第6話 貰ったスキル3

 ここで、ナユさんからの質問が来た。


「あなた様のことは、なんとお呼びすればよろしいでしょうか? こちらの世界でも、城ヶ崎博じょうがさきひろしを名乗りますか?」


 さて、どうしようか。前世の名前から取る必要はない気がする。

 また、日本人だと推測されるのも嫌だな。最悪、転生者だと分かってしまうだろうし。

 もう一度、単位を思い返す。


「……正、……【セイ】」


 多分、外国でも通用しそうな名前と言う意味で選んでみた。


「それでは、これからセイさんと呼ばせて頂きます」


 様付けでなくて良かった。私の好みに合わせてフレンドリーな人格を選んでくれたんだと思う。

 さて、あと残っていることは……。


「〈資金源となる鉱脈〉……、かな? ダンジョンに入る必要がありますよね?」


 食の問題が残っているけど、後回しにする。紅茶が出て来たので問題ないと思うし。

 私の独り言にナユさんが、反応した。

 目の前の地図が拡大されて、近くの場所が表示された。


「ここに、なにかあるのですか?」


「セイさんだけが入れる、迷宮ダンジョンがあります」


 ……予想外だな。準備なしで探索開始?


「先ほどから話の出ている、ダンジョンですか? 迷宮?」


「そのダンジョンです。ただし、危険なモンスター等はいません。宝箱が置いてあるだけなので中身を持ち帰ってください」


 危険はないのかな?

 まあ行ってみよう。行くしかなとも言うのだけどね。

 ダンジョンを知らないと、今後なにすればいいか分からないし。





 飛空艇が、指定された場所に着陸した。

 飛空艇は、丸底の丸木舟といった形状なのだけど、地面から数センチのところで止まっている。

 分かりづらいけど、これもかなりのオーバーテクノロジーだと思う。

 もしかすると、重力制御装置が付いているのかもしれない。プロペラは飾りかな?


 ハッチが開き、地面までの階段が準備されたので降りてみる。

 それと、私の背後には、自動運転の小型積載車が付いて来ていた。これには、脚が四本あり先端にタイヤが着いている。米軍のビジョン6○が近いかな?


「洞窟型のダンジョンになるのかな?」


 目の前の切り立った崖に、空いた穴を見た感想だった。

 その入り口付近には、また見たことのない装置が取り付けられていた。形状は台座の上に丸い石が乗せられている。

 明らかな人工物。

 この先になにかあると、宣伝しているようなものだ。


『丸石を掴んでください』


 促されるまま、石を触る。


『ピッ。認証完了。結界を解除いたします』


 無機質な声が流れた。それと、結界ですか……。ファンタジーな単語だけど、『防犯装置の解除』ではないんだな。

 それを聞いて、ため息が出る。

 私の知識では、『開けゴマ』なんだけどな。まあ、私は古い人間なんだろう。

 ここで立ち止まっていても時間の無駄だな。

 歩を進める。


 ここで、小型積載車(ビジョン6○もどき)がライトを照らしてくれた。

 約100メートル先になにかあるのが見える。

 とりあえず進んでみると、小型コンテナが置かれていた。


「ダンジョンと言えば、普通は木箱の宝箱じゃないのかな……」


 無意味な独り言を呟き、コンテナを開けた。


「……インゴット?」


 コンテナの中には、色とりどりの金属の塊が置かれていた。

 金やプラチナもあると思う。


 数えてみると、全部で100個。

 いやさあ、鉱脈って言わなかったっけ?


「セイさん。補足しますね。条件が満たされると、このコンテナには、その時々でセイさんに必要なものが収められます。今は、その各種インゴットを用いてなにかを製作しても良いですし、売り払って資金を得てもかまいません」


 驚くことにも飽きて来たな……。

 とりあえずインゴットを、小型積載車(ビジョン6○もどき)に積み替えてダンジョンを後にする。

 そういえば、若い肉体に戻ってから、始めての肉体労働だった。

 体力があると言うのは、本当に素晴らしい。一度失ったのでそのありがたさが理解できる。





 さて、これで貰える物は、全て貰えたはずだ。

 ショートケーキを食べて、珈琲を飲みながら考える。


「ナユさん、次はなにをすれば良いですか?」


『う~ん。とりあえず、人里に降りてみましょうか? 現在の状況を知って欲しいですね』


 異世界人との交流か。少し楽しみだったりする。コミュニケーションが取れると良いな……。


『あ! 説明を忘れていましたね。〈自動翻訳〉を行いますので、言語は気にしなくて構いませんよ。セイさんが発した言葉も、相手に理解できるように補正しますので』


 ナユさんは、本当に万能なんだな……。


「では、案内をお願いします」


『それでなのですけど、希望はありますか? 亜人族をモフモフしたいとか、魔人族の妖艶な体とか、竜人族の屈強な引き締まった肉体とか。それとも、やはりエルフ族でしょうか? 鉄板ですよね~』


 ……。いや、コミュニケーションを取りたいとは思いますけど、触りませんよ?

 ナユさんの万能感が、少し揺らいだ気がした。私の思考とは、完全にリンクはしていなんだな。

 深く深呼吸を行う。


「……まず、この世界に慣れるために人族の多い街をお願いします」


『人族ですか……。もうちょっと、異世界に興味を抱いて欲しいところですね~。まあ良いです。一番近い人族の街へ行きましょう。第十大陸オクトバーです』


 行き先が決まり、飛空艇が浮かび上がった。

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