第13話 俺に魔法を教えてよ

 カミラは俺が屋敷にいなかったことに、気づいてさえいなかった。

 しかしアンディはずっと俺を探していたらしく「今までどこに隠れていたんだ!」と叫びながら、いつものように攻撃魔法をぶっ放してきた。


 久しぶりにマフレナと会い、前世の感覚に戻っているので、アンディの攻撃が稚拙すぎてアクビが出そうになる。


「アンディ。お前、もう少し頑張れよ」


「なっ……再生できるからって調子に乗りやがって……!」


 激高したアンディの気が済むまで攻撃を喰らう。

 物足りない。

 家も同居人も手に入れたし、いよいよ独立の頃合いかな。

 けれどエリスをはじめとしたメイドたちには世話になった。いきなり去るのは忍びない。

 もう少し二重生活を続けて様子を見よう。


 次の日。またメイドに変装し、屋敷を抜け出す。


「マフレナ。俺だよ」


「お帰りなさいませ、レイナード様……って、メイド服!?」


「ああ、うん。実家を脱出するときは、こうやって変装してるんだ」


「きゃぁ可愛い! お互いメイド服でお揃いですね! ペアルックでデートというのもいいかもしれません!」


 マフレナは興奮した様子で抱きついてきた。

 エリスが言っていたけど、メイド服を着た俺は実母のリリにそっくりらしい。

 実際、町を歩いていて男だとバレたことはない。

 まあ、今の俺は声変わりもしていない十三歳の少年だ。服さえ変えれば、男だか女だかあやふやになって当然だろう。


「マフレナがメイド服デートしたいなら、してもいいけど」


「是非! ああ、しかし……今日はやめておきましょう。私、一昨日から昨日にかけてレイナード様に虐められまくった余韻が残っていて……まだ体がふわふわしているのです」


「そんな。あれでも一応、手加減したのに」


「え!?」


 冗談だよ、と言ってあげたいけど、冗談ではなかった。

 俺の真剣な眼差しを見て、マフレナは息を飲み込む。


「じゃあ……次はもっと激しくされてしまうんですね……レイナード様の獣のような欲求を、この体で受け止めねばならないのですね……ああ、今から怖いです。でも私はレイナード様の奴隷なので逃れられないのですね……きっと縄で縛られたり、地下室に監禁されたりするんですね!」


「そんなことしないよ……地下室とかないし」


「え!? メイドって地下室に監禁されて、鎖で繋がれて、なにも悪いことをしていないのに『えっちなお仕置き』されるものでしょう! なんなら、お仕置きに耐えて偉いぞとかいう理屈で『えっちなご褒美』を追加するのでしょう!? メイドを雇ったのに地下室がないとかやる気あるんですか!?」


「知らないよ。なんだよそれ。エルフの風習なの?」


「いえ……知っているかと思いますが、エルフは長寿な代わりに恋愛とか繁殖への欲求が薄く……同族とそういう話をしたことはありませんね」


「……じゃあマフレナのその妄想はなんなのさ。欲求が濃厚なように聞こえるんだけど」


「わ、私だって最初は普通のエルフだったんです! でも剣聖セオドリックと出会って、少しずつ惹かれて……でも相談する相手がいないので、人間の文献で勉強して。『こんな世界もあるんだ凄い!』と感動して、沢山買い集めて、沢山妄想したんです。なので……私を監禁して飼育してください……!」


「やだよ。ちゃんとメイドとして働いてよ。掃除とか料理とか」


「うふふ。レイナード様。私は生涯を魔法と錬金術の勉強に捧げ、余暇はえっちな妄想ばかりしていた女ですよ。家事なんてできるはずありません」


「自慢げに言わないでよ。教えるから覚えて」


「嫌です」


「……主人レイナードの名において、奴隷マフレナ・クベルカに命ずる。家事を覚えろ」


「にょわわ……体が勝手に……!」


 俺はウォンバード男爵家の長男だけど、妾の子ゆえに軽んじられ、色々な雑用を押しつけられていた。だから掃除洗濯はお手の物。料理だってエリスに少しは教わった。それをマフレナに伝授する。


「つ、疲れました……ですが、お掃除とはなかなか清々しい気分になれるものですね」


「飲み込みが早くて助かったよ。ところで次は、マフレナが俺に魔法を教えてよ」


「私がレイナード様に魔法を? しかし回復魔法は私が教わりたいくらいですし、攻撃に関しては剣を使ったほうが早いのでは?」


「うん。実用性の話をすればそうなんだけど。実は前世から、魔法を習ってみたいと思ってたんだよ。火とか電気とか出すの、楽しそうだから。けれど、そんな暇がなくて。マフレナは俺が知ってる最高の魔法師だ。マフレナから魔法を習いたい」


「まあ! なんと嬉しいことを言ってくださるのでしょうか! それではまず、レイナード様がどのくらい魔法を使えるのか見せてください」


「結構、色々できるよ」


 家の外に出て、アンディからコピーした技の数々を披露する。

 電撃。竜巻。火炎。氷結。水流。土壁――。

 何度も練習したので、かなりスムーズに出せたぞ。これなら大魔法師マフレナからも高評価をもらえるはず。


「……てんで駄目ですね。変な癖がついています。よほど酷いのを手本にしたんでしょうね」


 冷ややかな反応。

 おのれ、アンディ。お前の魔法をコピーしたら呆れられたぞ。

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