第8話 港町1
今私は、空飛ぶバイクで空中を疾走している。眼下は海だ。
なんか、表現がおかしいな……。私の語彙力では、現在の状況を説明できない。
バイクには乗った事がなかったので、今の状況はとにかく怖い。
だけど、聞かなければならないことがある。
「ナユさん! このバイクのことを教えてください!」
「え!? これですか? 反重力装置を備えています。フレームは、アルミースカンジウム合金製で、軽量と強度を両立させています。それと、バッテリーですが、全固体電池になります。リチウムイオン電池の千倍くらいの密度を実現しています。仮に今バッテリーが破損したら、跡形もなく海の藻屑になるくらいのエネルギーを蓄えていますよ」
怖いフラグを立てないでください……。
それとそんな説明をしても、一般の人には理解できませんよ?
私が生きた時代の10年とか、20年先の技術なんだろうな……。
そういえば、某有名映画の2015年は、過ぎてしまったけど、空飛ぶ車は実現できていなかったな。いや、タイムマシンか。
「名前はありますか?」
「う~ん。使い捨てですからね。今のところありません。好きに呼んでください」
うわ~。こんな技術の結晶が使い捨てだなんて。
反重力装置の技術が知れ渡ったら、危ないと思うんだけどな。もしくは作れないと考えている?
でも、名前は決めておこう。
記憶を辿る。そして、今の状況……。
「このバイクは、スカイウォーカーと呼ぶのでどうでしょう?」
「プッ。クスクス。良いですね。スカイウォーカー1と呼称します」
数字が付くんだ。
本当に何台もありそうだな……。
そんなこんなで、港町から少し離れた場所に着陸した。
「ナユさん。スカイウォーカー1はどうするのですか?」
「そうですね。上空1キロメートルのところで待機させましょうか」
「バッテリーは上がらないのですか?」
「100日くらいならホバーリングさせられますよ? 太陽光発電も可能なので。それに、量子コンピューターとリンクさせているので自動迎撃も可能です」
武装ありなのか……。盗みに来る人がいないことを祈るばかりだ。
そんなことを考えていると、スカイウォーカー1が無人で浮遊し始めた。
「それでは行きましょうか。徒歩で2キロメートルとなります」
「走るのはなしでお願いします。若い肉体が手に入っても中身はジジイなので、ゆっくりと行きたいです」
「クスクス。はい、セイさんの歩調に合わせますよ」
こうして移動を開始し始めた。
「ナユさん。時々飛んでいる人を見かけますけど、あれが魔法なのですか?」
「飛翔魔法ですね。でも、箒をまたいで空を飛ぶ人など、昔から空想されていたと思います。それと、基本魔法は、火水土風の四系統ですね。ただし、派生を含めると雑多な種類となります。まあ、人ぞれぞれに想像力が異なると考えてください」
魔女は、知ってはいますよ。私だって、映画を見るくらいはしていました。
実際に見せられて、驚いているだけです。
ため息が出る。
この異世界に来てから、驚かされてばかりだ。
科学的にも、そして、これから知る事になる魔法にも。
でも、少し嬉しい気持ちもある。
とても新鮮だからだ。正直、興味が尽きない。
そして、この異世界を知りたいと思う。
神様の依頼を忘れてはいないけど、時間ができたら、色々と試したいと思う。
魔法も知りたいと思っている。そして、ナユさんは、他にもまだ未知の技術を持っていそうなので、引き出したいと思う。
◇
「港町が見えて来ましたね。でも、検問しているのかな?」
「……通行料の徴収ですね」
「私はお金を持って来ていませんよ? インゴットは一個だけ持って来ましたけど」
ナユさんがため息を吐いた。
「本来であれば、通行税など不要な町なのですが、ゴロツキが住み始めましたね。少し、駆除しましょうか……」
怖い笑顔のナユさん……。殺気が出ていますよ。
「まだ、目立ちたくはないですね。穏便に済ます方法はありませんか?」
「……そうですか。では、ここでしばらく待っていてください」
そう言うと、ナユさんが街道から離れて森に入って行ってしまった。
待つこと数分……。 突然、獣の声が響き渡った。
「なんだ!?」
耳を塞ぐ。 声の方向を見ると、巨大な虎が、港町に向かって走り出していた。
「タイミングを見計らって、港町に入りましょう。あの町は、カルチャ港と言います。もしくは、港町カルチャですね」
いつの間にか、ナユさんが私の隣にいた。
「もしかして、あの虎はナユさんが見つけたの?」
「はい、そうですよ? これから、あの衛兵……、いえ、ゴロツキ達と格闘戦になるでしょう。その隙を突いて、町に入りましょう」
穏便と言ったんだけどな……。
「あ、あの根性なしども逃げ出しやがった!」
町の方向を向く。あれは危なくないかな……。
町は恐慌状態だ。
「ナユさん。あの虎を静めて!」
「えっ? ……分かりました」
そう言うと、ナユさんが目にも止まらない速さで駆け出した。
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