第26話 瞑想は苦手
「納得してくれたところで、その剣を使ってみてよ。攻撃魔法を斬り裂いたあの技、もう一度見たいなぁ」
決勝で使ったのと同じ、魔法効果が付与されていない剣だ。
作った鍛冶師の腕は極上だけど、材質はただの鋼鉄。
魔法に干渉できるようには作られていない。
が、アリアはそういう剣で魔法を斬ってしまうのだ。
「よし。剣のお礼だ。見たいならいくらでも見せてやろう」
湖のほとりでアリアは剣を構える。
俺は魔法で火球を作り、振りかぶって投げた。
アリアは剣をフルスイングし、火球をぶった斬る。
魔力が不安定になった火球はすぐに散ってしまった。
「うーん……何度見ても不思議だ。剣に魔力をまとわせてるとかなら理解できるけど。アリアから全く魔力を感じなかったし……俺の回復魔法と同じくらい原理不明なんじゃないの?」
「魔法に刃を当てる瞬間、絶対に斬ってやる、と強く念じている。魔力うんぬんは分からないが、気合いはこの上なく込めている。気合いで魔法を斬っているのだ!」
「気合いかぁ……」
なにをするにしても、無気力よりは気合いがあったほうがいい。
だが、それで魔法をどうにかできるものなのだろうか。
俺はまだ魔法の初心者だ。
なので上級者に助けを求めることにしよう。
「アリア様、普通に魔力使ってますけど」
マフレナに視線を向けると、真顔でそう指摘してきた。
「え……けど、少しも魔力を感じないけど……」
「レイナード様が未熟だからですよ。まあ、私ですら集中しないと探知できませんが」
「それってつまり、魔力が微弱ってことでしょ。そんな微弱な魔力で、どうして攻撃魔法を斬れるの?」
「外に漏れている魔力が微弱なだけです。アリア様の魔力はほぼ全て、体内と、手にした剣の中にとどまっています。だからこそ凄まじい身体能力を発揮できるし、ただの剣が魔法剣のようになったりするわけです」
「……外に漏れてないって、つまりそれだけ効率的に体と剣を強化できてるってこと?」
「はい。アリア様は無意識に強化魔法を使っているのです。才能ですね。ですが逆に、魔力を外に放出するのが苦手なのでしょう。攻撃魔法を放つのは、練習しても無理かもしれません」
魔力を外に漏らさずに使う。
そういう発想がなかった。俺もそれができるようになれば、敵に探知されることなく魔法を使える。
とはいえ、かなり高度な技だろう。一朝一夕にできるとは思えない。
そして、それを無意識にやれてしまうアリアは、逆に普通の魔法の才能がないとマフレナは言う。
「ま、魔力……私は知らぬうちに強化魔法を使っていたのか……魔法を使わずに魔法に対抗できるのが格好いいとかちょっと思っていたのだが……違ったのか……」
アリアは肩を落として呟いた。
「気持ちは分からなくもないけど、原理が分からないよりは、分かるほうがいいよ。より強くなるには己を知らなきゃ」
「その通りです。魔力の流れを意識してコントロールできるようになれば、より力強く動けるはずです」
「なるほど……強くなれるならば、格好いいかなど些細な問題だな。そもそも強化魔法は格好悪くないのだし。それで、魔力を意識してコントロールするには、どんな訓練をすべきだろうか?」
「まずは自分の魔力を感じるところからなので、瞑想をしましょうか」
「瞑想か……剣でも瞑想は大切な修行だが……苦手だ」
「分かる」
アリアの呟きに対し、俺は力強く頷いた。
「そう言わずに。せっかくなので三人で瞑想しましょう。私も久しぶりに、基礎から学び直したいと思っていたところなので」
マフレナの提案に従い、俺たちは木陰に座って目を閉じた。
温かい木漏れ日。肌を優しく撫でる風。静かな湖の波。
なにもかもが眠気を誘う。
そして……目が覚めたとき、空は茜色に染まっていた。
目を覚ましたということは、つまり寝ていたのだ。瞑想と睡眠はまるで違う。普通なら師匠に怒られるところだが、師匠たるマフレナは、新弟子のアリアと一緒にまだスヤスヤと寝息を立てていた。
「アリアはともかく、マフレナが寝ちゃ駄目でしょ……」
「わ、私も昔から瞑想は苦手で……だからこそ学び直したいと思ったんです。仕方がないんです!」
俺、もしかして魔法の師匠選びを間違ったか……?
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