第2話子どもを殺戮兵器に変える方法

  目を開ける。目の上にはよく知った天井。窓からは晴天が見える。いつも通りの朝だ。

 体を起こす。ベットがきしみで音を鳴らす。至って体に不調は無い。ただ、身体中に焼けこげたような痛みが残るだけ。


(…なんで死んだんだっけ? あぁ確か上からミサイルが落ちてきて死んだんだよな。それにしても、身体中が――熱い)


  時計を見ると、丸一日 時間が飛んでいる。俺達人間は、この魔法都市で死ぬと生き返る。だが【生き返るまでに一日かかるのと、死因の痛みが起きても少しだけ残る】というデメリットがあるのだ。

 今回はミサイルの爆風で死んだので、今は身体中がマジで熱い。まぁこれも一時間もすれば消えるんだがね。


  …歪んだ鳥かごだ。不完全にも程がある。だが、それもこれも全ては【あの事件】からだ。


 "現異融合事件"


  俺が生まれるよりもずっと前、異世界と地球が繋がる現象が起こる。それを現異融合事件と呼ぶ。

  なんで? どうして? って言葉は禁止だ。俺にも分からんし、異世界人にも分からんらしい。


 話を戻そう。ゲートが結ばれて一番最初に起きたのは――


『虐殺』だ。

  エルフや、魔族がゲートから世界に侵略を始めたのだ。もちろんこちらも黙っていないので、現代兵器を使って応戦したが、相手には【魔法】というチートがある。

 そして、世界は魔法に完全敗北した。


  【ピピッ】


  持っていた携帯がなる。が、かかった。

 画面を開く、俺は溜息をつきながら文字を打つ。


 "

 マール「迎えに行くから、十分以内に支度を済ませておきなさい」


 暁「いや、支度って。何も聞いてないし、俺が暇じゃないかもしれんぞ?」


 マール「暇でしょ? あと七分ね」


 暁「へいへい」

 "


 ◇◇◆◆◇


  身支度をして、靴を履いて外に出る。昨日は死んでて一日ぶりの陽の光だからか、少しだけ眩しく感じた。

 今日は春だと言うのに少し寒い。桜が咲く季節なのに、何もめでたいことはなく、今日という日は進んでいた。


  そういえば昔の日本では、春にお花見というものをやっていたらしい。写真でしか見た事ない行事だが、良いなと思った。今それやったら二時間後に生きている自信が無い。

  命の危険も無く、ただ楽しめる。そんな夢の時代があったのが羨ましい。


「ほらほらー置いてくよー」

「待ってよー。お兄ちゃんー」


  空を飛んでいる子供兄弟がいる。近くを通られ、風がなびき、俺の服が揺れた。

 魔力を持っていれば、、異世界人なら俺も飛べたのかな?


  てか目的地が遠い!! 俺が行くのはショッピングモールだ。しかも、絶対買い物だもんなトホホ。


 ◆◇◇◇◆


  さてと、そろそろ目的の場所だ。…なんか空気が冷えてて嫌な予感が…当たったな。


「ん? あら。遅かったじゃない暁。遅刻はしてないけど、私を待たせたのなら遅刻よね?」


  ――話は少し戻り、現異融合事件に戻る。そこではエルフや魔族が侵略をしたと言ったが、異世界から来たのは【敵】だけでは無い。異世界に住んでいた、奇しくも人間と同じ生命体は、直ぐにこの世界と同盟を結び、助け合う事を約束した。

 名を異世界人オリジンと呼ぶ。そして今話している女はそれに該当するのだ。


 名前:オルガマリン・マール・ハート

 性別・女

 髪:白髪で長い

 瞳・緑

 歳・不明

 身長169

 体重:書いたら殺すわよ

 好きな物:特に無し。全部好き

 嫌いな物・エルフ!!!



「…まぁ百歩譲って遅刻でもいい。それより聞きたい。お前はこの広場で?」

「…何って? ただバカを懲らしめただけだわ?」


  俺の目の前には、大きな氷山がたっていた。今もパキパキと音を立てて大きくなっていく。その氷から発生する冷気は、遠く離れている俺ですら寒いと感じさせるほど冷たかった。


