いくら夜は長くて時間があるとはいえ、勘弁してくれよ。俺は鍵穴に鍵を差すタイプの鍵しか解錠できないし、そもそも仕組み知らないから作り替えることは出来ないっつーの。正しい暗証番号ボタンを押して開くタイプの鍵なんて俺の所に持ってこられても困る。そんなんで普段どうやって鍵屋やってるのかっていうと、いつも「タダ」で中身を取り出す代わりに合鍵を渡さない契約を結んでいるからトラブルが起きた試しは無い。


だから今回も木箱の中身であるニンテンドーDSを、もちろん無傷で取り出さなくてはならない。これ以上の近所迷惑にならないように、俺は右拳の槌を手放して小指ののみで木箱を壊し始めた。けれど細かい作業は大雑把な男をいつだってイライラさせるものと相場が決まっている。


箱を右手で持ち上げ傾けてニンテンドーDSの位置を調節した後で小指のみを槌の内側に握り直して、3分の1だけ切り取る要領で拳を振り下ろした。今夜3度目の轟音が車の通行音すらしない閑静な住宅街に響き渡る。

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