1ヶ月前からストーキングを開始して、不安を煽ったところで今日脅しをかけた。


『放課後、校門の前で待っていてください。約束を守れなかったら刺しちゃうかもしれません☆』


 おおかたそんな内容の手紙を彼女の机の中に仕込んだ。席替えを除いて最後の授業である体育の時間、普人は見学をして誰もいない教室に忍び込んだのだ。手紙を見たのだろう、希美は予想通り放課後に校門の前でひとりたたずんでいた。


(そこまではよかったんだ……)


 同時に普人は拓海のことも脅していた。


 もともとこの計画は、拓海の妹である芹菜の弱みを握ったところから始まった。普人は芹菜のストーキングもしており、彼女が大人の男と会っていることを知った。


 そして会話の中で、今日の放課後にラブホで行為をするということを知った。いわゆる売春だろう。


 そのネタを餌に、普人は拓海の机にも仕込んだ。『放課後、安城 希美をナンパしろ。さもなくば妹の不祥事をばらまく』といった内容だ。しっかり芹菜の会話を録音した音声もボイスレコーダーで仕込んでおいた。


 しかし実際には、拓海が早々と教室を出たことで彼はその手紙もボイスレコーダーも見ていなかった。しかも、これは普人も知らないことだが昨日から拓海が芹菜を可愛がっていたことで、彼女は売春にいたる前に踏みとどまっていた。


(最悪だ。普通に希美が獅子堂への好意を持ってしまった上に、あいつストーカーのことまで獅子堂にバラしやがった)


「くそっ、くそっ! 獅子堂も希美も死んじまえ!!! ――って、うわぁっ!」


 八つ当たりするように学校の敷地を囲う壁を蹴りつけていると、普人は滑って地面に倒れ込む。


「くそぉ……」


 怪我をして起き上がれなくなっている普人を、生徒たちがバカにして通り過ぎていくのだった。


 ――と、このように……。


 実はこの主人公の野丸 普人、普通にストーキングをしたり人を操ったりする、非常に腹黒で最低な男なのである。


 原作では彼の思惑通りにハーレム状態になっていたため、欲望が表面化していなかったのか。あるいは、なんらかの思惑によって彼の裏の部分が意図的に描かれなかったのか……。


 なんにせよ、この世界に成瀬 隆一が獅子堂 拓海として転生して来たことにより、彼の悪事はこれからも全て妨害されることになるだろう。

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