第15話 武闘大会
王都には立派な
そこで今度、国王主催の武闘大会が行われることになった。
優勝すれば賞金をもらえるだけでなく、国王やその側近の目にとまり、近衛騎士にスカウトされるかもしれない。
そういう夢を見れるから、普通の武闘大会よりも出場者たちに気合いが入っており、それを見たくて観客も大勢入る。
俺は近衛騎士になるつもりはない。けれどマフレナとの修行の成果を試すため、エントリーした。
あと、この時代の戦士たちが、どのくらい強いか測るという目的もある。
「妾の子!? どうしてここにいるのかしら。誰の許可を得て屋敷を抜け出したの?」
コロシアムの廊下で、カミラと遭遇してしまった。
人目をはばからずに俺を『妾の子』と呼ぶ辺りはブレない人だ。
「外出するのに許可がいるほうがおかしいと思って、誰にも許可なんかとっていません。ここに来たのは、大会に出場するためです」
「出場? あなたが? あははは! いくら回復魔法が得意でも、相手を倒さなきゃ勝てないのよ? それにリングの外に落とされたら、その時点で場外負け。わざわざ国王陛下の前で無様を晒しに来るなんて、妾の子の考えることは分からないわ」
「登録はレイナードと、名だけにしました。ウォンバードの姓は名乗らないので、家名に傷はつけません」
「当然だわ!」
カミラの叫び声にほかの客たちが反応し、何事かと視線を向けてくる。
それで冷静になったのか、扇で口元を隠した。
「まったく、どんな方法で予選を通ったのか知らないけど……あなたの醜態、楽しみにしてあげる」
醜態を晒した人がそんな捨て台詞を吐いて去って行くのだから奇妙なものだ。
そしてなんの宿命か、俺の最初の試合の相手は、アンディだった。
「お母様から、兄様が出ると聞いたときは耳を疑った。まさか本当だったとはな。これで一回戦は勝ったも同然だ。さて、簡単に終わらせてもつまらないし、ジワジワとなぶってやろうか!」
そう言い終わったアンディに、俺の風魔法が直撃。
なんの反応もできず、アンディは観客席に飛び込んでいった。
「場外! レイナード選手の勝利!」
審判はそう宣言した。
「今の魔法の発動、見えたか!?」
「魔力の流れを感じさせなかった。あんな子供なのに、まるで老練な魔法師のようだ」
「なんだか知らないけど、とにかく凄い!」
客席から聞こえてくる歓声に、俺は手を上げて応える。すると声はますます大きくなっていく。
だが、その盛り上がりを、一人の女性の行動が静めてしまう。
カミラが客席から飛び出し、リングへ近づいてきたのだ。
「インチキだわ!」
リングによじ登ろうとするカミラの前にスタッフが立ち塞がる。それでもカミラは諦めなかった。
「なにがどうインチキなんでしょうか?」
俺は問う。なにか失言してくれるのではないかと期待して。
「なにかは分からないけど、インチキしたに決まってるのよ! そうじゃなきゃ私のアンディが負けるはずないの! だって私が正妻で、あなたは妾の子なのよ! そもそも、あなたには魔法書を一冊も読ませてないじゃない……なのにどうして魔法を使えるのよ! まともな食事を与えてないのに病気になる気配もないし、服だっていつの間にか小綺麗になってるし……インチキよ! あなたの存在が全部インチキ!」
想像を遙かに超える失言を、公衆の面前でしてくれた。
それを聞いた観客たちがざわめく。
「どう見たってインチキなんかしてないよな?」
「たんに、あのアンディってのが弱いんだろ」
「ウォンバード男爵家のアンディって、ほかの武闘大会で優勝しまくって天才とか言われてたんだろ? 期待してたけど拍子抜けだな」
「それより、対戦相手のレイナードが強すぎる。俺のパーティーにスカウトしたいくらいだ。妾の子とか言われてるけど、どういうことなんだ?」
「噂で聞いたことあるぜ。ウォンバード男爵家の長男は、メイドとのあいだに生まれた子なんだとよ」
「へえ。で、あの怒鳴り込んできたのが正妻か。自分の息子が可愛いのは分かるけど、だからって、まともな食事を与えないとか、虐待じゃん……」
「魔法師の家系なのに、魔法書を読ませないってのもな……才能がないならともかく、メッチャ強いじゃん。あれ、独学ってことだろ?」
聞こえてくる声の一つ一つは小さくても、会場全体が囁けば、それは巨大な非難の渦となってカミラに襲い掛かった。
屋敷では神のごとく振る舞っている彼女も、しょせんは男爵の妻でしかない。王族や貴族が観覧しに来ているこの場で、これ以上、強気に出るのは不可能……と思いきや。客席を睨みつけ、コロシアム全体に響き渡るような大声で叫んだ。
「なによ! 虐待? 余計なお世話だわ! どうして妾の子を人間扱いしゃなきゃいけないのよ。殺さずに生かしといてやってるんだから感謝して欲しいくらいよ! なのにアンディに勝って私に恥をかかせるなんて……今まで飼ってやった恩を仇で返すなんて、これだから妾の子は!」
凄い。
この人は自分の言い分が正しいと心の底から信じているんだ。
じゃないと公衆の面前で叫ぶなんてできない。
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