裏切り
俺はずっと一人だった。
「お前らそういうのやめたら?」
お前に出会うまで、俺はいじめられて孤立した日々を送っていた。でもお前は俺を暗闇から引きずり出してくれたんだ。
「……ありがとう」
「いや、当たり前だろ。こんなのおかしいしさ」
お前はちょっとだるそうにそう言ったっけ。そんな言葉に俺は救われた気がした。
「なぁ、なんで俺の事助けた訳」
ある時、気になって聞いた。
「助けたんじゃなくて見てるのが嫌だっただけだよ、一方的な暴力とかマジで不快」
口調は変わらない。お前にとってはなんてこともない行動だったのかもな。でも俺はすごく心が楽になったよ。
「喧嘩とかならまだしもさ、理不尽だろそれ」
「でも……俺のせいでお前も」
「そういう奴とは関わんなくて正解なんだよ」
お前はへらへら笑って言った。変に気を使ってくる訳でもなく、ただそこにそのままのお前がいて。だからかな、お前と話すのはめちゃくちゃ楽しかったんだ。
「今証拠を集めてる、あと少しで全部終わるんだ」
お前はボイスレコーダーを握りしめてそう吐き捨てた。何日か前の話だな。今までに見たことがないくらい冷たい瞳だった。お前がこんなにも俺を大切に思ってくれてるなんて思いもしなかったよ、確かに俺は可哀想だったけどさ。
「だから……あと少しだけ我慢してほしい」
俺よりもつらそうな顔をしてまたそんなことを言う。
「お前、良い奴すぎるよ」
「友達なんだからこれくらい当たり前だろ」
友達。お前のその言葉が、俺の心を満たしていった。あたたかくて、やさしい響きだ。お前が俺の友達だなんて、もったいないとさえ思えた。だけどそう言ってくれたんだから、って受け入れたよ。
「なぁ、俺ら友達だろ?」
「――待て、おい、それ」
体育館裏、俺達の場所。俺の足元には血まみれの男がいた。名前なんてどうでもいい。俺はこれでいじめられっ子じゃなくなったんだ。
「お前は一方的な暴力が嫌いだって言ったよな。だから俺、こいつと喧嘩してようやく対等になれたんだよ。俺のこと褒めてくれよ! 頑張ったんだよ、不意を突くのが本当に大変で」
「やめろ」
あの時と同じ冷たい瞳。なんで俺が向けられなきゃならないんだよ。俺はお前の言うような理不尽な暴力に立ち向かったんだ。偉いだろ、どうしてそんな目で見るんだよ。
「……友達じゃなかったのかよ……?」
涙が溢れた。俺のこと助けてくれたのはお前だけだったのに。嘘ついてたのか。そんなわけない、と俺の脳は否定し続けていた。頭が熱くなる。胸が苦しくなって、視界が涙でぼやける。
「違う、俺は……」
言葉を遮るように持っていたナイフを向ける。お前のこと、傷つけたくない。賢いお前なら最良の選択がわかるよな。
「俺ら、友達だもんな。……な?」
ナイフを持ってだんだんと近づいていく。刃先には血がついたままだった。
「はは……もちろん。……決まってるだろ」
引きつった笑みで、お前はそう答えた。そう言うと思った。お前だって死にたくはないだろうな。俺はやっぱり、お前のことちゃんと分かってるみたいだ。
「じゃあ一緒に死んでくれよ」
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