第10話 港町3

 ナユさんが、細い裏路地に入って行った。

 私も着いて行く……。

 もうこの時点で先の展開が読めるのだけど……。


 そして、案の定前後を塞がれた。

 三人ずつだ。


「………なにか御用でしょうか?」


「いやなに。先ほど装飾店から出て来たので、少し恵んで貰おうと思いましてね」


 男達は、ニヤニヤと気持ち悪い笑顔を向けて来た。

 もうこの時点で、私にできることはない。ナユさん頼りだ。

 しかし、ナユさんは無表情のままだ。

 数秒の沈黙……。


 男達が、腰から獲物を抜いた。


「えっ? 銃?」


 私の前世の拳銃そのままだ。リボルバー式のハンドガンと言うやつだと思う。

 型式などは分からない。私は、ミリタリーマニアではないのだし。


「ほう? 知識があるのか。転移転生者なのは男の方だな。大人しく、硬貨と女を置いて行きな。そうすれば、お前だけは見逃してやる」


 決まり文句のようなことを言い出した。それは、フラグじゃない?

 さて、どうするかな……。


「プッ……、クスクス」


 ここで、ナユさんが口を開いた。

 我慢できなくなって、笑い出したみたいだ……。だけど、結構ピンチじゃない?

 そのナユさんを見て、男共が呆気に取られる。


「銃? ガン? てっぽう? ライフル? 剣と魔法の世界なのに火薬? 硝酸でも作り出しましたか? ニトログリセリン? いえ、頭悪そうですものね。あなた達では、引き金を引くくらいしかできませんしね」


 私でも分かる。挑発の意味を込めた侮辱の言葉。


 ──パン


 顔を真っ赤にしたリーダーと思わしき男が発砲した。


「ぐあ!? 痛え!?」


 あれ? ナユさんに向けて発砲したと思ったけど、私の後方を塞いでいる男性に当たったみたいだ。

 だけど、かなり不自然だ。

 ナユさんを見ると、クスクスと笑っている。


「なにしやがった!?」


「……撃てばいいじゃないですか」


 そう言うと、ナユさんが歩き始めて、男性との距離を詰めて行った。

 前方の三人が、次々にナユさんに向けて発砲する。

 私は、少し離れたので、その違和感に気が付いた。

 発砲音と共に、キラリと光る糸のようなものが見える。

 そして、ナユさんの近くの壁や地面に煙が出た。


『弾丸を弾いているのか? 糸のようなもので? いや……、それ以前に、弾道を視認できている?」


 跳弾は、全て後ろを塞いでいた男性達に当たっている。跳弾の計算まで行っているの?


 ──カチカチ


 弾切れを起こしたようだ。


 その男性に、笑顔のナユさんが覗き込むように立っている。

 男性達は、弾を込め直そうとし始めたけど、次の瞬間に鮮血が飛び散った。

 ナユさんの骨は、硬いんだよな……。あれは、痛そうだ。

 一秒かからずに前方を塞いでいた三人が、崩れ落ちた。

 私は、後方を見た。 後方の三人は、全員生きている。ただし、手足に銃弾を受けているようだ。


「セイさん。この街にはもう用はありません。帰りましょう」


「ちょっと待って、ナユさん。この街では銃を取り扱っているの? それでは、無法地帯にならない?」


「……検索しました。この大陸にいる〈勇者〉が、知識を広めてしまいましたね。弾薬の補充を牛耳っているので、銃の所持者は少数で済んでいます。ですが、治安は悪化していますね」


「それと、どうやって弾丸を弾いたの?」


「電磁バリアですね。"宇宙ゴミ"の回収用に作られる予定の技術です。高圧の電界を作り出せると思ってください。今は糸状としました。それと、量子コンピューターとリンクしている私ですよ? 飛んでいる弾丸を程度は、造作もありません。まあ、ガトリングガンとかであれば、少し本気を出す必要がありますけどね……」


 怖い事言っていない?

 スター・プ〇チナですか? ザ・ワー〇ド? と同じタイプ……、いや止めよう。


「とりあえず、帰りましょう。資金は得たので、もう目的もありません。それに、この街は空気が悪いです」


 異世界人と話してみたかったのだけど、商人とゴロツキだけになっちゃったよ……。





 飛空艇に帰って来た。

 とりあえず、聞いてみるか。


「弾薬を牛耳っている〈勇者〉について、知っている事を教えてください」


「え~と。尻の毛の数から、過去のやらかしまで、なんでも聞いていください。情報戦で遅れを取る事はありません」


「……どんな技能スキルと魔法が使えますか?」


複製コピー技能スキルですね。数年前に、他の転生者が銃と弾丸を作り出しました。それを奪い、複製し続けています。それと、鍛冶職人を集めて、銃の種類を増やしてもいます」


 大きく息を吐く。


「……その〈勇者〉の根城に行きましょうか」

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