「バカって、ん? こいつらは」


  恐らくこの氷山の中にいるやつらが、バカなのだろう。そして俺はこいつらを見た事がある。


「あら? 暁の知り合いだった? 悪い事したわね」

「いや? 今日お前に出会う前に、めちゃくちゃなスピードで、道路を飛行していたバカ兄弟だ」

「あら、その情報は助かるわね。私もこいつらを氷漬けにした理由ができたわ。まぁそもそも、氷漬けにしたのも、こいつらがその飛行魔法で突っ込んできたからなのだけど」


  はぁ、バカにも程がある。火の中に入る虫だよこれじゃあ。

 まぁこの兄弟達にも同情の余地はある。運が悪かったとしかいいようがないけどね。


  オルガマリンの特徴とも言える銀髪ロングで目はオッドアイで赤と青。背丈は170いかないくらい。自分の氷で作ったカチューシャをつけている。

 そして特徴的なのは、魔法の後遺症かわからんが、夏だろうが、冬だろうが、熱帯だろうが、マグマだろうが何処でも白い息が出る所だろう。


「それでマール、この兄弟は…殺したのか?」

「はぁ? 何言ってるの?」


  あぁ、流石に良心があったか。まぁぶつかってきそうだから殺すってのも――


「殺したのに決まってるじゃない」


 ――そういうと、マールは人差し指を少し動かす。すると氷山が割れて中に入っていた兄弟も一緒に粉々になった。

 あらら、まぁ明日には復活するからいいだろ。まぁマールに殺されたから、刑務所の中だろうけどな。


「てめぇら! 動くな! この女がどうなってもいいのか!」

「キャアア! 助けてぇー!」


  次から次へとなんだ? 今度は人質か、この国は忙しいったらありゃしない。飽きないという名目においては、右に出るものは無いと思うがね。

  とは言え見たものは助けなきゃいけない。それにしても時代遅れだな。人質なんて意味無いだろ、どうせ死んだって生き返るんだから。


「はぁ…仕方ない。マールお前は…どうした?」

「……」


  何も答えない。ただナイフを持っている男を見ている。あぁ男と言っても体格と声から、顔はフードで隠してあって分からない。…あぁそういう?


「男、フードを取りなさい」

「んだ? って、その銀髪に氷魔法、オルガマリンの人間か。嫌だねぇ。なんでこう運が悪いんだか…」

 

  男はそう言ってフードを取る。黒髪にボサボサの肌。それはいい、ひとえに特長は耳に集中する。【長耳】だ。

  ショッピングモールにいた人間に衝撃が走る。


「エルフ、残念ね。私はオルガマリン・マール・ハート。オルガマリン家の正当後継者よ。その責任を持って貴女殺すわ。安心しなさい。抵抗しなければ楽に殺してあげる」


  マールの手からさらに冷気が増す。先程まで何も影響のなかった床に少しづつ薄氷が生えてくる。

 一歩歩く。その踏みしめた床下が氷震を起こし、少し揺れた。今のエルフは死神に見られる獲物でしかない。運が悪かったな。他だったらもうちょい劇的に死ねただろうに。


  だがエルフも人質を離してナイフを構える。どうやら簡単には死ねないらしい。


「…抵抗はするなと言ったはずよね?」

「あぁ言われたな。だが俺は忠犬じゃないんでね。猛犬は犬らしく、最後まで遊んでお前を殺す」

「後悔するわよ…!」

「した事ねぇな!」


  エルフはマールに向かって突撃する。相手が近距離も遠距離も得意と見れば絡めてもクソもない。即断即決だ、いい判断だな。


  「残念ね」とマールが一歩強く足踏みをする。すると地面の薄氷が床を伝ってエルフに向かっていく。

 まるで伝染するウイルスのように、意志を持つように追いかけていく。


氷結ひょうけつ魔法 薄氷うすらい


  少しづつエルフの逃げ道が無くなる。彼も巧みに逃げ、柱やモニュメントの上をスルスルと走る。

 …トカゲみたいだな。


「チッ、ちょこまかと! 死ね!」


  マールが手を振る。すると薄氷から、大きな氷山がふたつ生えてくる。先程の兄弟もこうやって殺したんだろうな。

 エルフはそれに巻き込まれ腕が氷に包まれる。


「クソ! この程度の氷!」

「…どの程度だ? そのまま体の芯まで凍らせてやる」


  少しづつエルフの体が腕から氷に包まれていく。

 勝負を急ぎすぎだと思うか? 否。相手はエルフ、マールと同じ【異世界出身】だ。つまりは――相手は間に合ったらしい。



火炎魔法かえんまほう!」


  エルフの手から氷が融解する。異常な温度で氷が解け、水蒸気とかし、霧が出来る。

 エルフは内側から燃え始める。おそらく体を火力装置とする魔法か?


  お互いが、殺気を持って相手を殺す。これこそが殺し合い。どちらが勝っても遺憾無し、勝った方が正しい覇者だ。


「…お前を殺そう。マール・ハート、」


「エルフの癖に礼儀があるのね。…こい、害虫。お前の全てを叩き潰して私は責務を全うする。遺言は言えた? じゃあ――」


  エルフは【熱】マールは【冷気】を手に集める。それを相手に放出して決闘の合図とする。


「「――死ね!」」


  お互いに一撃が衝突する。熱と氷、その水蒸気は一気に膨張して、ショッピングモールにいる人間を、思いっきり吹き飛ばした。

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