Ep.27 ブレイバー
だれ一人欠けることなく一年間の士官学校生活が終わり、卒業。のちに、軍への正式入隊まで済んだ。新設魔道大隊、世界初の人類生存権拡大に向けたスピアヘッドとしての役割を期待される部隊。名前を、革命前の連邦の原型となった国のその昔から今まで永遠と語り継がれる英雄譚、物語では魔王を討伐し人類に平和をもたらしたとされる人間の軍隊から取っている”ゼルフィレイド”という男の名前だ。実際には存在しない伽話らしいが、それもそのはず。魔王に勝てる人類なんてそうそういない。だから英雄と呼ばれるのだが。不名誉なことに俺はコードネームが与えられた。管理するためというか、嫌がらせのようにしか思えない”ブレイバー”というもの。勇気を持つもの、勇者、そういう意図があるらしい。
「ブレイバー、少佐就任おめでとう」
「やめてくれライオス。・・・お前は二つ名受け継ぐのか?」
「数字のこと?武器に彫刻しといたよ他もね」
ライオスはアサルトライフルを選んだ。バースト射撃もフルオートも、当然単発も選べる高性能なものだ。シルはワークスマンライフルを選んでいる。場合によってはフルオートも撃てなくはないが本来の使い方とは違う。ケルトは軍刀と拳銃を二丁持っている。一丁は対物ライフルの弾を流用できる一発装填型の威力特化のものだ。もう一丁は、50口径と対人性能なら過剰な威力を誇る武器を装備している。モンドは軍刀と、軽機関銃を持つ。レイズは、短刀と50口径の拳銃にアサルトライフルだ。フィンは対物ライフルを持つ。そして、俺はグラップルガンに軍刀に拳銃に鞭に投擲物に・・・。とりあえず、すべて魔法が込めることのできる武器であり、魔法使いにとっては現時点最強の装備である。アウラは一般兵装を着用しており、彼女は後衛で治療することが仕事なのでこれは普通だ。最も質で言えば見劣りしない高級なものだが。
「準備しとけよ、初任務まで時間がないから」
準備とはいえ、すべて軍から支給される。なので準備をするべきは心構えだけだ。
「どこ行くの?」
「アウラのとこ」
アウラは最近元気がない。彼女はもともと戦いが好きなわけではない。ここに来たのも、ここで仲良く平和に暮らせると思っていたからであって帝国から離れたいだとか、同胞を助けたいだとかが理由ではない。当たり前のことだが、戦争は怖いしものだ。死も殺しも恐れを抱かない人間は何かが欠落している。ただ、ファイドと離れることだけが嫌でついていく。世界のすべてがファイドであり、フィンであり仲間たちであるのに、それらすべてが戦場に立つのだ。待ってられるはずもない。どうせ、そんなことだろうと察しはつく。無駄に長く連れ添っていない。士官校にいた時からずっと、声をかけていた。だが、口をつぐんでいたから様子を見ていただけだ。
「開けるぞ」
アウラの部屋の扉をノックして直ぐに開ける。
「着替え中だったか、ごめん」
一回閉じる。
全く着替え中なら声をかけてくれればいいのに。勝手に開けたのは俺なのだけどね。
「終わった?」
「終わりました。兄さん、どうしたんですか?」
少し時間を置いたが若干まだ顔の赤いアウラが扉を開けてくれた。
「もう様子見は終わりだよ。顔が暗い、話ししよ」
胡麻化そうとするアウラを少し睨んで黙らせる。
浮ついた思考をする者から死んでいく。最も死から遠い場所に配属されたとしても、結果はそう変わらない。それが戦争だ。
「・・・怖くないんですか?」
アウラは俺がここに来た理由を察し、間をおいてから語り始めてくれた。
「怖いに決まってるだろ。フィンを失うのもお前を失うのも怖い。もちろんあいつらも」
「私は自分が死ぬのも、兄さんやフィンに会えないのも怖いです。だから、一緒に行きたい。でも・・・」
「お前が後衛にいるなら、助けに行けなくなることもある。が、死なせるつもりもない。それにどうしても無理なら戦場には来るな。其のままなら絶対に死ぬ」
高圧的に言うのは死なせたくないからだ。母が守った、妹の初めての友達、貴重な治癒魔法、それもあるが、それ以上に家族だから。失いたくない。いつしか大きくなったアウラの存在に臆病になる自分を奮い立たせるために、ただ淡々と事実だけを言う。アウラのためというよりもむしろ自分のために。
「私のゴールはここでした。その先なんて見たこともない。きっと、フィンも同じだったのにフィンは強いから」
涙を浮かべるアウラに、申し訳なさが募る。巻き込まれているだけだ。いつでも離脱していいと言いながら、アウラの力を求めていた。それを知りながら、偽善ばかりを口にしているのも理解していた。どうせ自分はブランなのだから。
「フィンはきっと俺に付き合ってくれているだけじゃないと思うぞ。フィンは人をよく見るから、帝国時代は友達が一人もいなかった。俺はそれを醜いところしか見えないからだと思っていた。でもあいつが見ているのは人間を形作る事実や歴史ではなく人間性と行い。アイツはあいつらを家族と思っているから戦えるんだろうな」
