第六話 二人の時間
二人がやることは、寝るだけになった。
仕事以外で二人きりにななるのは初めてだった。しかも同じ部屋で。
アリアは、以前から気になっていたことを聞いた。
「なんで、相手に苦痛を与えない事にこだわるの?」
ルカはその質問を聞くと、眺めていたランプから目を落とした。
そして前を見つめながら静かに、そしてゆっくりと言った。
「人を苦しませることなんてしたくない。私も苦しんで死にたくない。」
そう言い終わると、うつむいてしまった。
「死にたくない」
アリアは驚いた。誰もが持つ赤裸々な感情を、ルカが口にするなど信じがたかった。
ルカは、そんな感情とは縁遠い人間だと思っていた。
うつむいてしまったルカに、声をかけるべきか否か迷っていると、さらに「執行人だなんて知ったことではない。生きるためにやっているんだ。」と、続けた。
そして最後に、斬ることしか生きる術を知らないと、消え入るような声で言った。そして、そのまま黙ってしまった。
アリアは自分の興味本位のために、彼女の中の触れられたくない所に触ってしまったことに、申し訳なさを感じた。でも、彼女の人間的な側面が見れたのはうれしかった。
これまでの距離感が一気に縮まったように思えた。
雨が屋根をたたく音が強くなった。木々のざわめきが聞こえる。風も出てきたようだ。
アリアはルカを見つめた。執行人は監察役の長が密かに任命するが、辞退もできる。しかし、正義の最後の砦、最強の剣士という栄誉から、辞退する者はほとんどいない。アリアもそうだった。
では、彼女は何でここに居る。
彼女が望むなら、もっと心の声を聞いてあげたい。そして彼女の事を知りたい。しかし、まだ、その時ではない。
アリアは横に座ると、ルカに飴玉を差し出した。
ルカは顔を上げて手のひらの飴玉を見ると、ありがとうと、その手からとって頬張った。アリアはルカを優しく見つめた。
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