第46話 アリアと剣の稽古
剣聖剣は二本ある。本来は一本だったのだが、折れた刃に回復魔法をかけたら二本に増えてしまったのだ。俺はそれで自分の回復魔法の凄まじさを理解した。
以来、俺は二刀流で戦っていて、かなり慣れてきた。確実に手数が増えている。
大人と子供ではリーチが違うので単純比較は難しいが、今の俺の剣技は前世を超えていると思う。
それを踏まえた上で、俺は剣聖剣の片方をマフレナに預け、前世と同じく一本だけを構えていた。
正面には、同じく一本の剣を構える赤毛の少女。この国の王女アリアだ。緊張と闘志をほどよく混ぜた視線を俺に向けてくる。
お互いの距離は約五メートル。
そんな俺とアリアを取り囲むように、国の兵士たちが輪を作っていた。
場所は王宮の庭。
そこでアリアに稽古をつけるため一対一の試合をしようとしたら、どこで噂を聞いたのか、野次馬が集まってしまったのだ。
少々、気が散る。けれど、この程度で実力を出せないようなら、実戦ではもっと危うい。
それに兵士たちが俺とアリアの戦いから、わずかでもなにか学び取ってくれれば、この国の防衛力強化にも繋がる。
「んじゃ、俺からいくよ」
「合図など不要だ。私の覚悟が決まっていることくらい、君なら分かるはずだ」
「それもそう
か、の発音と同時に、俺の刃はアリアの刃と合わさり、火花を咲かせた。
いいぞ。反応できている。力負けもしていない。それをいつまでも続けられるようになれば、アリアは剣聖の名を継ぐに相応しい剣士になれる。
鍔迫り合いののち、アリアが動いた。力を抜いて俺の刃を滑らせ、それと同時に半歩下がって距離を作る。作った距離を再び詰めて、その勢いを利用した打ち下ろし。
全ての動作が流れるようにスムーズで、このまま見とれてしまいたいほどだ。しかし、そんなことをすれば振り下ろされた剣が俺の脳天を真っ二つにしてしまう。いくら俺の回復魔法が凄いといっても、死んだらさすがに使えないはずだ。
稲妻のように落ちてくる刃に、俺はそれ以上の速度で刃を打ち付ける。
アリアは弾かれ仰け反った。が、予想していたのだろう。俺の斬撃の勢いを受け流しただけでなく、利用して、バレリーナのように回転。剣に遠心力を乗せて、俺の横腹にフルスイングしてきた。
もちろん俺は防いだ。防いだが衝撃で体が浮き上がった。風魔法で制御……いや、これは剣と剣の試合。身体能力を強化する魔法以外は御法度だ。
だから俺はもどかしく思いながらも、半秒ほど宙に浮く。踏ん張れないその状態を、アリアが見逃すはずもなく、息を呑むような刺突を放ってきた。それを弾くと、間髪入れずに下段から追撃してくる。また俺を打ち上げて、永遠に空中に置きたいのだろう。けれど、そうはいかない。完全に同じ力をぶつけて相殺。俺の足は読み通り半秒で地面に戻った。
俺は宙にいた半秒の鬱憤を晴らすため、連続攻撃を開始した。
「くっ!」
アリアは苦悶の声を漏らす。まだ耐えてくれ。これでも遠慮しているんだから。
俺の剣を目で追えている。体もなんとかついてきている。いいぞ。けれど余裕はまるでなさそうだ。だから俺の斬撃の勢いを受け流せていない。まともに受けて、剣と手首にダメージが蓄積している。
火花が一面に咲いて、光の花畑が広がる。
その美しい光景の直後、アリアの剣が限界を超え、ついに折れた。折れた刃が観戦している兵士たちのところに飛んでいったが、それをマフレナが風魔法でキャッチし、事なきを得る。
「参った……」
アリアは声を絞り出し、その場に座り込んだ。
一分に満たない攻防だったけど、それで体力を使い切ったようだ。赤色の髪が汗で頬に張り付いていた。
「お見事だったよ。よくここまで耐えたね。手首を見せて。回復する」
「いや……私の体はいい。この鈍痛を記憶に刻んで、成長への糧としたい。それより剣の修復を頼めるだろうか?」
「お安いご用さ」
マフレナから折れた刃を受け取り、回復魔法。アリアの剣は刃こぼれ一つない姿に戻った。
周りの兵士たちから、俺とアリアを賞賛する声が聞こえる。
だけど自分も稽古を付けて欲しいって人はいない。
まあ、普通の剣士が俺と戦ったら、瞬き一つする間に終わってしまう。勉強にならない。みんな、それを察しているから見るだけで満足しているんだろう。
「見事であった。レイナード。アリア。武闘大会の決勝戦より、更に心躍った。この短期間に素晴らしい戦いを二度も見せられ、余は心がすっかり少年に戻った気分だぞ。そなたら二人がいれば、今のような試合を何度も見せてもらえるのだな」
兵士たちの中から、国王が現れた。
俺が跪こうとすると「不要」と手振りで制された。
前から思っていたけど、国王陛下はどうやら堅苦しいのを好まないらしい。
立場上、式典だの儀式だのは形式通りにやっているけど、やらなくていいときは無礼講でいたいのだろう。そういうことなら俺も今度から、謁見の間でもない限り、跪くのはやめにしよう。
「アリアよ。レイナードと話したいだろうが、お前は疲労困憊。息を整えている間、余がレイナードを借りてもよいか?」
「もちろんです、父上。ですが、ちゃんと返してください」
「娘の思い人を盗ったりはせんよ。レイナード、少し散歩に付き合ってくれ」
「かしこまりました」
娘の思い人、なんて兵士たちの前で言ってもいいのだろうか。
いや、あの決勝戦でアリアは俺に接吻していたから今更か。
けれど兵士たちに冷やかす気配がない。
どちらかというと「アリア姫を頼むぜ」みたいな視線を感じる。
やはりアリアは問題児で、そして愛されているのだなぁ。
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