「発言者をはっきりさせるために悪戦苦闘する」

 前回の続きである。

 誰がそのセリフを発したかを作者は読者に誤認させてはいけない。

 そのためには最悪の場合、いちいち発言者を記す必要がある。


 ここで単純なモデルを考えてみよう。


 朝の学校。登校した三人の生徒、佐藤、鈴木、山田が担任の女性教師の姿を見つけ、朝の挨拶を行ったシーン――


   「先生、おはようございます」

   と、佐藤は言った。

   「先生、おはようございます」

   と、鈴木は言った。

   「先生、おはようございます」

   と、山田は言った。


   「先生、おはようございます」佐藤は言った。

   「先生、おはようございます」鈴木は言った。

   「先生、おはようございます」山田は言った。


………………いや、おかしいだろ……


 同じセリフを同時に発したのなら、今風に、


   「「「先生、おはようございます」」」

   と、佐藤、鈴木、山田は口をそろえた。


で、良いじゃないか(笑)


 ということでセリフを変えてみる。


   「先生」佐藤は言った。「おはようございます」

   鈴木は言った。「今日もお綺麗ですね」

   山田は言った。「何か良いことあったのですか?」


 これをスマホで見ると、たまに発言者先行型の行が勝手に改行されて次のようになることがある。


   「先生」佐藤は言った。

   「おはようございます」

   鈴木は言った。

   「今日もお綺麗ですね」

   山田は言った。

   「何か良いことあったのですか?」


 「おはようございます」を鈴木が言ったようにも、「今日もお綺麗ですね」を山田が言ったようにも受け取れてしまう。


 並べる時は、ダッシュ記号――で前の発言者のセリフだと思わせるか、セリフ先行型にして「と、言った」とする方が良いのかもしれない。


   「先生」佐藤は言った。「――おはようございます」

   「今日もお綺麗ですね」と鈴木は言った。

   「何か良いことあったのですか?」と山田は言った。


 誰の発言かをはっきりさせるために「○○は言った」を入れたわけだが、どう見ても鬱陶しい。何となく不自然だ。コミカルな表現ならこれでも良いのかな。


 結局、「〇〇は言った」が駄文なのだ。「 」で括ったセリフなのだから「言った」に決まっている。できれば「……は言った」という表現は避けたいものだ。


   「先生」佐藤は声をかける「おはようございます!」

   「今日もお綺麗ですね」と鈴木は褒めた。

   「何か良いことあったのですか?」山田は訊いた。


 これならまだ我慢できる。


 さて、人物が三人くらい、セリフが三行くらいなら許せるが、これが四人以上で、しかも十行以上にわたって続くととんでもない。

 わざわざ誰のセリフかをはっきりさせるために「○○が言った」と書いていては見苦しいことこの上ない。

 いっそのことシナリオ風に、頭に人物を掲げてみようか。


   佐藤「先生、おはようございます!」

   鈴木「今日もお綺麗ですね」

   山田「何か良いことあったのですか?」


 実際、ウェブ小説ではこのように頭に人物名を掲げた方式をとっているものもある。

 それをやるなら最初から最後まで一貫してこの方式を続けるべきだろう。


 できれば、登場人物名は最初に一度出して、その後は出さずにすめば、それに越したことはない。

 何か良い方法はないのだろうか?


――続く――





 

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