第3話 神様との交渉
「これが、自分の……顔?」
「うふふ。遠い昔ですが、記憶にはありますよね? それと、全身の怪我も癒しておきました」
言葉も出なかった。もう、驚きしかない。
大きく深呼吸をする。
「ここまでの報酬を先払いして、私になにをさせたいのですか?」
「先ほども言ったように、私の管轄する世界を救って欲しいのです」
「……具体的には?」
「そこはお任せします。覇王となり、戦争で平定しても良いですし、衣食住の不自由のない世界に変えて、争いを起こさなくして貰ってもかまいません」
意味が分からない。
「……古代の世界観なのでしょうか? もしくは、猿のように知性を持たない生物が多いとか?」
「う~ん。世界観は中世や前近代のヨーロッパを想像してください。それも乱世ですね。それと、魔法のある世界になります。魔法は便利でして……。魔法に優れた人が、独裁を始めてしまっています」
魔法? 話を聞くだけでファンタジーな世界を連想させられる。
「私がその世界に行って、なにができると言うのですか?」
「それを、これから決めるのですよ?」
ダメだ。分からない。
◇
「キャラメイクですか?」
「はい。あなたに神の加護を与えます。どんな能力が欲しいですか?
良い笑顔だな……。
頭をガリガリと掻く。
いや、魔法のある世界だと言ったな。物理法則の異なる世界なんだと思う。
そうなると、大規模な破壊を起こせる能力……、火力を重視か? 銃や火器? だけど、私自身がそんなものは望まない。
ダメだな、ズレている。
自分自身と向き直そう。
前世の自分を思い返す。
私に必要なモノ、私が欲したモノ……。
「
「え?
漫画にラノベか……。随分と読んでいない。
具体的に提案した方がいいんだろうな。私の欲しいモノ……。
「研究施設……。ラボと言った方が良いですね、前世で私が扱った機材一式が揃った施設が欲しいです」
「はい?」
間抜けな回答が来た。
予想外と言うことか。普通はここでなにを要求するか聞きたいな。
「ちなみに、普通の人は、なにを要求するものなのですか?」
「え……、あ……。そうですね。普通であれば、〈鑑定〉や〈空間魔法〉あたりでしょうか? 〈銃〉や〈火器〉の人もいますけど。想像できる武力関係が、ほとんどですね」
ダメだな。想像できない。私とは違う世界観の人達の発想だ。
多分、チートになるんだと思うけど、予備知識のない私には不要だ。
それと、異世界転移する人は結構いる事が分かった。
「それは、欲しいとは思えませんね。研究施設は無理でしょうか? そうなると、〈世界を平和に導く〉のは無理になりますね。他の人に頼んで貰う方が良いでしょう」
ここで、目の前の存在が慌てる。
「だ、大丈夫です。でも……、そうですね。あまりにも予想外だったもので。分かりました。良いでしょう。研究施設あげちゃいます! それくらいであれば、な~んでもあげますよ!」
物分かりが良くて助かる。
ここで、口角が少し上がったのを自覚する。
「でも、そうですね。電力がないと……」
「だ……、大丈夫です。発電施設もおまけしちゃいます! 壊されたり、侵入されることもない、安全な施設を提供します! セキュリティー万全です!」
扱いやすくて助かるな。楽しくなって来た。
「それと、インターネットも欲しいですよね~。でも、異世界になるのかな? ネットワークは無理ですよね……」
少し残念な表情を作る。
「も、勿論、創造できますよ。ネットワークですね。大丈夫です!」
胸をドンと叩いて来た。
とっても面白い。
この目の前の存在は、結構凄いのかもしれないな。もう少し試すか。
「前世の研究で面白かったのが、人工知能でした。ソフトとハードの両面で貰えませんか?」
「……それはちょっと」
ダメか~。なんでもは無理なんだな。下を向いて表情を曇らせてみる。
「あ、待ってください! 人工知能に近しいものであれば可能です!」
ほう? 良いんじゃないか? 学習させるのは私なんだし、『近い』のであれば、予想を超える事もないと思う。
「ありがとうございます。それと、普段使っていたノートパソコンとタブレットが欲しいですね」
「それは……、ダメですね。データであっても前世の知識を物質として持ち込むことは、許可できません」
ふむ。データはダメか。まあいい。インターネットが使えるのならば、不便はないと思う。
上手くいけば、私の過去の研究データもダウンロードできる可能性もあるし。いや、私のゴミみないた論文など不要か。
人類の英知をダウンロードして、異世界で披露する方向で行こうと思う。
ニトログリセリン……、ダイナマイトからかな。いや、航空機でもいいな。
いやいや、中世や前近代のヨーロッパと言った。天然ガスやメタンを利用してのガスの提供でもすれば、喜ばれるだろう。殺菌水の提供は……、日本だけだったな。色々思いつく。
いいぞ、これならば私の分野だ。色々と想像力が働く。
「知識は、私の頭に入っているモノだけなのですね」
科学の知識量には、それなりに自信がある。それだけ迷走した人生だともいえるけど。
研究施設があるので、再現も可能だと思う。異世界で知識の披露になるんだろう。
「理解が速くて助かります。でも、コンピューターに近しい物を用意します。それで、許してください」
中身が空のパソコンかな? コンパイラが入っていることを祈ろう。
もしあれば、ソフトが組める。
今思いつくのは、こんなものかな……。いや、重要なことを忘れていた。
「そうだ! 資金面の援助をお願いします! それと、衣食住の保証も!」
真っ先に要求するべきモノを忘れていた。研究できても生活できない環境では、生きて行けない。
「大丈夫ですよ。衣食住の保証はします。危険な生物が徘徊する地域に転生させる場合もありますが、あなたにはスタートからゴールまで、完全サポートを保証します! それと資金ですが、現地で稼いで貰う必要があるので、鉱脈をお教えします」
多分だけど、家を貰えるけど所持金なしなんだろうな。まあいいか。ここまで条件を出したのだし、初日に失敗しなければ、詰むこともないと思う。
それと、働いて稼ぐのは、好きなので不満もないな。鉱山労働からかもしれないけど、若い肉体を与えて貰ったんだし、不満もない。
初日からは、鉱山夫になりそうだけど、そこから世界を救うのか……。面白いじゃないか。
「今思いつくのは、こんなところですね。
「そ、そうですか!
うん? なんか慌てていない?
そう思ったら、急に眠気が襲って来た。
「最後に、あなたのお名前を教えてください……」
「私は、神様と呼ばれています」
そこで、意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます