期待する子と期待しない子
だずん
期待する子と期待しない子
「人生なんてつまらないものだと思うけど」
そう答えたのは貴女。
私が「人生の意味は何だと思う?」っていう質問をしたらこんな言葉で返されてしまった。
私は最近人生をどう過ごしていけばいいのか悩んでる。悩んでると言っても命を絶とうと思うほどには深刻じゃないのだけども。
多分、私はちょっとした迷走期に入っている。
だから友達の貴女に聞いてみたのだけども。
「えー、そんな返事あるー?」
「だって、そうじゃない? 生きてたって辛いことばかりなんだから、初めから諦めてた方が楽に生きれると思うけど」
うーん、絶対そんなの納得できない。
「いや、確かにそうかもしんないけどさぁ。もうちょっとこう、なんかあるじゃん?」
「なんかって何よ。そういうふうに期待するのが良くないと私は思うんだけど。だからそんなに悩んじゃうんじゃない」
「えー、ひどーい」
そんな人生諦めモードで私は生きたくないんだけどなぁ。
「別に諦めて生きるからって不幸なわけじゃないんだけどね」
え、そんなことある?
幸せになるのを諦めてるのに不幸じゃないって?
冗談じゃない。
「え、それおかしくない?」
「なんにもおかしくないよ。だって変に期待することもないわけだから、『期待して損した』ってなることもないわけよ。だから不幸になることもない。むしろ、期待してなかったラッキーに喜べるよ」
「え、貴女って喜んだりするの!?」
貴女の笑顔なんてほとんど見ないからびっくりした。
いやでもよく考えてみたら、ほくそ笑むような笑い方なら見たことあるかも……。
「ちょっとあんた、私が『人を下に見て笑うことしかしなさそうなのに!?』みたいな顔するのやめてちょうだいよ……」
「あ、バレた?」
「はぁ……。まあいいわ。顔には出さないけど、内心ちょっと嬉しいなってことくらいはあるのよ。まあ浮ついちゃったらすぐに期待しちゃうからあんまり喜ばないようにはしてるけどね。そういうあんたはどうなの」
「どうって?」
「期待とかよくするの?」
うーん、私はどうだろう?
多分結構期待とかする方だと思う。
好きな歌手が新曲出すってなったらすっごく期待しちゃって、ワクワクしちゃうし、焼肉食べに行くって決まったらその日まで焼肉食べたい!ってことばっかり頭にあるんだもん。
「よくするよ。それはもう、すっごく」
「よくやるわねぇ……。しんどくない? 期待と違った時とかガーンってなっちゃうでしょ」
「んーまあそういうときもあるけど、それはそれでいい体験したなぁって思うことにしてるよ。だって、期待と違ったってことは、想像もできなかったことが起きたわけでしょ? だからそれが例え悪い方向にいったとしても、その違いを楽しめばいいだけじゃないかな?」
「いやよそんなの。だってしんどいじゃない」
「うーん、しんどいかなぁ?」
「……なんかあんたすごいわ」
「それはそれはどうもー」
んー、色んな考え方があるんだなぁ。
人生の意味ってなんだろうとか考えてたけど、もしかしたらこういう他の人の生き方を真似するのもありかもしれない。
「まあでも、やっぱりこの生き方にも限界ってものがあるからさ、貴女の生き方も参考にしてみようかな」
「いいじゃんいいじゃん。諦観した生き方もなかなか悪くないよ。それじゃあまずは小手調べ。あそこに飛行機が見えるわよね」
「うん」
「あの飛行機どうなると思う?」
「うーん、空をぐんぐん進んでて気持ちよさそうだなーって思う」
「ぶっぶー。正解は飛行機は墜落して散り散りになったとさ。めでたしめでたし」
「え、えええ!?」
「そんくらい思ってたら本当に墜落しても、『ああ、やっとうちの人生おわったか』くらいにしか思わなくなるよ」
そ、そんな逆転の発想あるの!?
いやー、流石にやられた……。
「なんか、強く生きられそうだね」
「まあそれはあるかもね。あんた、人生の意味を聞いてきたけど、私みたいな考え方ならそんなもの無いんだよ。だから、強く、というかしぶとく生きていけるのかもしれないね」
「ほぉ……」
「逆にあんたみたいな生き方もたまには面白そうだなって思ったけど、あの飛行機見て気持ちよさそうとか思うんだ」
「そうだよ? だってそう思わない?」
「いや、思わない。だって飛行機に感情移入するなんてちょっとバカっぽくない?」
「バカってなによ! ほら、鳥みたいに空を駆けるのってすっごく楽しそうじゃん!」
「いやー、私は別に駆けなくてもいいかなぁ。てか空を駆けるってペガサスにでも乗る気?」
「ペガサス!? もっと楽しそう!」
「な、なるほどね……。あんたの生き方って確かに楽しそうでいいわね。まあ流石に私がそこまでなったら人が違えてしまうけども……」
ふふふ。
あはは。
「どうしたのよ急に笑って」
「なんか楽しいなって。人生の意味とかどーでもよくなってきちゃった。なんか貴女とさえ喋ってたらいつまでも喋れそうで飽きないなーって」
「まあそれに関しては私もちょっと同意。もっと楽しくなるんじゃないかって期待しちゃうくらいには楽しかったかもね」
「ねー。私ってば普段こういう明るい話しかできないから、逆に人生諦めモードの考え方知るのってすごく新鮮だし、なんというか少し安心できる感じでいいかも」
「安心?」
安心。そう、なんだか少しだけ安心しちゃう。
さっきも言われた気がするけど、こういう生き方って時々しんどくなっちゃうものなのかもしれない。自分では気づかないけども。
でも、貴女みたいな生き方ってそういった忙しさはなくて、あるのはただただ低空飛行を続ける感情だけ。だけどもそれはある種のセーフティネットとも言うべき生き方で、なんだかそれがあるんだって思えると少し安心しちゃう。きっと私が落ち込むことがあっても、貴方なら拾ってくれる。
「うん、なんかうまく言葉に表せないけど、ちょっとだけ安心しちゃうかも」
「そうなのね。それはよかったわ。私もあなたとお喋りして、どこまでも明るくて何だか『この子大丈夫かな』って不安に思っちゃうくらいだったけど、結構楽しかったわ」
「やったぁー。なら私たちもっと仲良くなろうよ」
「もっとって?」
「付き合うとか?」
「やめたほうがいいよ、私たち全然違う人間なんだから」
「それもそっかー。でもやっぱり今日は楽しかったからまた明日もお喋りしよー」
「それならいいわ。今度はどこがいいかしら? マグマの底?」
「温泉ってことだね!」
「……この子強いわね」
「ふふふ……。それじゃあ明日は近くの温泉で!」
貴女と別れて一人になる。
今日は楽しかったなー。
悩みも全部解決したし、スッキリ!
いや待てよ……。
なんだか変な気持ちが湧いてる気がする……。
んー貴女のこと考えるとなんだか心がモヤモヤする……。
まー、いっか!
明日このこと相談したらいいだけだもんね!
期待する子と期待しない子 だずん @dazun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます