第51話 召喚魔法

 俺は剣術に関しては自信がある。将来はアリアに抜かれるかもしれないが、おそらく現時点では世界最強だと思う。

 けれど魔法は初心者だ。

 だから大魔法師のマフレナに指導してもらっている。


「マフレナって召喚魔法って使える?」


「さほど得意ではありませんが使えますよ。それがなにか?」


「ほら。俺って回復魔法は教わることがないくらい使えるでしょ。攻撃魔法も、まあまあ上達してきた。強化魔法は戦闘中は常に使ってる。防御魔法だって、それなりに使える。けれど弱体魔法と召喚魔法は全然だ」


「なるほど。魔法才覚測定とかいうアレの分類ですね。それに従うと、邪竜の動きを止めた拘束魔法が弱体魔法に分類されますかね。でも私、魔法才覚測定って嫌いなんですよ」


「そうなの? なんで?」


「だって正しいとは限りませんし。そもそも私に言わせれば、魔法ってのはもっと自由なんですよ。それを六種類に分けて、才能をAランクとかBランクとか測るなんて……へっ! 笑っちゃいますね! 六種に分類できないような魔法は沢山ありますよ!」


「なるほど。魔法を多少なりとも学んだ今だから、分かる気がするよ。でも完全に間違ってるわけでもないでしょ。あの儀式で俺は回復魔法の才能があるって結果が出て、実際にそうだった」


「まあ……そうですね」


「で。その六種類のうち、召喚魔法はまだ見たことさえない。どんな感じか知りたいんだけど」


「召喚魔法は、大きく二つに分けられます。対象そのものを召喚する魔法と、対象の力だけを召喚獣、、、として呼び出す魔法です。私が使えるのは召喚獣のほうですね。対象そのものを呼び出すほうは、正直、詳しくないので質問されても困ります」


「対象の力だけを呼び出す……どんな感じか、やって見せてよ」


「なるほど。レイナード様の頼みとあらばやるしかありません!」


 マフレナは気合いを込めた顔で家の外に出る。俺はそれを追いかけた。するとピアラジュもプニプニとついてくる。


「吾輩も召喚魔法は見たことがない。どのような代物か興味があるぞ」


「うふふ。どうぞ、見物してください。けれど、私が今から呼び出す召喚獣は危険なので、もっと私から離れてください。レイナード様もです。……ええ、そのくらいでいいでしょう。では、召喚します!」


 マフレナは目を閉じて、集中し始めた。

 一体どんなのが現れるのかと、俺とピアラジュは息を呑んで見守る。

 が、待てども変化はなし。


「……マフレナ?」


「話しかけないでください! 今やってるんですから!」


 叱られてしまった。

 俺はピアラジュを持ち上げ、むにむにと変形させて時間を潰す。

 そこから数分後。ついにマフレナが目を見開いた。


「繋がりました。いきますよ……召喚!」


 繋がる。その言葉通り、見慣れた湖畔に、まるで別のどこかが重なったような違和感が広がる。

 空中に魔法陣が広がり、弾けた。と同時に、透明な物体が湖の上に現れた。全長は三メートルほど。洞窟から採取した水晶の原石のような姿形だが、それよりもずっと透明度が高い。四角錐を上下に二つくっつけたような……双角錐とでも言うのだろうか。

 極めて純度の高い氷から削り出したようなイメージ。

 見ているだけで涼しい気分になってくる。

 いや本当に冷気を放っているぞ。


「湖が凍り始めてる……冷気を操る召喚獣なの?」


「はい。氷の召喚獣グラツィアです。ほら、見てください、湖の表面にドンドン氷が広がっていますよ。それどころか草むらも凍り始めていますね。一度召喚してしまえば、私の魔力を使わず、勝手に冷気を放ってくれるのです」


 なるほど。それは凄い。

 複数の魔法を同時に使うのは、魔力の消費が激しいのはもちろん、集中力をもの凄く使う。

 氷系と別の魔法を同時使用しなければならない状況で、氷はこのグラツィアに任せ、自分は別の魔法に専念する。それなら両方がおろそかになるのを防げるだろう。


「凄いのは分かったから、冷気を抑えてくれないかな。凍えちゃうよ」


「それが……さっきも言ったとおり、私は召喚魔法が苦手でして……呼び出すのに時間がかかるし、制御も上手くできないんですよね……あはは」


「笑って誤魔化すな! 家まで凍るよ!?」


「今から還すので少々お待ちを!」


 そして十数分後。

 グラツィアの姿が消えたとき、湖の三分の一が凍り付いていた。家の外壁、草むら、森の一部は霜に覆われている。

 ピアラジュなど完全にカチンコチンだ。


「ど、どうですか……すぐに還したのでこの程度ですが、放っておけばどこまでも凍り付かせる恐るべき召喚獣です。強力でしょう! へくちゅっ!」


「強力だけど制御できないのは駄目でしょ。敵も味方も関係ないじゃないか。無理心中にしか使えないよ……へくしゅん!」


 俺とマフレナは炎魔法を薄く広げ、周辺の氷を溶かしていく。

 すると湖にお魚さんたちが浮かんできた。水温が下がったせいで弱っているんだ。まだ口がパクパクしている……息はある。


「回復! ……ふう。これで生態系の破壊を回避したぞ。へくしゅん!」


「さすがはレイナード様でございます……へくちゅっ!」


 駄目だ。体が芯から冷え切っている。風呂に入って暖まらないと。

 水魔法と炎魔法の同時使用で、浴槽に丁度いい温度のお湯をはる。ピアラジュを放り込み、それから俺とマフレナも飛び込んだ。


「ああ……温まる……」


「生き返る気分ですねぇ……」


「……はっ! 吾輩、いつの間に風呂に!? 召喚獣が出てきてから急に意識が遠くなって……吾輩、凍っていたのか!」


 解凍されたピアラジュは意識を取り戻した。

 俺が凍らせたときはうっすら意識が残ってたらしいけど、それさえ凍結させられたらしい。召喚獣、恐るべし。

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