第16話 統治3

「後必要なのは、なにかな……」


「布が欲しいですね。蚕や麻などを今から調達するのは難しいので、糸を産出する魔物モンスターを捉えて来ましょう。『スカウト』、『アタッカー』、『ガーディアン』を借りますね」


 魔物モンスターを捉えて来ましょう?

 嫌な予感しかしないんだけど。


「人口糸は作れませんか?」


「う~ん、工場が必要ですね~。それに材料を手に入れるのが面倒です」


 材料か……。まあ、任せよう。ナイロンとかからと思っていたけど、現地調達できるのであれば、科学技術に頼る必要もない。

 そう思ったんだけど……。



「なんですか、そのデカい魔物モンスターは……」


「蜘蛛の魔物モンスターですよ。この世界で最高級品の糸を作り出すんです。絹糸よりも品質が高いんですよ。でも、品種改良も行いますね」


 もう、言葉も出ないよ。

 瀕死の蜘蛛が、運ばれて行く……。


 それと、革製品が出回って来た。皮の加工に、お茶の葉が必要らしい。それくらいは聞いたことがある。

 蜘蛛糸を使った布と革製品だけで、衣服は十分なのかな?





 とりあえず、衣食住が足りて来た。

 住民も働き出した。まあ、働かずにアパートでのんびり過ごしている奴もいるけど、今は放置しておこう。

 貨幣が使えるようになったら、食料は有償化しようと思う。

 格差が生れそうだけど、仕事を斡旋かな。働かざる者食うべからずだ。



 次の仕事を考えていると、ナユさんに呼び止められた。


「雨……ですか?」


「はい、この大陸自体が、降水量が少ないので、このまま行くと、山火事が発生しますね」


 確信的だな。まあ、アカシックレコードからの情報なんだろうけど。


「低気圧でも作りますか?」


「作ってもいいですか?」


 かなり怖いけど、任せても大丈夫かな? やり過ぎないことを祈ろう。


 次の日に雨が降り出した。

 だけど、これじゃ台風じゃない?


「もうちょっと雨量を抑えましょうよ」


「う~ん、近くに存在した雨雲を引っ張って来たのですが、これで一年分の水量を賄えるでしょう」


「ダムでも作りましたか?」


「察しが良くなりましたね。川の上流に天然のダムを作っておきました。まあ、湖と思ってください」


 考えなくても、ナユさんの行動が分かるようになって来た。

 ナユさんは、私の想像したモノを作っている。やり方が、かなり強引だけど。

 でも、蚕の替わりに蜘蛛ってどうなのかな……。


 つまるところ、私の知識量以上の技術は作れないみたいだ。未知のダークマターとかは、操れないと思う。

 それと、アカシックレコードだな。私も慣れておこうと思い触ったのだけど、閲覧制限があったよ。特に未来の情報は、教えてくれなかった。

 だけど、現在の情報であれば、ほぼ制限がない。反乱分子など、末端に至るまで情報を掴んでいる。

 それと、飛空艇の技術だな。


「この超小型核融合炉も、私がアニメで得た知識を元に作られているんだな……」


 核融合は、温度が高すぎて炉が作れない。タングステンでさえ三千℃だ。一億℃で固体状の物質はなかった。

 レーザー方式やプラズマ方式が採用されていたけど、エネルギーを取り出せていなかった。温度が高すぎて、タービンを回せないよね。

 この飛空艇の知識は、未来の技術だ。前世に戻れたら、ノーベル賞も夢じゃない。

 こんな、方法があったんだな~。

 それと未来の技術は、核融合だけじゃない。

 私は、昆虫から作られた代替肉を食べて、オレンジジュースを飲んだ。昆虫食も美味しいかもしれない。


「一口目の勇気かな~」





 順調に時が過ぎて行く。そう思った時だった。


「うん? 元勇者ユウキが来たの?」


「はい……。果たし状を預かって来ました」


 要は、私と決闘をして勇者の称号を取り戻したいらしい。

 受ける必要はないと思うんだけど。


迷宮ダンジョン攻略は、どうなってるか分かりますか?」


「四層の魔物にボコられたみたいです。迷宮ダンジョンは、攻略者次第で難易度が変わりますので。一層を徘徊する魔物モンスターが『アタッカー』ですからね。死者を出さないようにするのに気を遣っています」


 私が攻略者になると、雑魚魔物モンスターが『アタッカー』になるの?

 つまるところ、もう第十大陸オクトバー迷宮ダンジョンは攻略不可能なのかもしれない。金属の塊なんだし。定番であれば、雷魔法かな?

 改良は、壊されてからでもいいだろう。今は放置にする。


「ふう……、迷宮ダンジョンが無理だから、称号持ちと決闘か。まあ、会うだけ会うか」



 城壁の外に出ると、元勇者ユウキを名乗る者がいた。

 体中、包帯だらけだな……。

 その元勇者が、剣を向けて来たよ。


「一騎打ちだ! 逃げるなよ!」


 どうすっかね……。アイ○ンマンスーツでも着ようかな。

 だけど、次の瞬間に元勇者ユウキの剣が、折れた。


「ナユさん? 一騎打ちだよ?」


「受ける必要はないですよ。後ろで、残り少ない銃と弾丸を持ちながら、言っているのですから」


 後ろの取り巻きどもが、不意打ちを狙っていると言っているのか。

 〈スキル:複製〉を失った元勇者。

 求心力もなさそうだな。


 私が『アタッカー』を前面に出すと、取り巻きどもが降伏した。迷宮ダンジョンで勝てなかったんだろうな。

 残りは、元勇者ユウキだけだ。

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