人間性が善良であればその人物に一定の好感を持つのは当然であり、醜ければ忌避するのも必然。しかし、人間性があっても行いが悪いという場合もある。善良な心があっても同調圧力に負けてしまったり、それほどの行動力がなければ意味がない、とそう思っているのだろう。
フィンはきっと、アウトキャストを一人の人間として、家族のように思ってくれている。それはきっと、苦楽を共にしたからだけではない。彼らの人間性が美しかったからだと思う。フィンは優しいから、いつも付き合ってくれるが、自分は曲げない。本心からの欲求にだけ従うから、家族の同胞の解放を絶対としている。
だがアウラはどうだ。
元は地獄を強要されただけの女の子。彼らと同じ境遇にありながら戦場に送られず、いつの間にかあの国で最も良い待遇を受けた色付きであったのだから。それが、急に戦えと言われて戦えるはずもない。第一まだまだ幼い。人格を形成する幼少期から地獄を味わった分余計に。
「悪いことだけを考えるな。戦いは終わる。結果はどうあれ最期の時に全力で笑えるように生きた方がいいぞ」
「兄さんは今死んで笑えますか?」
「今は笑えないな。お前が立ち直れたなら、まあいいかって感じ?てか、比喩だよ?つまるところ後悔しない方を選んで全力を出すしかないってこと」
俺は結局のところ自己満足をモットーにして生きている。その過程で正義を振りかざしてみたり、悪を演じてみたりしたところで最終的に「全力で生きた」と言って死にたい。それが誇り高く死んでいったアウトキャスト達と同じ終わり方だから。それに、彼らのための贖罪にもなりえる。
「俺たちに合わせなくていい。自分の人生は勝ち取るものであって与えられるものじゃないからな。アウラならできるよ、努力家だし」
言いたいことは終わったから、これで立ち直ってくれなければ後はない。本心だし、確信している。アウラならどこでも、全力を出せる人間だ。なにせ、士官校での成績は上位10人に入っていた。数百人は居たというのに、触発されてか自発的かそんなことはどうでもよく確かな時間をかけた努力をしていた。
「少佐の権限でしばらく待っておいてやるし、除隊もすぐに手続してやる。決心着いたら声かけてくれよ」
扉を開いて、自室に戻る。やるべきことは多い。
士官校を出て直ぐに少佐に任命されたのは正直に言えば意外だった。というか前例のないことであろう。
「ヤッホー聞こえてる?」
「ヤッホーじゃありませんよ総統。なんで自分が少佐なんですか」
自室のタブレット、入室した時から接続されていたらしいそれには大統領の顔が映っていた。アポなしで電話をかけてくるなんて、どれだけ暇なのだろう。いつでもつながると思わないでほしいものだ。
「そりゃ能力至上主義だからだろ?士官校は主席、実力も内の最高戦力と遜色はないし、頭も切れる。腐らせるわけにはいかないし、君の部下も君か
「そんなことはないでしょうが・・・それで用件は何です?」
一気に神妙な雰囲気になり、総統にふさわしい声色と表情で語る。
「魔物が築城を始めた。おそらく貴官が対峙した悪魔の指示だと思われる。なお、その城には魔力砲台が確認されており首都には届かずとも、防壁を大破させる可能性がある。よって、ファイド少佐の部隊並びに他4個大隊と連携を取りこれの排除を命ずる」
「了」
国墜としを本気でやる気になったらしい。築城、戦争では高難度の戦術だ。人間であれば、まずは制圧するために拠点を作り出す。魔物は拠点など作らない。その頭脳がない、と思われてきた。実際は、悪魔に統制を取られており頭脳が機能しないただの傀儡となっているだけだが。本来の魔物は個体としてもっと強いはずなのだ。それが悪魔によって戦術を無理やりに適応されたから、違う厄介さがあった。まともな戦術を取らずとも簡単に滅びる人間、あれらが適当だったのは単にこれだ。
「二国間の共闘、万が一にも叶わない夢物語だが、それができれば魔物相手も楽になる。タイミングからして、原因は俺たちですね」
「そう悲観しなくていい。君たち新規参入の兵力は重要だ。おかげで、不可能ではなくなったよ」
「飛行戦闘機による対地攻撃は?」
「すでに試したが空にいる魔物が厄介でね」
戦闘機がいかに自由に飛べたとしても、実際に空に生きる魔物相手では赤子のような動きに映るだろう。それに、戦闘機は玉数や機数に限りがあるがワイバーンのような高位種には無制限のブレスがあったりする。空軍戦力はあまり期待できない。
「現在は飽和攻撃を決行し、築城が序盤であったこともあり破壊に成功したが魔物は眠らない。今より3週間の後に出撃を命ずる」
「了」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます