Ep.24 従軍

 夜はいつも全員が集まって食卓を囲む。この時だけは変わらず死ぬまで続くと思っていた死ぬための戦いをしていたころと変わらない。変わったのはここに居る人数と面子。


「僕、思ったんだけどね・・・この国はやっぱいい国だよね」


「見終わった?全部見れた?」


 ライオスの発言の意味をレイズは理解していた。レイズだけは変わらずただ、進めずに待ち焦がれていた言葉だったから。


「僕はね」


「俺も満足だな」


「俺も」


「私も」


 同意するものは多い。二日に一度のカウンセリングでは変わらず入隊希望であった彼ら。それを知っていれば自ずと理解する。


「頃合いだよな」


 非日常の終わり、そして日常への回帰。




「君たち本気なんだね。・・・後悔しないよね?」


 大統領、それが家にやってきて最終確認を取る。


「ここに居た方が後悔する」


 同意する。戦地に立つことを強要された、とはいえ根っからの戦狂いなのだから。戦争に対する才能しかないのだから、そうなるのも必然だ。あるいは、まだそれ以外に出会っていないから。


「君たちに猶予を与えた理由は二つあった。一つは、私らの日常を知ってもらうため。戦争以外で君たちに生きがいを見つけてもらいたかった」


「もう一つは?」


「単純に、この国で従軍するためには士官校に入らないといけないんだよ。入隊試験が来週までないんだよ。試験ていっても配属先を決めるだけなんだがね?」


 配属先、当然待ち受けているものだ。だが、全員が離れた戦地に配属されれば困る。個々人が強力な戦力と言えるが、真価はやはり全員が集まった場合の共闘。


「提案がございます。我らを新設の部隊として徴用してください」


「ああ、それはそうするつもりだよ?君らあの悪魔を一回倒したんでしょ?そんな戦力をばらけさせるはずないじゃん」


 唖然とした。つまり試験は形式的なものであり、同じく形式として士官校に押し込まれるという話だ。


「それでね、君ら楽しめた?」


 顔を見合わせた。非日常の日常で一月生活してみて、分かったこともある。真に戦地以外を見て感じて理解した。思うこともある。自分たちだけ、この環境に甘えることはできない。死んでいった彼らとこれから死ぬ彼らに顔向けできないから。


「まーね」


 シルが答えた。あまり発言する法ではない彼女が本意を言ってくれる。だから、少しおかしくて笑った。


「じゃあ、踏まえて本当にいいんだね?」


「当然」


 総意だった。アウラ以外は。


「士官校には一年通ってもらうよ。わかってると思うけど、階級はこれで決まると思って。戦果が挙げられるまでは覆らないから頑張ってね。じゃ」


 大統領は多忙なようで帰った。と思ったら、直ぐに帰ってきた。


「ファイド君だけは別枠だから、しばらくしたらこっち来てね」


「了解」


 それから一週間なんてあっとういう間にすぎた。みんな大して勉強している様子はない。かといって、勉強したことがないから分からないだけだが。


「どうだった?」


「案外簡単だったな」


「ウッソ私何もわからなかった」


「シルは勉強できないんだね」


「フィン、少佐はまだか?」


「うん」


 中隊メンバーは全員合格。と言っても成績で合否が出るものでもないので、当然なのだけど。




 呼ばれたのは国技館だった。士官校の入団試験は別のところで行われており、他はそこに行っているから知っている。何これ、どうするのが正解なのだろうか。


「それで、俺をここに呼んだのはどういうわけか聞いていますか?」


「いえ」


 中に入って、まず初めに筆記試験があった。猛烈な読書のおかげで結果は満点。児戯に等しい優しい問題だった。


「これだけな訳がないよな」


 次の部屋に行った。だだっ広い空間にタキシードを着た老人が居た。入室の際に渡されたのはここまで連れ添ってきた、こっちでは刀と呼ばれるそれだった。


「私はウィスター。この国の老兵です。ただ、貴方の力を試したいと思っています」


「・・・ああ、そういう事か」


 見るからに強そうな爺さんはこちらと同じような片刃の、反りの大きな刀を持っている。名の知れた実力者なのだろうし、悪魔を倒したという与太話の真偽を確かめたいのだろう。


「ファイド君、このテスト合格じゃなければウィスターの下で戦ってもらうからね」


「それは構いませんが、何を求めているのですか?」


 部屋の上部にガラス張りの場所があり、そこから大統領が見ている。声はスピーカー越しだったが。明らかに、からかわれているように思う。


「求めているっていうか、扱い困るんだよね。君たちは客人待遇なのに超様子つってなるといろいろ大変なわけ。いつかはバレるものだし、互いに納得できる扱いを決めるためにこうしている訳。後気になるからね、君の実力」


「頑張りますよ。ただ、勝てる気はしませんが」


「謙遜はしなくていいですよ?悪魔の結界を破ったのなら、私よりも強いではありませんか」


「いや、あれは手を抜かれていたからにすぎません」


「それでもあなたは勝ったからここに居る。手合わせ願いますよ」


 強者と戦うことは嫌いではない。手に汗握る、自分の実力をぶつけられるのは単純に楽しい。それに、自己研鑽もできるし、負ければ目標ができる。事柄が何であれ、実力を知れる機会は総じて貴重だ。


