第4話 安く買って、修復して、高く売る

 俺の回復魔法には、アイテムを修復する力があると分かった。

 分かった以上は色々と試したい。

 だが万が一、もとに戻せなかった場合を考えると、屋敷のものを破壊して試すわけにもいかない。アンディとカミラはどうでもいいが、メイドたちに迷惑をかけたくないから。


 なので屋敷の外に行きたい。

 ここは王都だ。様々な物が行き交う大都市だ。俺の能力を試すには、これ以上ないほどうってつけだろう。


 ところが俺には、自由に外出する権利がない。

「妾の子なんて恥ずかしくて外に出せない」とか「養ってやってるんだから、遊ぶ暇があったら働け」とか、そういう理屈だ。

 が、実は今まで、何度かコッソリと外出していた。当然だろう。俺は前世で得られなかった自由を欲しているのだから。


 しかし今日に限って、アンディが門の前で魔法の練習をしていた。

 裏に回って塀を乗り越えるという手もあるが、魔法師の家系だけあって、そういうことをすると警報が鳴る術式が施されている。

 もうこの屋敷に戻らないのであればアンディを殴り倒して出ていくのだが、それは少し気が早い。


「アンディは馬鹿だから、この手が通用するかもしれない」


 俺は正面から堂々と歩いて行き、門を開けようとする。


「待て。どこに行くんだ?」


「えっと……夕飯の食材で足りないものがあるので、お使いに」


「ふぅん。ところで、お前みたいなメイドいたっけ?」


 そう。

 俺は今、もらったばかりのメイド服を着ている。頭にはフリルのついたカチューシャをついけていて、更に髪を結っていた。いつもとかなり印象が違って見えるはず。


「新入りです」


「そうか。なかなか可愛いな。妾にしてやろうか? あはは」


「お、お戯れを」


 という感じで事を荒立てずに外出できたのはいいが……いや、気付よ。そして兄貴をナンパしてんじゃねぇ。


 もし真実を知ったらアンディはどう思うだろう。「お前がナンパしたの、女装した俺だから」と告げて心に傷を負わせてやるのも面白いが、俺もダメージを負いそうなので、お互いのために黙っていよう。


 それよりも、まずは金が欲しい。

 壊れたものを買って直すにしても、無一文ではままならない。

 俺の財産といえば、さっき魔法で直した服だ。それを古道具屋に売る。その金で錆びた剣を買った。


 人気のない場所で回復魔法。成功だ。錆も刃こぼれもない綺麗な剣になった。だが見た目が綺麗なだけで質の悪い鉄を使っているな。どんなに回復しても、もとの状態以上になったりはしないらしい。

 その剣を別の店に売る。今度はヘコんだ兜を買って、直し、売る。

 美術品にも手を出してみたが、直しても大して高く売れなかった。やはり目利きできる武器や防具のほうがよさそうだ。


 一日でかなり儲かった。こんなに順調に行くとは思っていなかった。

 しかし現金をあの屋敷に持ち帰りたくない。

 アンディとカミラに見つかったら、なにを言われることやら。


 なので冒険者ギルドに預ける。冒険者ギルドは銀行としての役割もあって、会員は無料で口座を作れるのだ。

 俺はすでに登録だけは済ませてあるから、金を預けるのはスムーズだった。


「レイナードくん。あなたってレイナードちゃんだったのかしら?」


 俺を覚えていた受付嬢が、不思議そうに呟く。


「いえ。男です。この姿は事情があるんです」


「まあ、人生って色々あるからね。似合ってるからいいんじゃない?」


 これからも屋敷を抜け出すのにメイド服を使うと思うので、すんなりと受け入れてもらえたのはありがたい。


 そして日が暮れる頃、俺は屋敷に帰った。

 アンディはまだ門の近くで魔法の練習をしていた。


「おかえり。必要なものは買えたのか? ところで明日、一緒に出かけないか? オシャレな喫茶店を見つけたんだけど」


「いえ、仕事が沢山あるので……」


「あはは、そんなの兄様にやらせておけばいいんだよ」


 その兄様が俺だよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る