第1話 ギャルの妹や美容院のお姉さんからの好感度が上がってしまう。
洗面台に行くと、まずはだらしなく伸びるひげを全てそっていく。
「かなり綺麗になったな」
ひげがなくなるだけでもずいぶんと印象が変わるものだ。そしてまじまじと鏡を見ていると気が付く。
(こうやって見ると、獅子堂 拓海って結構イケメンなんだな……)
そしてこれは獅子堂 拓海の本能なのだろう、無意識的にピアスへと手を伸ばしそうになるが、転生前の隆一の意識がそれを阻止する。
(ピアスはつけないぞ。あとは……清潔感を保つためにスキンケアもしておくか)
拓海は洗顔フォームで顔を洗い、化粧水を顔に馴染ませていく。
「兄貴……こんな朝っぱらから何やってんの?」
と、ふいに声をかけられて振り向くと、そこには金髪のロングヘアをした美少女がいた。そして、獅子堂 拓海の記憶が理解する。彼女は妹の獅子堂
(やっぱり本物を見ると新鮮だ……てかめっちゃ可愛いし)
隆一自身も芹菜の存在は知識として知っていた。実は芹菜も原作ではヒロイン対象なのだ。拓海は最終的に芹菜から嫌われて、妹は主人公のハーレムに加わってしまう。
(主人公のハーレムに加わるのはまぁいいとしても……嫌われるのは嫌だ! 家で一緒に過ごすのに、毎日ギスギスしてるとか耐えられない!)
作品内では金髪のサイドテールと表記されていたが、今は起きたばかりだからだろう、サラサラな髪は腰まで真っ直ぐに伸びている。そしてパジャマ姿だ。
寝起きでもかなりの美人だった。
「芹菜おはよう! 今日から見た目をちゃんと整えようと思ってな、これから美容院で髪も切ってくる」
「う、うん……? まぁ、いいんじゃない」
芹菜はいつもと明らかに様子の違う拓海に歯切れの悪い返答をする。
「あと、今まで全然兄らしいことをしてあげられなくて申し訳なかった」
「はっ、はぁ?」
拓海が芹菜から嫌われる一番の要因は、愛情を与えてあげなかったことだ。物語序盤、芹菜は拓海に対して比較的好意を持っている方なのだが、彼女に冷たくして他のヒロインたちに構ってばかりいたことで徐々に嫌われていく。
拓海は手始めに頭をさげて謝り、それから芹菜の頭をなでた。
「ちょっ、やっ、やめろし! なでんなって!」
芹菜はそう言って手で払いのけようとするが、頬は赤く染まっていた。
(よし、これからもっと芹菜を可愛がって、嫌われるルートは絶対に回避するぞ!)
拓海は気付いていなかった。嫌われるのを回避するどころか、思っている以上に芹菜の好感度が上がり始めていることに……。
◇
その後、妹と母親の朝食を作ってから拓海は家を出た。
獅子堂 拓海の家庭は3人家族で、母子家庭だった。ひとりで働いて自分と妹を育ててくれている母親にも、これから恩返しをしていきたいと考えている。
自転車を漕ぎ、目的地へとたどり着く。そこは拓海が通っている美容院だ。待合室で待機していると、いつも拓海を担当していると思われる美容師のお姉さんがやってくる。
名前は
(わっ、リアル渚沙さん……めっちゃ綺麗だ)
「お待たせ~、今日はカット? それとももっと派手にしちゃう?」
渚沙は気さくなお姉さんという感じで、緩くウェーブがかかった茶髪のロングヘアをした美人だ。転生前は陰キャだった拓海はドキドキしてしまう。
「あっ、ええと……。今日は黒染めをしたいんです。あと、短めにカットでお願いします!」
「えぇっ、いいの?」
渚沙は驚いた様子だ。それもそうだろう、今まで伸ばしていた髪を短くして、せっかく染めていたのにまた黒く戻すのだ。
「さては先生から注意されたな? まかせて、拓海くんは素材がいいから黒髪ショートでも似合うよ。お姉さんがもっとカッコよくしてあげる」
カッコよくしなくても目立たなくしてくれればいいんだけどな……と思いながらも拓海はお礼を告げた。
そして渚沙と雑談をしながらカット、そして黒染めをしていく。渚沙はコミュ力が高く、転生前は会話が苦手だった彼でもまったく苦にならなかった。
「お待たせ。ねねっ、拓海くん鏡見てよ。めっちゃカッコよくない?」
そしてすべての工程が終わり、鏡を見ると爽やかな好青年という印象のイケメンになっていた。
こうして容姿を一変した拓海は、これから次々とヒロインたちの注目を集めて行ってしまうことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。