会話文の多い小説 『幸福な家族』武者小路実篤から学ぶ
会話文が多い小説は読みやすく、読んでいて楽しくなるものだ。
しかし会話文が多すぎると、誰のセリフかがわからなくなることがある。
それを避けるために「佐藤が言った」とか「鈴木は言った」とか地の文に入れるわけだが、それが多すぎると見苦しい。
いかに名前を出さずにうまくまわすか。それが問題だ。
ということで、実際に会話文が多い小説を読んでみて考察してみよう。
今回は『幸福な家族』武者小路実篤を参考にしてみた。
この小説は四人家族の日常の瑣末を描いたものだ。はっきり言ってのめり込むような展開などない。エンターテインメント小説に慣れたひとには「どこが良いんだ?」と言われる小説だろう。
しかし今回は会話文の置き方の勉強だからちょっと見てみよう。
『幸福な家族』 武者小路実篤 より
https://kakuyomu.jp/users/hakusuya/news/16818093075820207396
わずか2ページの参照。気になった方は全文をお読みいただきたい。
登場人物は四人。父と母と息子と娘。この四人の会話だ。
すでに気づかれたひともいると思うがポイントは三つ。
1.言葉遣い
2.呼びかけ
3.二人ずつ
一つずつ見ていこう
1.言葉遣い
当然のことながら、その人物特有の言葉遣いがあれば、それをもってその人物の発言だとわかる。
女性特有の言葉遣い、敬語の使い方、大阪弁などの方言、自称が「俺」とか「あたい」とか――――でもって誰が喋ったかわかれば、いちいち「○○が言った」を入れる必要はない。
こうしたことはそれまでのエピソードである程度読者に覚えてもらえば良いわけだ。
はじめのうちは丁寧に誰の口癖かを書く必要はあるが、それが済めばその後は楽だ。
2.呼びかけ
これも一つのテクニックだ。
「どうしたんだ? 山田」という質問のセリフに「実は……」と答えるのは山田だ。わざわざ「山田は答えた」と書く必要はない。
別の誰かが答えたときだけ、「佐藤が口を挟んだ」とか、「鈴木が代わりに答えた」とか入れれば良い。
3.二人ずつ
実はこれこそが会話文のテクニックだった。
小説における会話は、二人の会話の組み合わせだったのだ。
鈴木と佐藤がいくつか言葉を交わし、次に鈴木と山田が喋る。その次は山田と田中……といった具合に二人ずつの会話が流れていく。相手が変わるときに「山田が……」とか「田中が……」を入れれば良い。
アニメ、映画、テレビドラマのような動画と音声の両方があるコンテンツの場合、複数の人物が同時に別のセリフを発するといった描き方が可能だ。
しかし小説はそうはいかない。
小説は一つずつ順番に書いていくしかない。それは会議の場で一つしかないマイクを順に回していくようなものだ。
あるいは一つしかないボールで複数人がキャッチボールをするのにも似ている。
佐藤と鈴木の間でボールの受け渡しを何回かしたのち、佐藤と山田の間でまたボールの受け渡しがなされる。そしてその次は山田と田中の間で……といった具合だ。
ボールを渡す相手が変わるときに、「山田が……」といった地の文が入ることになる。
こう考えてみると、小説はアニメや実写映画などの映像とは全く違うものだと改めて認識させられる。
映像に慣れたひとなら、大勢の人物が同時に出現するシーンを書いてみたいと思うだろう。
教室に入った瞬間、クラスメイトが一斉に自分を振り返り話しかける。
闇の会議に顔を出したら、そこにはおどろおどろしい幹部七人がすでにいて、それぞれやかましく喋っている。
そうしたシーンは小説に向いていない。
【結論】
大勢が同時に出てくるシーンは小説には向かない
なんじゃそりゃ!
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