第3話 神様との交渉

「これが、自分の……顔?」


「うふふ。遠い昔ですが、記憶にはありますよね? それと、全身の怪我も癒しておきました」


 言葉も出なかった。もう、驚きしかない。

 大きく深呼吸をする。


「ここまでの報酬を先払いして、私になにをさせたいのですか?」


「先ほども言ったように、私の管轄する世界を救って欲しいのです」


「……具体的には?」


「そこはお任せします。覇王となり、戦争で平定しても良いですし、衣食住の不自由のない世界に変えて、争いを起こさなくして貰ってもかまいません」


 意味が分からない。


「……古代の世界観なのでしょうか? もしくは、猿のように知性を持たない生物が多いとか?」


「う~ん。世界観は中世や前近代のヨーロッパを想像してください。それも乱世ですね。それと、魔法のある世界になります。魔法は便利でして……。魔法に優れた人が、独裁を始めてしまっています」


 魔法? 話を聞くだけでファンタジーな世界を連想させられる。


「私がその世界に行って、なにができると言うのですか?」


「それを、これから決めるのですよ?」


 ダメだ。分からない。





「キャラメイクですか?」


「はい。あなたに神の加護を与えます。どんな能力が欲しいですか? 技能スキルとか魔法でも構いませんよ。それと、超能力でも。想像できるだけ上げて行ってください。無理のない範囲で付与します」


 良い笑顔だな……。

 頭をガリガリと掻く。

 能力スキル……か。スーパー○ンみたいな超人的な身体能力か? もしくは、漫画やアニメの様な不思議な力……。

 いや、魔法のある世界だと言ったな。物理法則の異なる世界なんだと思う。

 そうなると、大規模な破壊を起こせる能力……、火力を重視か? 銃や火器? だけど、私自身がそんなものは望まない。

 ダメだな、ズレている。

 自分自身と向き直そう。

 前世の自分を思い返す。

 私に必要なモノ、私が欲したモノ……。


能力スキルと魔法……。そんなモノより使えるモノをくださいよ。物資面の充実を図りたいです」


「え? 能力スキルも魔法もいらないの? ちょっと心配ですね~。漫画やラノベを読んでいないのが伺えます」


 漫画にラノベか……。随分と読んでいない。

 具体的に提案した方がいいんだろうな。私の欲しいモノ……。


「研究施設……。ラボと言った方が良いですね、前世で私が扱った機材一式が揃った施設が欲しいです」


「はい?」


 間抜けな回答が来た。

 予想外と言うことか。普通はここでなにを要求するか聞きたいな。


「ちなみに、普通の人は、なにを要求するものなのですか?」


「え……、あ……。そうですね。普通であれば、〈鑑定〉や〈空間魔法〉あたりでしょうか? 〈銃〉や〈火器〉の人もいますけど。想像できる武力関係が、ほとんどですね」


 ダメだな。想像できない。私とは違う世界観の人達の発想だ。

 多分、チートになるんだと思うけど、予備知識のない私には不要だ。

 それと、異世界転移する人は結構いる事が分かった。


「それは、欲しいとは思えませんね。研究施設は無理でしょうか? そうなると、〈世界を平和に導く〉のは無理になりますね。他の人に頼んで貰う方が良いでしょう」


 ここで、目の前の存在が慌てる。


「だ、大丈夫です。でも……、そうですね。あまりにも予想外だったもので。分かりました。良いでしょう。研究施設あげちゃいます! それくらいであれば、な~んでもあげますよ!」


 物分かりが良くて助かる。

 ここで、口角が少し上がったのを自覚する。


「でも、そうですね。電力がないと……」


「だ……、大丈夫です。発電施設もおまけしちゃいます! 壊されたり、侵入されることもない、安全な施設を提供します! セキュリティー万全です!」


 扱いやすくて助かるな。楽しくなって来た。


「それと、インターネットも欲しいですよね~。でも、異世界になるのかな? ネットワークは無理ですよね……」


 少し残念な表情を作る。


「も、勿論、創造できますよ。ネットワークですね。大丈夫です!」


 胸をドンと叩いて来た。

 とっても面白い。

 この目の前の存在は、結構凄いのかもしれないな。もう少し試すか。


「前世の研究で面白かったのが、人工知能でした。ソフトとハードの両面で貰えませんか?」


「……それはちょっと」


 ダメか~。なんでもは無理なんだな。下を向いて表情を曇らせてみる。


「あ、待ってください! 人工知能に近しいものであれば可能です!」


 ほう? 良いんじゃないか? 学習させるのは私なんだし、『近い』のであれば、予想を超える事もないと思う。


「ありがとうございます。それと、普段使っていたノートパソコンとタブレットが欲しいですね」


「それは……、ダメですね。データであっても前世の知識を物質として持ち込むことは、許可できません」


 ふむ。データはダメか。まあいい。インターネットが使えるのならば、不便はないと思う。

 上手くいけば、私の過去の研究データもダウンロードできる可能性もあるし。いや、私のゴミみないた論文など不要か。

 人類の英知をダウンロードして、異世界で披露する方向で行こうと思う。

 ニトログリセリン……、ダイナマイトからかな。いや、航空機でもいいな。

 いやいや、中世や前近代のヨーロッパと言った。天然ガスやメタンを利用してのガスの提供でもすれば、喜ばれるだろう。殺菌水の提供は……、日本だけだったな。色々思いつく。

 いいぞ、これならば私の分野だ。色々と想像力が働く。


「知識は、私の頭に入っているモノだけなのですね」


 科学の知識量には、それなりに自信がある。それだけ迷走した人生だともいえるけど。

 研究施設があるので、再現も可能だと思う。異世界で知識の披露になるんだろう。


「理解が速くて助かります。でも、コンピューターに近しい物を用意します。それで、許してください」


 中身が空のパソコンかな? コンパイラが入っていることを祈ろう。

 もしあれば、ソフトが組める。

 今思いつくのは、こんなものかな……。いや、重要なことを忘れていた。


「そうだ! 資金面の援助をお願いします! それと、衣食住の保証も!」


 真っ先に要求するべきモノを忘れていた。研究できても生活できない環境では、生きて行けない。


「大丈夫ですよ。衣食住の保証はします。危険な生物が徘徊する地域に転生させる場合もありますが、あなたにはスタートからゴールまで、完全サポートを保証します! それと資金ですが、現地で稼いで貰う必要があるので、鉱脈をお教えします」


 多分だけど、家を貰えるけど所持金なしなんだろうな。まあいいか。ここまで条件を出したのだし、初日に失敗しなければ、詰むこともないと思う。

 それと、働いて稼ぐのは、好きなので不満もないな。鉱山労働からかもしれないけど、若い肉体を与えて貰ったんだし、不満もない。

 初日からは、鉱山夫になりそうだけど、そこから世界を救うのか……。面白いじゃないか。


「今思いつくのは、こんなところですね。能力スキルと魔法ではなかったのですが、これで楽しめそうです」


「そ、そうですか! 能力スキルと魔法が欲しい場合は相談してください。無理のない範囲で後から付与できます。それでは、異世界転移を始めます。良き異世界ライフを!!」


 うん? なんか慌てていない?

 そう思ったら、急に眠気が襲って来た。


「最後に、あなたのお名前を教えてください……」


「私は、神様と呼ばれています」


 そこで、意識を失った。

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