第10話 歴史改変されちゃってるんですが!

天文17年(1548年) 尾張国 熱田 加藤屋敷


 全てが明らかになったのは、馬鹿騒ぎが終わった後であった。

 それも、わしが知れたのは加藤殿が丁寧に話してくれたからだった。

 

 加藤殿と、関係改善してるって? 


 そりゃそうだ。加藤殿に儲けの種を出したのである。

 笹から茶外茶が出来ると思いだした、わし。

 加藤殿と組んで名前を秘してから【尾張微甘茶】として売り出した。

 石臼でひいて笹を粉末までしてるから、ほぼバレない。


 でもって高価な茶葉をかさまし出来るから加藤殿はニッコリ。

 わしも金が入ってニッコリである。


 脱線したが、加藤殿の話を、よくよく聞くと、わしは首を傾げそうになった。

 なんとか我慢して聞いたが、最終的には理解したくなくなった。

 

 それでも何とか理解すると、このような話であった。


■■■


 どうにも父は今川と織田を天秤にかけた。

 その結果、父は織田側ではっちゃけることにしたらしい。

 お家大事より何よりも、父は自身の自由を選んだのだ。

 

……その為に父は今川を利用して狂気の行動に出た。


 まず父は守備兵すら残さず本拠地、岡崎を捨てた。

 正しくは今川へ本拠地を預けたとされているが、実質捨てたようなものだ。

 で、そのまま今川方として安城城を攻略しやがる無茶をやった。

 んでもって、城を攻略し凱旋中に、今度は唐突に今川を裏切った。

 そうして起きた混乱の最中にサクっと水野を滅ぼした父。

 彼は信広を餌に、堂々と織田側へ僅かな家臣と降伏。

 

……意味不明すぎる。


 何故兵が従ったとか、

 どうして水野を滅ぼしたのか、

 どんな魔法で安城攻略が出来たのか、

 そもそも織田が許したのか、


 理由も仕掛けも、今はわからない。


 だが事実として父は水野家をついでに滅ぼし、織田に恭順を示した。

 なお、そこで信広を手籠めにし、無理やり子供をこさえたらしい。


……己も半分こされるのではと恐れていたらからの乱心なのだろうか? 


 なお嫡男は信広との間に生まれる子にする。

 と、父は言い出してるらしい。


……あれ、わし嫡男じゃ? ていうか、この父の言い方だとヤバイじゃん。


 蛇足だが加藤殿は、そこら辺の噂も教えてくれた。

 なんでも目麗しい織田の女武者として信広は有名だったんだと。

 そんな彼女を、広忠は何が何でも手籠めにしてやりたいと常々思っていたそうだ。

 よって臣従の証としての息子は、もう殺してもいいそうな。

 で、信広に産ませる新しい子を認めて欲しい、らしい。


……そんな話をわしは加藤殿に教えて貰い頭を抱えた。


 こりゃ他の人質らに聞かせられんわ。

 というか手籠めにしたいと公言するとか直結厨より酷い。

 おまけに父親による歴史改変。


 わし、どうしよ?

 

 わしは必至で考える。

 今回の戦、父は博打を打った。

 おそらく裸一貫の再出発が念頭にあったのだろうと推測する。

 まず前提から確認しよう。


 今回織田氏側は岡崎を下すことを目的として軍を起こした。

 それに対する今川。

 わしの師でもある太原崇孚雪斎が出陣……と、ここまでは良い。

 前世でも同じだ。


 問題は、父の行動と三郎殿の発言だ。

 あの時は流してしまったが、三郎殿のあの発言。


―――のう竹千代、我が父は三河を下す


―――さすれば、三河に張り付かせた信広姉上も外れよう


 それら考えると父はあの時、内内で織田に降伏する予定をしていた。

 その可能性が非常に高い。

 

 思えば奇妙な話だものな。理由なく本拠地を捨てるなど。

 