「じゃあ、勝負開始ね。言い忘れてたけど、ウィスターは剣聖と呼ばれているから死なないようにね」


「やめてくださいよ。ただ、手は抜きません」


 互いの武器が向かい合う。開始の合図はすでに終わっている。互いの切っ先、触れ合うほどに近くなる。互いの間合いでやっと構え合う。


「スキルは使っても?」


「ああ、私もブランです。スキルは私も持っていますよ」


「え?そうだったんですね。なら存分に」


 刀身がぶつかり合う。強靭な刃が震えて軋む。握る手が痺れるほどの剣戟が幾度も交差する。


「おっも!」


「素晴らしいですね。なかなかいませんよ?」


 こっちは余裕がないが、ウィスターは余裕があるようだ。剣聖相手に剣技だけでは張り合えない。


「体術も使えるのですね」


 刀が交差し、懐に入り込みタキシードを握り投げる。だが、重心がずらされ投げれはしなかった。戦い慣れている相手に投げ技は通用しにくい。ズレた重心を利用し、足を払う。宙に体を投げるウィスターに容赦なく一刀踏み込む。


 宙に浮きながら、俺の剣戟を弾き地面に着いた瞬間に起き上がる。


「これは老体に堪えますね」


「冗談でしょう、流石に勝ったと思いましたが」


 死なない程度に加減はしたが、それでもどうにかできるほど手心を加えたつもりはない。同じ武器では勝てないし、らちが明かない。


 良くやる手だが、これが一番意表を突ける。刀を投げる。一直線に脳天めがけて突き抜ける刀を一刀で破壊したウィスターの超近距離に潜り込んで殴りつける。


 鳩尾、首筋、鼻下に三連撃、がすべて止まった。


「反発が私のスキルです。最も斬撃や魔法は跳ね返せませんが」


「相性悪いな」


 相手より先にスキルを使いたくなかったから、これはありがたい。重心を引き寄せる。崩れた重心を利用し、投げる。頭を手で押し付け、地面が抉れるほどに力を込めて叩きつける。だが、地面に着く瞬間、ウィスターの刀が体の間、ほんの数センチの間に入って来た。慌てて手を離し、側面に蹴りこむ。


「体術では勝ち目なし、ですか。それに引き寄せられる感覚。貴方も厄介なスキルを持っていますね」


「俺の刀は破壊されているし、殴りつけても効果はない。体術も碌に決まらない、他の武器があればもっとやれるんですがね」


「そうですか・・・。閣下、彼の武器はここに?」


「え、まだやんの?あるけど・・・手配してあげて」


 後ろに控える人間に指示を出して持っていた武器が台に乗せて運ばれてくる。鞭に短刀、メリケンサックに偃月刀、吹き矢やボウガン。こんなにあったのか、と忘れていたものまであった。


 ボウガンを腕に装備し、手には短刀と鞭を持つ。指にはサックもつけて。


「他にも何か扱えるのですか?」


「基本的には何でも」


 腰のベルトに少し長い棒を二つつける。一つは折り畳みの長槍であり、もう一つは三尺棍だ。三尺棍は分解すれば三節棍にもなる。


 鞭がしなり音速に等しい速度でウィスターに迫る。刀身と交差した瞬間に鞭をしならせ、刀身にまとわりつかせる。それを引っ張り、ボウガンを放つ。反発するスキルにより阻まれた。想定内だったから、距離を詰めて短刀で切りつける。が、日本目の脇差で阻まれた。


 偃月刀を投げつける。これは反発では防げない。だから、有効打になる。近距離で二本目の脇差で撃ち落とされた。投げ捨てた長刀が地面に落ちる。同時に鞭も。その中で互いに短い武器で戦い続ける。俺の短刀が弾かれる。直ぐに腰に付けた棒を展開し、至近距離で長槍になる。突如伸びる武器に、ウィスターがほんの一瞬遅れてのけぞる。そのまま、振り下ろし防御が間に合った瞬間で下から掬い上げる。


 ウィスターの持っていた二本の脇差が宙を待った。


「私の武器は打ち止めです。素晴らしいですね、初めて試合で負けましたよ」


「あくまで試合。試合は試し合いにすぎません。貴方がもう一つスキルを使っていれば負けていたでしょうね」


「それは貴方もでしょう?スキルの複数持ち、私以外では初めて見ましたよ?本当に引き出しの多い方だ。ファイド殿、共に人類の穂先となりましょう」


「スピアヘッドですか。どちらかと言えばリベレイターと呼ばれたいですね」


「解放者ですか、あなた方の理想から見れば妥当ですね。面白い」


 意気投合してしまった。刀を向けて初めて殺さなかった相手と、友人になるとは思わなかった。それからお茶をするために集まったりするくらいに。


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