Ep.37,5 魔王

 悪魔が討伐されたことは魔王たちにも知れ渡っていた。このあたり一帯を牛耳っているはずの魔王でも手を出そうとしなかった悪魔、それに監視を付けていたのは当然のことだ。ロットはあの異界の悪魔にしては強すぎた。上位悪魔グレーターデーモンの中でも特に強力な個体には卿の位が与えられる。上位悪魔卿と大悪魔将アークデーモンの差は小さい。そして、大悪魔将は魔王と同格とされる危険度を持ち、悪魔王ともなれば未曾有の天災と評される。それらを超える始祖は神と同様に扱われる。


 大悪魔将に近い存在が自由に動ける状態を許容するはずもない。ルガ・アルマは明晰な頭脳を持つアンデッドの魔王だ。自身の力は始祖にも届き得ると信じている。だが、配下たちはそうもいかない。自分にある切り札はあくまで自分のためにしかならない。ロットはルガ・アルマにとっては小物だったが排除のためには損害が大きい。それを、人間が仕留めた。これは行幸だ。悪魔を倒せる個の存在があったわけではなく、ロット自身の油断とコンディションが原因。人間があれに勝てたのは幸運の結果。


「コマにするに値する」


 ルガ・アルマはアンデッドだ。死体をアンデッドに変化させることができる。ロットを殺した人間を殺し、アンデッドとすることができれば魔大陸に戻ることができるだろう。


「ジーベック、あの国を終わらせて来い。我はロットの死体を探しに行く」


 闇目が良く効くアンデッドの城に明かりは一切ない。故に、どこを見ても暗がりなのだがなかから出てきたのは体を分厚く硬い外皮鎧に囲まれた蟲魔人インセクターだ。ルガ・アルマの持つ唯一生者の手ごま。近接戦闘を押し付けることができればロットをも屠れる強者だ。


「死体を持ち帰るくらいは我がしましょう」


「お前は国を滅ぼしてこい。想定よりもあの国は手強そうだ」


「承知しました」


 ルガ・アルマの向かう戦場には無数の死体があった。ロットの仕掛けた大侵攻を止めて見せた人類側にも被害は出た。それのおかげでアンデッドの軍勢を作るための材料が豊富なのだ。


 中には進化しうる良い材料もあった。

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