不思議列車と5人の乗客

序章：品川駅

　2011年夏――。

　蝉の大合唱は耳の奥を突き刺すような音量で、休符を知らないのか止む気配もなく続いている。そんな蒸し暑さも全て癒やしてくれる鉄のヘビは、コンクリートジャングルへと無邪気に進んでいる。

　この青々としたカラーリングの電車は、グリーン車が2両編成に組み込まれ、高校生には似つかわしくないゆったりとした座席で悠々自適な旅を満喫できる。

　旅と言うが、神奈川県横須賀市にある衣笠（きぬがさ）駅から東京都港区にある品川（しながわ）駅までの小旅行だ。いや、旅行というより休日の遠出というところだろうか。

　今日は平日。本当なら高校がある日だが、今日は面倒だからサボった。そんな平日昼間のグリーン車は、気がつくと品川駅に到着していた。

　慌てて下車し、そのまま改札口を目指してICカードを改札機に触れた。

　途端――。

　私の周りの音は、休符を思い出したようだ。