Ep.25 士官校

 士官校は全員が入学した。8人が全員欠けることなく入学できたわけだが、それなりに大変らしい。帝国の様式とは違い、ランニング、筋トレが目ニュウーに加わる。なかった訳ではないが、それほど重要視されていなかったためにないがしろにされていた。だって、管制官に体力は不要だから。


「ちょっと大変だね」


「でも魔力でどうにでもなるから僕らはいいけどね。本当に大変なのはフィンなんじゃない?」


「少佐には二周も差を付けられてるんだぞ?あいつだけ異次元だろ」


「なんか、好敵手?と会ったみたいでやる気あるみたいだよ」


 本気は出さずに魔力で強化した体で一定のペースを保ちグラウンドを周回する。魔法の利用は本来規制されるのだが、彼らはバレていない。それだけ魔力操作が卓越しているということだ。確かに、実戦で魔力が使えるのだから使うことになれていた方がいい。


「なんだよそれ、笑える」


「なんてったって、剣術で負けたらしいよ?」


「こんなに文明進んでいる国であれに剣術で勝てる奴がいるなんて、物好きもいるな」


「だよね。てか信じられないけど」


 笑いながら、「まさかー」と流した一同だが、三周差を付けられたときに見た表情を見たらわかった。


「まさか、ね」


「まさかだな」


 機関銃も、戦車も戦闘機だっていくつもあるこの国で、剣術で戦いそれもファイドよりも強い人間がいるなんて信じられない。帝国―近接特化での戦場―でさえ居なかったのだ。


「始めて見た、兄さんのあんな顔」


「というかフィンもたいがいだよね」


「それな、何で生身でついてこれんだよ」


「魔力の内包量に比例するらしいよ。兄さんよりも多いんだ」


 嬉しそうに、誇らしそうに言った。ファイドの魔力量はたいして多いわけではない。平均よりは少し多い、という程度だ。スキルの使用は魔力を消費しない。だから魔法の使えないブランにとって、魔力量はあまり関係はない、と思われがちだ。結局のところ、魔力量はタフさと持久力に比例するらしい。見かけによらずファイドよりもフィンの方が丈夫なのだ。


 もちろん、肉体的な要素によってもタフさや持久力は変わる。実際、ファイドにフィンでは持久力では勝てない。だが、外付けで魔法が使えるようになる装置を使えば、魔法が扱える回数も変わってくる。ファイドが帝国で作り上げた粗悪品、技術は同じだがより発達したものがこの国にはある。だから、魔力量が多いことは決して無駄ではない。


「なるほどなー」


 雑談しながら、平均よりも圧倒的な記録を残し続ける彼ら。それを平然と追い抜くファイドに注目が集まるのも当たり前だった。


「記録更新者が一度に8人・・・今年は豊作年か」


「これが帝国の化け物か」


「アウトキャスト、戦狂いの人外が」


「―いい気になりやがって」


 聞こえてくる雑言、この場にいる誰もそれには聞く耳を持たない。だって、それが日常だったから。


「お前ら、帝国の糞どもに成り下がるつもりか?年も下の子らに負けてるくせに何を言っているんだバカ者ども」


 教官は思ったよりも気持ちのいい人間らしい。ざわつく声がぴたりと止んだ。それが以外で、異国に来たのだな、と思った。


「流石は元佐官だな。だが、次は射撃だぞ!」


 ボルトアクション式のスナイパーライフルと自動拳銃が一丁ずつ。フィンは寸分のずれもなく、始めに的に開けた穴を弾丸が通る。


「ウッソ」


「本当に化け物じゃん」


「そうだよね、少佐の妹だもんね」


「普通じゃないよね」


 やはり誇らしげなフィン。射撃だけは異次元の領域にいる。理論上、この射撃場では彼女の実力は測り切れない。


「兄さん勝負だよ!」


「マジか、よっしゃフィンお前何点だった?」


「満点!」


「・・・やっぱりな」


「少佐が負けるとこ見れるよ」


「え、マジ?」


「それは視たい」


 成績上位者同士の戦いが注目されないわけもなく教官でさえも人だかりになる。


 一発ずつ本気で狙い定める。一発でもズレたら負け。未だかつてこれほど緊張したことがあろうか。


 結果は拳銃、満点。スナイパーライフル、10発敵中。一発は的の中心からズレており得点が下がる。結果、点数にして5点でファイドが負けた。


「負けた・・・」


「いや十分でしょ」


「やっぱりすげぇなフィン」


「そうでしょー!」


「ほんとに仲いいよね、この二人」


 その後も攻撃魔法ではレイズが、索敵魔法ではライオスが、防御ではケルトが、魔法座学ではシルが、治癒魔法ではアウラが、複合魔法ではモンドが、それぞれ史上最高記録を達成した。


