第11話 間話:家康を可愛がる会
歩道橋から飛び降りた多重債務者。
哀れバス運転手はハンドルを切り、横転しビルへ飛び込んだ。
……こうして未曾有の痛ましいバス事故が起きた。
俺は、うだつの上がらないサラリーマン。
たまたま営業先へ出掛けていたところ、件の事故でおっ死んだ。
そのまま死後の世界に行くのかと思ったら、今の今、バス時刻で死んだ人間全員を過去に転生させると神でなく仏さま言われている。
……まるで意味が分からない。
まず仏さま、名前もわからぬ仏である。
次に飛び出した過去への転生って……?
三途の川の河原で、俺たち死んだ人間は困惑の極みにあった。
■■■
タバコが吸いたい。
酒が飲みたい。
俺はありがたい話を聞きながら、そう思った。
「家康公はやり過ぎたのです」
仏は延々と語る。
俺たちバス事故の死人は全員頭に疑問符を浮かべていたと思う。
下流と上流が見えない河原で仏の声が響く。
「天下統一はかすめ取ったもの。ドラマもない」
それ主観じゃないですか。
俺はそう思ったが空気を読んで黙っておく。
「なので、家康公は可及的速やか明朗に徹底的に『わからせ』られねばなりません」
酷い三段論法だ。
ズルした、ドラマがない、だから酷い目にあわせる。
無茶苦茶なロジックだろう。
「と言うことで、皆さまは戦国の世へ転生してもらいます」
げんなりする皆。
ワクワクしているのは、ごくごく少数だ。
俺は前者。
なんで厳しい過去へ行かねばならんのか。
「ご安心ください。我々、家康を可愛がる会に抜かりはございません」
酷い会の名前だ。
「転生先は、みなさまの地元の英雄本人、またはその近くとなります。物理的な近さだけでなく、身分なども加味します。もちろん、健康と言語チートも与えましょう」
俺は益々、仏様を不審に思った。
それは俺だけではないようで……一人の男が挙手してから発言した。
「一つ、よろしいでしょうか? 家康を可愛がることは理解しました」
「ええ、その通りです」
「であれば、幕府を開くのが誰であってもよいと?」
「もちろんですとも! 天下は、誰が獲ろうが良いのです!」
ざわめく周囲。
仏は言う。
「さあ、挑んでみませんか? トクガワを否定する為の戦いへ」
そう言いつつも、実際は強制だった。
俺らは気付けば転生させられた。
……そうして俺も転生した。
場所は……そうだな、中部地方。
しかも美濃の国だ。
となると転生先は織田信長の義理の父、斎藤道三の縁者だと思うだろ?
俺が転生したのは、よりによって古田織部の庶兄であった。
……茶人の兄に転生して意味あるのか?
俺は黄昏ながら、やむなく戦国の世に馴染む羽目となった。
そうして死んだ目のガキとして有名となった。
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