遭遇

「ふぅ、おい、坊主、返事できるか?」




余計なお節介で俺を助けたあいつは手についた血を拭いながら問いかけてきた




返事なんてするわけねぇだろうが




こちとら死にたいんだよ




ほっといてくれ





「喉が潰れてる、四肢に異常なまでの負傷、返事もなし、呼吸も弱い」




まるで、医者のようにこっちの容態を確かめ始めたそいつはふと顔を近づけてきた




血生臭さと金属の匂いがした




思わず目を開けると、ボロボロのローブを身にまとい、無精髭を蓄え、長い白髪を後ろでまとめた山賊みてえな男がいた




「やっと目を開けたな、おはよう坊主、調子どう?」





不思議とこの男からは自分と同じ雰囲気を感じた




まるで死にに行くような、というよりも俺よりも酷い




まるで死という概念そのものが手足生やして生きているみたいだった





「そう見つめられると、困るんだがな、まぁ、その怪我じゃ無理もないか、、、どうだ?助けて欲しいか?」




俺は思わず首を横に振った




そんな俺を見てその男はまるでおもちゃを見つけた子供のように笑っていた




「だろうな、拷問されたにしちゃあ詰めが甘い、魔物にやられたにしちゃあ繊細すぎる、大方死にたくて暴れて動けなくなって魔物に襲われるのを待ってたってところだろ?」





なんで、全部わかんだよ




「何でって顔をしてるな?俺はそんな連中には慣れてんだよ、、まぁ、ここまで徹底的に出来るやつは滅多にいねぇがな」





全部お見通しかよ






「ふぅ、さて、どうすっかな、坊主を置いて行っても別にいいんだがぁ、ちと俺も退屈してたとこだ、ちょっと俺に付き合えや」






は?







ふざけんなふざけんなふざけんな!





こっちがどんな思いでここまで来たと思ってんだ





あっちに行く覚悟はとっくに出来てんだよ!





それをどこの馬の骨かわからんやつに邪魔されてたまるかよ!






「ほぅ、いい眼をするじゃねぇか坊主、より一層気に入った、ちょっと担がせてもらうぜ」





その言葉とともに気づけば身体は宙に浮いていた





「担ぐっつっても持ち上げるわけじゃねぇけどな、しっかし、坊主、お前さんえらく自分をいじめぬいたな、本来ならこのレベルの怪我ならとっくに死んどるぞ?」






それは俺が力不足なだけだ




俺の身体が俺に反逆してきただけだ




もう少しだったのに





「ほう、ここで泣くか、よほど死にたかったんじゃなぁ、、、まぁ、いい、どうせお前さんはこっから何度も死にたくなるんじゃ、少しでも早くその感情に慣れておけ」



最後の言葉に疑問を持つ前に俺の意識は遠のていった



















「ふぅ、やっと落ちたか、手こずらせよって、しかし、どうするかの」




王都騎士団特務隊隊長、ベル・クラウスは一人呟いた




ベルはこの森の異変の調査のため王都より単独で派遣されていた




王都より南に遠く離れたこの森の噂についての調査である




狩人たちからの情報で獣とも魔物とも違う叫び声と何かを打ち付ける音、そして足音がある時期を境にひっきりなしに鳴り続けるのだという



時期的特性を踏まえた上でも、魔物の可能性も視野に入れた上でベルが派遣されたというわけだったが、実際は





「まさか、一人の狂い切った坊主の仕業なんて信じてくれねぇよなぁ」











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