「連邦に勝ったな」


「魔物に勝てなきゃ意味ないでしょ?」


 モンドの冗長もレイズにへし折られる。自分たちが失っていた青春、学生時代を獲得したからだろうか、楽しい時間がたとえ一年という長い期間であっても一瞬で過ぎ去った。



 士官校最後の週、この日行われる試験を行うことで配属先が決まる。


「卒業試験はゴム弾による演習だ。ゴム弾だからと気を抜いていたら失神するくらいには威力があるから実戦と思うように」


「魔法の使用は制限があるのでしょうか?」


「いやない。最初に行ったが殺傷能力のある魔法以外は使用可だ」


 他に質問がないことを確認して、教官は配置を候補生に教え海鮮の合図を切った。


 陣営はファイド、ケルト、ライオス、シル。対するのはフィン、アウラ、モンド、レイズだ。




 地の利はこちらにあるが、魔法によっては地形を破壊することだって造作もない。殺傷能力が高いかどうかは、対人かそうでないかによって決まるらしい。威力が高くとも、人間を狙って直撃しなければ問題ないということだ。


「勝てるの?」


「遠距離はフィンの狙撃があるし、手傷を負わせてもアウラに治療されるし、魔法戦ではモンドとレイズがいるアイツらには勝てないよ」


「勝てないわけじゃないけど、こっちは近距離特化なのに、あっちは近遠距離に対応できるってのは大きいよね」


「近距離戦でも結構互角だよね?どうやって近づくの?」


「本気で勝つならまずアウラから墜とすべき」


 しばらく考えたが、やはり決め手に欠ける。レイズの戦闘能力は厄介だ。ファイドの持っている武器は支給されたゴム弾だけ。戦闘能力はかなり欠落している。魔力結界が使えるレイズには無力もいいところだ。


「如何するの?ファイド少佐」


「特攻。魔法相手に籠城戦は無理だし、そもそも城ないし。フィンの狙撃はかなり厄介だけど、結界で阻めるし。相手全滅させるまで終わらないわけだし、全面戦争しかない」


「勝てるの?」


「突出した戦力が向こうにいるだけで、平均で見れば大差ない。フィンとアウラはライオス一人でどうにかなるんじゃないか?」


「なるけど、いいの?」


「ん?―問題はレイズだけど、こいつはケルトかな?俺はモンドをボコす。シルは全体的にフォローな」


「モンドには勝てるの?」


「楽勝」


 とりあえず作戦は固まった。結局、作戦は建てたところでこのまま通ずるとは限らない。重要なのは誘導できるかどうかだ。




「相手は少佐か~楽しみだね」


「楽しみなものか!あいつ絶対俺のこと狙ってくるぞ!」


「そうですか?」


「フィンとアウラは妹だし絶対に手を出さないだろ!ここで男は俺だけ、俺が少佐と戦うんだよぉぉ!」


「すっかりトラウマなんだね」


 トラウマにもなる。ウィスターとの試し合いは結果勝利したらしいが、剣術に関して負けている。それが気に食わないらしく弟子にあたるモンドには一際強く当たっていた。それもこれも、モンドが打たれ強いからであり腹いせではないのだが。


「けどさ、実際にレイズは少佐に兄さんに勝てるの?」


「魔法を使えば負けはしないよ。勝ちきるのは難しいけどね」


「負けなければ勝ちだよ。アウラが居るからね」


「・・・なんか、以外ね。てっきり戦いたくないと思ってたんだけど」


「勝負だよ?自分よりも強い人を出し抜きたいじゃない」


 この兄弟は、いつだって・・・。自分より強いものが居ただけで活気づきやがって。指揮官としては良くはない。良くはないが、士気が上がる。なにせ、戦狂いのアウトキャストなのだから。

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