第9話 港町2

 ──ボコ


 遠くから見ていたんだけど、ナユさんが虎にボディーブローを入れたみたいだ。

 これだけ離れているのに聞こえるって、どんな音を出したんだろう……。

 私が駆けつけた時には、虎は泡を吹いて倒れていた。ピクピクしている。

 ワンパンなんだな……。ナユさんを怒らせるのは避けよう……。


 周囲を見渡す。

 皆、ドン引きしているよ……。

 私も言葉が出ない。美女が、虎をノックアウトするシーンはシュールだ。


「……セイさん。行きましょう」


「ハイ……」


 こうして、港町カルチャに入れる事になった。

 虎は……、町の人達に任せよう。

 ちなみに通行税は取られませんでしたよ……、はい。


 しばらく歩くと、綺麗な店に着いた。

 装飾品を取り扱っている店みたいだ。

 ナユさんが、躊躇いもなくドアを開けて入って行った。私も続いてドアを潜る。


 店員と思わる人が、近づいて来た。


「ようこそおいでくださいました。本日はどの様なご用件でしょうか?」


 顔は笑顔だけど、眼が笑っていない。疑われているみたいだ。

 服は、貴族服みたいだな。重くない?

 それと、壁越しに足音が聞こえる。


「……換金しに来ました。インゴットの買い取りをお願いできないでしょうか?」


 ナユさんが話を進める。

 私は、タイミングを見て持って来たインゴットを見せた。

 それを見た店員が、驚いた表情を見せる。


「……それでは、別室で商談と致しましょう」


 こうして、別室に通された。





 向かいの席には、三人。

 インゴットを調べているみたいだ。

 お茶が出て来たので、飲もうとしたのだけど、ナユさんから制止がかかった。脳に直接声が届く。


『自白剤入りです。手を付けないでください』


 ……怖いな。

 向き直すと、査定が終わったみたいだ。


「〈スキル:鑑定〉の結果は、純度100%の純金です。また、薬品による確認でも、純金と出ております。体積と質量共に問題なし。出所を探る気はないのですが、ダンジョン産でしょうか?」


「推測するまでもないでしょう? ダンジョン産です。それ以外だとかなり大掛かりな設備が必要となりますからね」


 ナユさんの答えに、店員達が引きつった笑顔で応じる。

 ここで、サラサラと文字を書き出した。

 私は、異世界の文字が読めない。

 だけど、眺めていると拡張ARのようなものが見え始めて、翻訳してくれた。

 そういえば、会話も自然に理解できていたな。交渉は、ナユさんに任せているけど。


「査定結果は、3000万コルとなります」


 1コル≒1円くらいみたいだ。


「安すぎますね。せめて、3500万コルで」


「いや、品質には問題ありませんが、この街には加工場がありません。

 王都まで行けば、その値段が適正なのでしょうが……、手間賃、特に護衛を雇う必要を考えると」


「3300!」


「分かりました。その値段で応じさせて頂きます……」


 三人の店員が頭を下げて来た。

 その後、硬貨と思われる物が運ばれて来た。

 数えると、三十三枚あったので、一個100万コルの硬貨みたいだ。

 それをナユさんが受け取り、袋に入れる。

 この辺は、アナログなんだな。電子決済を期待したのだけど、携帯端末が普及していないのかもしれない。

 その後、軽い雑談をして、店を後にした。


「この後の予定は、どうなっていますか?」


「この後は……、着けて来る人達の撃退ですかね」


 嫌な汗が、背筋を流れた。


「どういうことですか?」


「この街の治安は、余り良くありません。私達は、少々目立っており、また、資金も得ました。カモと思われています」


「急いで逃げます?」


「もちろん、撃退しますよ? 身包み剥いで、二度とセイさんに近寄らないようにさせます」


 ナユさんが、冷たく笑った。

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