第3話 1人目のヒロインからの好感度が上がってしまう

 放課後。


 拓海は危険なヤンデレヒロインの犬神 エリカとはできる限り接触しないようにしつつ、早々と教室を出ることにした。


 拓海は自転車で高校まで通っているため駐輪場へと向かう。早く校舎を出たためか、まだ人はそこまで多くない。


 自転車にまたがり帰路につく。校門を出たところで、1人の女子生徒がたたずんでいるのを見かける。そして、彼はその女子生徒を見てある予想に至った。


(あの女子生徒、1人目のヒロインじゃないか?)


 原作の獅子堂 拓海はろくにクラスメイトの名前を覚えていなかったらしく、彼の記憶の中から名前を探ることはできなかったが、状況と彼女の容姿から彼はその女子生徒が原作で1人目に登場するヒロインの安城あんじょう 希美のぞみだと理解する。


 希美は黒髪のロングヘアで楚々とした印象でありながら、スカートは短くアクセサリーも身に着けていたりとかなりお洒落だ。


『ギャルゲーヒロインの1人目感があってよき!』とコメント欄に書かれていたのを拓海は思い出す。


 原作では獅子堂 拓海がこの安城 希美を強引にナンパしており、それを主人公が警察を呼んで助けるというWeb小説ラブコメの王道展開だった。


 もちろん彼はナンパなどせず、希美を通り過ぎて普通に帰宅する。それでフラグ崩壊……のはずだったんだが――


「待ってくださいっ!」


「えっ?」


 なぜか希美の方から話しかけて来た。


「あのっ、わたし最近ストーカーに付きまとわれていて……今日だけでも、一緒に帰ってくれませんか?」


(なっ、なんだこの展開は……こんなストーリー原作にはなかったはずだぞ?)


 拓海は戸惑いながらも真剣にそう訴えてくる希美を放っておくことはできず、自転車から降りて話を聞くことにした。


 どうやら希美は最近、何者かにストーキングされている気配を感じるのだという。そこで拓海はあることを思い出す。


(そういえば原作内でもそんな設定があったような……確か主人公が一緒に行動するようになったことでストーカーも鳴りを潜めたとか、なんか曖昧な感じでフェードアウトしていった気がする)


 だったらこのまま主人公を待っていれば解決するのではないか、という気もするが、よく考えると拓海が希美にナンパをしないとフラグは成り立たないわけで、主人公が警察を呼んで助けるという展開には発展しない。


(主人公がストーカーから彼女を助けることが出来る可能性は低いか……)


「事情はわかったよ」


 そう考え、拓海は希美のお願いに同意をするが、1つだけ気になることあった。


「けど本当にいいの? 俺はその、不良だし……クラスではみんなから嫌われてる」


 安城 希美は優等生キャラで、原作でも不良を嫌っているという描写が存在する。


「確かに今まではそうだったかもしれませんが……今は違うでしょう? 見た目を変えて、授業に真剣に取り組む獅子堂くんを、今日1日見ていましたから」


 そう言って希美は微笑む。


(安城 希美をストーカーからも守れるし、これで主人公から警察に通報されてざまぁされる展開も防げる。彼女がいいならそれでいっか……)


 そんなことを考えながら、自転車を押して希美の隣を歩く拓海は気付いていなかった。


(今までの自分の不良行為を改めて、真面目に生きようとする獅子堂くん……とても素敵です!)


 希美からの好感度が爆あがりしていることに……。

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