第9話 港町2
──ボコ
遠くから見ていたんだけど、ナユさんが虎にボディーブローを入れたみたいだ。
これだけ離れているのに聞こえるって、どんな音を出したんだろう……。
私が駆けつけた時には、虎は泡を吹いて倒れていた。ピクピクしている。
ワンパンなんだな……。ナユさんを怒らせるのは避けよう……。
周囲を見渡す。
皆、ドン引きしているよ……。
私も言葉が出ない。美女が、虎をノックアウトするシーンはシュールだ。
「……セイさん。行きましょう」
「ハイ……」
こうして、港町カルチャに入れる事になった。
虎は……、町の人達に任せよう。
ちなみに通行税は取られませんでしたよ……、はい。
しばらく歩くと、綺麗な店に着いた。
装飾品を取り扱っている店みたいだ。
ナユさんが、躊躇いもなくドアを開けて入って行った。私も続いてドアを潜る。
店員と思わる人が、近づいて来た。
「ようこそおいでくださいました。本日はどの様なご用件でしょうか?」
顔は笑顔だけど、眼が笑っていない。疑われているみたいだ。
服は、貴族服みたいだな。重くない?
それと、壁越しに足音が聞こえる。
「……換金しに来ました。インゴットの買い取りをお願いできないでしょうか?」
ナユさんが話を進める。
私は、タイミングを見て持って来たインゴットを見せた。
それを見た店員が、驚いた表情を見せる。
「……それでは、別室で商談と致しましょう」
こうして、別室に通された。
◇
向かいの席には、三人。
インゴットを調べているみたいだ。
お茶が出て来たので、飲もうとしたのだけど、ナユさんから制止がかかった。脳に直接声が届く。
『自白剤入りです。手を付けないでください』
……怖いな。
向き直すと、査定が終わったみたいだ。
「〈スキル:鑑定〉の結果は、純度100%の純金です。また、薬品による確認でも、純金と出ております。体積と質量共に問題なし。出所を探る気はないのですが、ダンジョン産でしょうか?」
「推測するまでもないでしょう? ダンジョン産です。それ以外だとかなり大掛かりな設備が必要となりますからね」
ナユさんの答えに、店員達が引きつった笑顔で応じる。
ここで、サラサラと文字を書き出した。
私は、異世界の文字が読めない。
だけど、眺めていると拡張ARのようなものが見え始めて、翻訳してくれた。
そういえば、会話も自然に理解できていたな。交渉は、ナユさんに任せているけど。
「査定結果は、3000万コルとなります」
1コル≒1円くらいみたいだ。
「安すぎますね。せめて、3500万コルで」
「いや、品質には問題ありませんが、この街には加工場がありません。
王都まで行けば、その値段が適正なのでしょうが……、手間賃、特に護衛を雇う必要を考えると」
「3300!」
「分かりました。その値段で応じさせて頂きます……」
三人の店員が頭を下げて来た。
その後、硬貨と思われる物が運ばれて来た。
数えると、三十三枚あったので、一個100万コルの硬貨みたいだ。
それをナユさんが受け取り、袋に入れる。
この辺は、アナログなんだな。電子決済を期待したのだけど、携帯端末が普及していないのかもしれない。
その後、軽い雑談をして、店を後にした。
「この後の予定は、どうなっていますか?」
「この後は……、着けて来る人達の撃退ですかね」
嫌な汗が、背筋を流れた。
「どういうことですか?」
「この街の治安は、余り良くありません。私達は、少々目立っており、また、資金も得ました。カモと思われています」
「急いで逃げます?」
「もちろん、撃退しますよ? 身包み剥いで、二度とセイさんに近寄らないようにさせます」
ナユさんが、冷たく笑った。
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