第2話 チェキ童貞からの卒業

 連休を迎えてとある工場街へ一人旅に出た私だったが、その頭の中は「次はいつあのコンカフェに行こうか」ということでいっぱいだった。

 人の少ない工場群や水門を見て周っても、次回こはくさんと話すネタになることばかりを期待した。

 移動中にこはくさんやお店のTwitterを何度もチェックしては、出勤予定表の更新を待った。

 いや、当日の出勤表はもうとっくに出ていたのだが、そのコンカフェ、あるいはこはくさんが雑なのか、こはくさん自身がTwitterで発表している次回出勤日は今日ではないにも関わらず、お店のTwitterで発表している出勤表には彼女の名前があるのである。

 だから私は、お店の発表している出勤表がこはくさんのいないものに更新されるのを待っていた。

 なぜか?

 こはくさんが出勤しないのならば、コンカフェに行かなくて良いからである。気にせず、旅行を続行できるからである。

 しかしこはくさんが出勤するのならば、どうだ。私は旅行を切り上げて、コンカフェの営業時間内に間に合うよう逆算しなければならない。

 結果、私は待ちきれずに帰路についた。薄々、こはくさんは出勤しないのだろうという予感はあった。本人がそう言っていないのだから、お店の発表がミスなのだ。

 それでも私の足は電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、とうとう先日のコンカフェ近くに辿り着く。

 だが、そうまでしてコンカフェ前に来たものの、「女性に相手をしてもらう」お店に行くことに抵抗のある私である。たったの二度目で自らその門戸を叩くことなどできるはずもない。

 だから私は卑怯にも、再び呼び込みに声をかけられるのを期待した。幸いにも、お店のある通りにはフリフリの衣装とポケットティッシュ入りの籠を装備した、明らかなお散歩中コンカフェ嬢が立っていた。

 私が彼女の近くをあたかも興味ないふうに通り過ぎようとすると、まんまと彼女はポケットティッシュを差し出す。挟まれているチラシは、お目当てのお店のものだ。

「あ、じゃあ行こうかな」

 たった今思いついたふうに前向きな返事をすると、コンカフェ嬢は意気揚々と私を誘ってくれた。しかしそこで異変に気づく。

 私が連れられたのは、先日のお店とごく近くにある、別の店舗であった。

 店内は、先日のものとはうって変わって、ピンクが基調の明るい雰囲気。ポップな音楽が流れており、人は少ないようだった。

 私を呼び込み、そのまま相手をしてくれたのは、仮に「みどり」さんとしよう。みどりさんは、この店に来たことがあるか、他のコンカフェには行ったことがあるのかと質問をする。私が、こはくさんに呼び込まれた店舗(仮にAとしよう)の話をすると、みどりさんは、今いる店(仮にBとする)はAの系列店なのだと教えてくれた。

 なるほど、だからチラシが共有のものだったわけである。

 みどりさんはこはくさんに比べ、トークが上手かった。コンカフェの醍醐味はチェキを撮ることだと言い、撮りますかと聞いた。私が気恥ずかしさと財布の紐の硬さから「どうしよっかな」と返すと、じゃあ話してから決めようと提案された。

 趣味の話、本業の話、推し活の話を交え、一セットである三十分が近づくと、再びみどりさんは「チェキどうする?」と聞いた。私は「こんだけ話してもらって、断るのは無理ですよー」と冗談めかした。

 さっそくツーショット撮影が為され、落書きをしてもらい、ブロマイド写真までもらって私の人生二度目のコンカフェは終わった。

 さて、しかし、だ。私の目的は最初からたった一つ、一人であり、その目的は達していないわけだ。

 コンカフェBを出た私の足は、そのまま恥ずかしげもなくコンカフェAに向かった。

 結論から言えば、やはりと言うか、そこにこはくさんの姿は無かった。対応してくれたコンカフェ嬢に「推しはいるの?」と尋ねられて、私は照れ隠しで「推しとかはよく分からないけど、前回はこはくさんってかたに相手してもらいました」と返した。

 そして訥々と雑談を交わした後、三十分が経ち私は退店した。

 守銭奴の気がある私は、想定外のチェキとチャージ料を支払ってしまったことへの焦りが強く、半ば放心状態で店を後にしたのだった。


次回、チェキ、セカンドバージン

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三十代童貞こどおじがコンカフェ嬢にのめり込んだ話(フェイクを交えた実話) @hikarabi-bororo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