 そしてわしが不要と言う意見がここで納得できた。

 子殺しは理解する。わしも信康ぶっ殺してるのだ。

 父もわしを人質に出すのではなく、殺して新しい嫁って手もあった。


 それを今までやらなかったのは? まだわしに利用価値があったからだ。 


 わしに流れる水野の血が、まさにそうだ。

 わしは地元で存在感のある水野の血を引きつつ岡崎の旗印である。

 だからこそ父の行動を理解してしまう。


 元より三河は細川・斯波のやらかしで守護の力が弱かった。

 だからこそ、牧野、戸田、松平、水野と争ってきた。

 

 故に人質にするにも名のある松平の嫡男がいい、つまりわし。

 あと、その周囲は人質として織田に対しまだ有効だった。


 だが、父はこの現状に満足しなかった。


 紐付きになるにしても、再出発したい。

 どうやら父は臆病な性格だが思い切りがよいのだろう。

 祖父から継いだ野望より、自分が大事。

 うるさい年かさどもの下につきたくない思いより、死にたくないらしい。


 だからこそ、今回の博打を打ったのだろうか?


 今川、そして三河の諸勢力。

 頭を押さえつける全てから脱出したいがために、武威を示してから織田に降る。

 本拠地を捨ててまでして城を取った武将の恭順だ。

 誰も無碍にしないだろう。

 ついでに織田の姫を奪い、手土産に水野を滅ぼした。

 織田側の人質まで手に入れる周到さまである。

 でもって水野を滅ぼせば、預けた人質も無用のものとなる。

 

……今川の下に付くでもなく、織田に頭を下げつつ武威を見せる、ねえ。


 改めて、考えても滅茶苦茶だ。

 いくら父が自活する為とは言え、お先真っ暗な手段を何故取ったのか?


 今川からしたら、恭順すると見せかけての裏切りだ。

 確実に殺しの対象となっただろう。


 父は目論見通り周囲に、そして織田に武威は見せた。


 だからこそ、父は皆から警戒されるだろう。

 織田家中も父を信用しまい。

 特に今川勢は強い嫌悪感を父へ抱くはずだ。

 そして今川の宗家筋である吉良は言うまでもない。

 名目上は守護である斯波や土岐は……どうであろう? 


 本人に問いただしたわけではないので謎は残る。


 なぜソレで許された、のかとか。

 どうして、少なくない土侍が従ってるのか、とか。

 どうみてもお先真っ暗なのに何故強気なのか、とか。


 あれこれ考えるものの、ただ一つはっきりしている。


 父は、このせいで武将として有能さを見せ続けねばならなくなった。


 なんにせよ、わしも振舞を考えねばならんか……

 とは言え今のわしに出来るの、あんまりない。


 親に頼るとか(ママ上には手紙した)。

 更に加藤殿に金をたかるとか。

 父のカラクリの裏どりもしたい。

 

 あとは、不幸のお手紙かな? 瀬名姫を利用するとか。


 既に稼いだ金で行商人に頼んだものもあるけど。

 どうなるかな? 


……まあ喜ばしい情況じゃないわ、糞が。


 織田が父を殺す過程で……わしも殺すのもありうる。

 と言うか現在進行形でマズい。


 結構現実的なセンである。

 いっそ、今川さん家に行くのをパスしてみようか?

 岡崎を取って…ワンチャンスはありそうだ。

 二度目だから勝手は分かってる。

 面倒な駿府スルーもありだと思えて来た。

 だが、この手を取るとなると駿府での人脈と京との伝手がなくなる。


 また、わしはいたいけな稚児である。


 今川の暗黒坊主と、信玄坊主を野戦で倒せる気がしない。

 でもって記憶と経験が活かせないネクストステージとゆー……


「どうするか…」


 そうわしが悩んだ瞬間、スパンと引き戸が開いた。


「竹千代様! イカ合戦しよう!」


「ム」


 イカ合戦とはイカゲームのことだ。

 ポコペン、けびどろ、イカゲームと我々の間で大ブレイクの死亡遊戯だ。


「うーし、わしもやるぞ!」


 めっちゃイカゲームして皆を泣かせてやった。 




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